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「じゃあ最後はなおくん作曲のチームね!」
月宮先生の合図と同時に、翔ちゃんたちがステージの中央まで歩く。もうすでに出番を終えた私達は、客席に座ってその様子を見学している。
私から見ても、今回のなおくんは珍しく作曲に苦労していたように思う。テーマがテーマなだけに…やっぱりさすがのなおくんも方向性に悩んだのだろう。だけど、翔ちゃんから様子を聞いた時に、
「全然問題ないぜ!テストの日、楽しみにしてろよ?」
なんて自信満々に答えていたから、きっと上手く乗り越えたのだと思う。
しん、と静まり返る講堂。皆が固唾を飲んで、3人の歌い出しを待つ。
「さぁ…お前はどう解釈した水谷」
期待を込めた眼差しで、日向先生が呟いたすぐ後に、ポーン、とピアノの鍵盤が鳴った。
ピアノの伴奏……優子たちのグループみたいにバラードで攻めて来るのかな、そんな風に思ってたけど流れてきたのは──
意外すぎるサウンドだった。
「……ほぅ、そう来たか」
「これは、昭和歌謡でしょうか」
「ううん違う、これは──」
ピアノと一緒に聞こえてくるのは、三味線や太鼓の音。私より先に楽しそうに口を開いたのは月宮先生だった。
「…演歌ね!」
「え、演歌!?」
皆が驚いて一斉に声を上げる。ステージの上の三人はそのサウンドに乗せて、美しいメロディを堂々と奏でている。
どこか切なくてでも色っぽくて──ちょっと過激なんじゃないか思うくらいの歌詞も、更にそれを引き立てている気がして。
すごい……!翔ちゃんを始め、セクシーな印象がなかった一十木君と聖川君が、まるで別人のように色っぽく見えてドキドキしちゃうくらいだ。
───
「なおくんは次のテストでどういう曲書いたの?」
「そんな簡単に教えたらつまんないだろ?」
「うーん…じゃあヒントだけでも!」
テストの少し前、なおくんとそんな会話をしたことを思い出す。なおくんは少し笑って、こんなヒントを教えてくれていた。
「最初のテストで残したかったのはインパクトだった。じゃあ2回目のテストでは、先生は俺達に何を求めると思う?」
「…1曲目はみんな、比較的自分らしさを全面に出していた気がする。だから今度は──」
「そう、意外性だよ」
そういう意味では、今回の顔ぶれとテーマはピッタリだと…なおくんはそう話していた。
曲が終わると同時に、講堂に響く拍手の音。
私も手が痛くなるくらい、たくさん手を叩く。
やっぱりすごいなぁ、なおくんは…。その才能にはきっとこの学園の誰も敵わない気がする。双子の兄なのにちょっと嫉妬しちゃうくらい。でもやっぱり誇らしい。
それに翔ちゃんも、すごい。最初のテストの歌は聴けなかったけど、今日の歌は自信に満ち溢れていて、引き込まれるくらいかっこよかった。
「皆ご苦労だった!これで全グループのパフォーマンスは終了だ」
「それぞれテーマに沿った素晴らしい楽曲、そしてハーモニーだったわ!」
講堂のステージで全員一列に並ぶ。日向先生、月宮先生の講評を受けて、いよいよ学園長から結果が言い渡される時が来た。
「それでは結果の発表を行う!」
「追加テストの結果ハー……」
ごくり、と皆で息を呑む。
静寂と緊張感が包む中──きらーんと学園長のサングラスが怪しく光った。
「どこのグループもスバラシイ!期待以上デース!!ミンナ1位ナノナノヨー!」
ズサーッ!と全員一斉に転ぶ。バラエティ実習だったら絶対褒めてもらえるレベルのコケっぷりだ。成績を競うはずのテストでまさかの結果だ……大多数が固まって何も言えない中、最初に声を発したのはなおくんだった。
「ぜ、全員1位って…何のために競わせたんだ……!」
「You達のハーモニーを聞いてみたかっター…それだけの話デース!」
「こんにゃろ……人がどれだけ苦労したと思ってんだ!」
「なおくん、口悪くなってるよ」
「うるせ」
「まーまー皆!顔上げて!」
パンパンと両手を叩く月宮先生の明るい声に、溜息を吐いた私達はパラパラと立ち上がる。元々、せっかく仲良くなれた皆と競い合うのはあまり良い気分ではなかったけれど……それでもこの結果はさすがに拍子抜けしてしまう。スカートの埃を取ろうとはたいた所で、日向先生と月宮先生が視線を合わせて頷いたのが見えた。
「確かに、それぞれ良さを生かした良いパフォーマンスだった。間違いなくお前らは、全生徒の中でもトップレベルの実力だ」
「あくまで現時点では、だけどね。それでも皆よく頑張ったわ!偉い偉い!」
「な、なんか誤魔化されてるような気がするぜ……」
翔ちゃんが帽子を被り直しながらポツリと呟いた。うん……でも、
「(何だかんだ、良い経験だったかも)」
梅澤くんの時もそうだったけど、今回春ちゃんが書いた曲を歌えて、また新たな自分の一面が見つけられた気がする。複数人でハーモニーを重ねることの難しさも実感出来たし。今回のテストは、私達にそれを分からせるための物だったのかもしれない。
「それじゃ寮に戻ろっか」
「そうだな。明日までの課題もあるし──」
「待ってクダサーイ」
「?」
「そこの二人……水谷ツインズはココに残りなサーイ…」
なおくんと顔を見合わせて一緒に首を傾げた。先に寮へと戻っていくみんなを見送ってから、私となおくんは再び学園長の前に立つ。
「You達には更に特別二ー…合宿までの特別課題を言い渡しマース」
「夏休みの……」
「合宿までの?」
疑問は増えるばかりだ。
二人で頭の上にはてなマークを浮かべながら、私達は学園長に出された[新たな課題]に耳を傾けるのだった。
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