ニューイヤーラブ



(虎徹さんが泥酔している…)
 バーナビー自身、多少酔っている自覚はあるが、虎徹のこの姿はいったいどうしたことだろう。幻覚でも見ているのだろうか?
「バニー、バニー。似合う?」
「…………」
 どっかりと太股に乗りあげながら、虎徹がへらりと笑った。齢三十七には見えないあどけない笑顔はとても可愛らしい。
 可愛らしいのだが、あまりの衝撃にバーナビーは二の句が告げずにいた。
 今日はニューイヤーイブで、ヒーロー仲間が集まり慰労会を催した。珍しいことに出動要請もなく、未成年者を帰宅させたあとはアルコールを入れて、深酒をしたのだ。
 まんべんなく酔っ払い、いい気分になったところで解散したのが三十分前。新年を一緒に迎えたかったバーナビーは、虎徹をどう誘ったものかと思案していたが杞憂に終わった。虎徹は自ら先導してマンションのドアを潜ったのだ。
 バーナビーは虎徹の姿をまじまじと眺める。これは確か、プレゼント交換のときにネイサンがカリーナに渡したものだ。プレゼントはパーティーの席上で開けられたから覚えている。
 どういう経緯で虎徹が手にしたのかは知らないが、おそらく、恥ずかしいとかサイズが合わないとかいう理由で押しつけられたに違いない。
 本来なら拒否するところだろうに、いかんせん虎徹は女子供には優しいのだ。突っ返すことはできなかったのだろう。
「あれ? 似合わねえ?」
「…お似合いですよ」
「だろー?」
 裾をつまんでひらひらとはためかせる。薄く透けた布は桃色で、肩紐や縁取りは黒のレースでされていた。
 男が纏うにはやや窮屈なサイズだが、伸縮性があるらしいそれは紛うことなく女性用の下着である。仄かに透ける乳首も艶かしい、ベビードールというやつだ。
「下はなかったんですか?」
 思わず訊いてしまったバーナビーだが、もはや理性は強制終了だ。
「んー?」
 虎徹はいつものスラックスをはいている。プレゼントにしたからには、下着はセットだったはずなのだ。
「バニーちゃん」
 虎徹がバーナビーの下唇を舐めてくる。抱きすがり密着した股間は膨らんでいた。
「いやらしい。これ着て興奮したんですか?」
「ちげぇよ。バニーがエッチな目で見てるからだよ」
「へぇ? 僕に見られて勃起したんですか」
「うん。…バニーだって、勃ってきてるだろ?」
 虎徹の手が服の上からバーナビーの股間を丁寧に撫でる。そこはあっという間に張りつめて、苦しげに見えるほどだ。
 バーナビーは虎徹のスラックスのボタンを外した。そこは下着からすでに頭を覗かせていたが、いつもと様子が違っている。
「…膝立ちになって下さい」
「いーよ」
 腰に跨がったまま虎徹が膝立ちになる。バーナビーがスラックスを下げると、申し訳程度に股間を隠す揃いのショーツが現れた。
「ちっちゃくてさすがに入んねーかなって思ったんだけど、両方紐だったからなんとかなったぜ」
「……良かった…ですね」
「恥ずかしいからあんま見んなよ〜」
 バーナビーは掛けていた眼鏡を外して、照れくさそうに笑う虎徹を抱きしめた。愛しいとはこういう感情をいうのだろう。
 どんな顔をしてなにを思いながらこれを身につけたのか。取り敢えず脱がす前に、カメラに収めなければならない。
 体勢を入れ換え虎徹を長椅子に横たえる。スラックスを脱がせて長い素足を晒させて、手近にあった携帯電話で写真を撮った。酔っている虎徹は横になったことで眠気がさしたのか、咎めることもせずにぼんやりしている。
「虎徹さん」
「おー…?」
「ニューイヤーの一番最初にするセックスのこと、日本じゃなんていうんでしたっけ?」
「んー、…姫はじめのことか?」
「ああ、それです」
 イブは過ぎて、日付はニューイヤーを迎えている。
 可憐なベビードールを着た虎徹は、バーナビーにとってまさに姫も同然だ。
「僕のお姫さま。ベッドにお連れいたしましょう」
 膝裏を抱えて抱き上げれば、虎徹が首に腕を回して身を寄せてくる。
「バニーちゃん、酔ってんなー」
「あなたほどじゃないですよ」
 ニューイヤーイブには奇跡が起こるというが、これもある意味奇跡に違いない。
(ハッピーニューイヤー。世界はこんなにも輝いてるんですね)
 アルコールには呑まれなかったが、虎徹による性的興奮で限りなく泥酔に近い状態に陥ったバーナビーだった。





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