ヒールの高さ

翔ちゃんとデートをする時は、決まってぺたんこの靴を履いている。

翔ちゃんの身長が161cm、
私の身長が159cm。

ヒールの靴を履いたら、翔ちゃんの身長を超えちゃうもの。


私がヒールを履くことで私の方が身長が高くなったら…

優しい翔ちゃんは何も言わないかもしれないけど、きっとショックを受けちゃうから。

だから我慢して、ヒールは封印しようと決めていた。



「翔ちゃん!次はこっちのお店見てもいい?」
「お前なー、ちょっと買いすぎじゃねぇの?」
「いいからいいから!早くこっち!」

両手に荷物を抱えて呆れる翔ちゃんの腕を引っ張りながら、ショッピングモールを歩く。

そう、今日は翔ちゃんとお買い物デート中。
いつもお洒落で格好良い翔ちゃんに、こうして買い物に付き合ってもらって、服を選んでもらったりして。この時間が何よりの楽しみだったりする。


たくさんの荷物になっちゃったけど、文句を言いつつ、荷物を全部持ってくれる翔ちゃんはやっぱり誰よりも男前だと思う。


「あっ!可愛いー!」

次に入ったのは靴屋さん。
お店手前並べてある、ピンクのエナメルパンプスを手に取る。

「おー!いいじゃん!春っぽい!」
「ねっ!可愛いよね、欲しいなぁ…」

デザインと色に一目惚れした靴だけど、かかとを見ると、7cmはあるであろうヒール。
私はそっとそのパンプスを置いた。


「なまえ、買わねーの?」
「うん。やっぱりこっちのスニーカーにしようかな」

隣にディスプレイされていた白いスニーカーを手に取る。スニーカーなら履いたって何も気にならないから。


「お前スニーカーいっぱい持ってるだろ」
「そっか!だよねー、じゃあやっぱり我慢しようかな」
「そうか?あ、俺男物の方見てきていい?」


そう言って、今度は翔ちゃんの靴を一緒に見る。
翔ちゃんはこういう時あまり迷わずに、ビビッと来たものを買うらしい。

お気に入りのものを見つけたようで、早速買ってくるわ!と嬉しそうに話す翔ちゃん。


「会計してくるから、店の外で待ってて」
「分かった!」


翔ちゃんのお会計を待っている間、同じフロアで買い物をしている人たちをボーッと眺める。

楽しそうに歩くカップルの女の子は、みんな可愛いヒールの靴を履いていて。
翔ちゃんが彼氏であることに何も不満はないはずなのに、ほんの少しだけ切なくなってしまった。





「何ボケっとしてんだよ」
「翔ちゃん!無事買えた?」
「おう!」

翔ちゃんは靴屋の紙袋を二つぶら下げていた。
何かほかに買いたいものでもあったのかな、と思っていると。



「ほら!こっちはなまえの分」
「えっ…?」

手渡された紙袋の中から、慌てて紙の箱を開けると、そこには私が見ていたピンクのパンプスが入っていた。



「お前、それ気に入ってたろ?なまえの顔見りゃすぐ分かるんだよ」
「翔ちゃん、」

さすが俺様だろ?とニカッと笑って得意気に言う翔ちゃん。



「どーせヒール履いたら俺より高くなるからー、とかくだらねぇ事考えてたんだろ?」
「だって…!」
「んな事気にしなくていいっつーの!それに、俺様はすぐにデカくなる予定だからな!那月くらいに!」


それはさすがに盛りすぎだと思ったけど、笑って私の頭をガシガシ撫でる翔ちゃんが愛おしすぎて。



「翔ちゃんっ」
「うおっ!お前っ…ココ人前だぞっ…」


人目もはばからず、ぎゅっと翔ちゃんに抱きついた。
止めろと言いつつ、背中に手を回してくれる翔ちゃんは、背は少し小さいけれど、とっても優しい私だけの王子様だと思った。




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