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「よし、全てのペアが決まったな」
「合宿は早くも3日目!早速どのペアも練習に取り組んでるわね」


昨晩作成したファイルを開きながら俺と林檎は練習棟を見回りする。ファイルの中身は早乙女学園全生徒のデータ一覧だ。ペアが見開きになるようにプロフィールが綴られている。

ペアの提出締切に設定していた2日目の夜、無事に全生徒がペアの相手を申し出た。デビューに向けてどの生徒も、ようやくスタートラインに立ったという訳だ。さて、これからコイツらがどう成長していくか…見物だな。指導しがいがあるってんだ。


そして3日目の早朝、俺達は全生徒に【合宿中の課題のひとつ】を言い渡していた。






───

「合宿中のペア課題だ!全生徒に共通の課題曲を配布する」
「課題曲はメロディラインだけで歌詞は付けられていないわ。アイドルコースの生徒は作詞を、作曲家コースの生徒は編曲をして練習に取り組んでちょうだいね」


全てのペアにCD音源と楽譜を配った。ザワザワと生徒達が騒ぎ出す。それもそのはず、曲はいたってシンプルな物だ。もっと難しい課題をこれまでいくらでも取り組んできた。何故このタイミングで…とでも思っているんだろう。


「先生、質問があります」
「なんだ水谷」
「キーの上げ下げやテンポの設定も自由ですか?」
「…もちろんだ、さすがだな。アレンジに制限はない。相手の特性を100パーセント活かす編曲をしてくれ」


今回の狙いはこれだ。
相方の特徴を作曲家コースの生徒が掴むこと。それをアイドル自身も自覚すること。


「だからあえてシンプルな楽曲で、アレンジの幅を効かせられるようにしたのね〜。さっすが学園長!」
「あぁ。今回の課題は、卒業オーディションの楽曲作成にも役立つだろう」
「それにしてもー…ペアの組み合わせ、中々面白いわよね。まずはかおちゃん!」


林檎の視線の先には水谷香織と蜂谷が談笑している姿があった。クラスも同じで部屋も同室のコンビだ。


「あの二人は普段から仲も良さそうだからな。まぁ…俺からしたら予想通りだ」
「なるほどね。あと私が驚いたのは春ちゃんかしら!お相手は──」


少し進んだ先に見えた七海の横に立つのは、

…一ノ瀬トキヤ。ここでレコーディングテスト1位の生徒がお出ましか。これは俺も予想外だった。


一ノ瀬は楽譜を指差しながら、何やら厳し気な表情で七海と何かを話しているようだ。それを必死にメモする七海の顔は、焦りながらも嬉しそうに見えた。


「(確か七海はHAYATOのファンだったか…)」

まぁ…そこには今は触れないでおいてやるか。



「そうだな。一ノ瀬はてっきり、水谷兄辺りと組むと思ってたんだがな」
「レコーディングテスト1位の二人ね。それが覆るのもまた、面白いところよ。春ちゃんはまだまだ伸び代もあるわー!注目のペアね」
「あぁ…そして今回一番驚いたのは──」





「翔、今のところ音程が違う!あとその前のフレーズもリズムが甘いし、音の切り方も雑。最初からやり直し!」
「わ、わりぃ…気をつける…」
「あと…ぷっ、歌詞の…くっ…センスが…」
「オイ何笑ってんだよ直希!」
「一人称…俺様って…っ」
「わーらーうーなー!」


一際騒がしい二人に目をやると、俺にとってはお馴染みのSクラスの顔──

そう、今年一番のサプライズは水谷直希と来栖がペアになった事だった。


水谷の実力は申し分ない。現時点では優勝候補の筆頭だ。実際多くの奴らにペアに誘われていたようだし、選択肢は沢山あったのだろう。

まさか、その中で…あの来栖を選ぶとは。いや決して悪い意味ではない。あくまで意外だっただけだ。


「そうそう!なおくんは正直驚いたわ〜!翔ちゃんも楽しみな子ではあるんだけどぉ…」
「俺もまぁ、大方同意見だ」
「リューヤはなおくんに聞いてる?翔ちゃんをペアに選んだ理由」
「……」


林檎の言葉に、思い出すのは昨日の朝のこと。朝一番で水谷は来栖と一緒に俺の元へやって来た──。






───




「水谷」

二人からペア結成の報告を受けてから俺は、来栖に先に戻るよう伝え水谷をその場に残らせた。「何故自分だけ?」と言いたげな顔をしている水谷に、俺は率直な感想と質問を投げかけた。


「何故来栖を選んだ」
「へ?」
「言い方は悪いが、お前なら選び放題だっただろう。来栖は正直技術は発展途上だ、お前が選んだ理由がいまいちピンと来なくてな」


俺の質問に、水谷は顎に手を当てて考え込んだ。

…オイオイまさか適当に決めたとか言うんじゃねぇだろうな。こいつに限ってそんな事はねぇだろうが…。俺はひとまず水谷の返答を待った。



「…んーと」
「………」
「一番可能性を、感じたからですかね」


それが、水谷からの答えだった。



「…意外だな。お前が可能性とかいう曖昧な理由で、オーディションに臨む大事なペアを決めるとは」
「自分でも不思議です。何故でしょう」
「…まぁ良い。お前には期待してるからな、もちろん来栖にも、お前の妹にも」


頑張れよと肩をポンと叩けば、水谷はいつものように余裕のある笑みを浮かべた。






「…ふ」
「やだもう!何思い出し笑いしてんのよ」
「うるせぇな、ほっとけ」


合宿は早くも3日目、中盤に差し掛かった。だが課題は山積み…これからが本番だ。

さて、こいつら生徒は…無事に一週間の合宿を乗り切れるだろうか。




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