ささやかなHappy new year

※ブルースターとかすみ草の番外編のような、そうでないようなお話
※短編としても読めます



「それでは!よいお年を〜!」


華やかな紙吹雪が舞ったと同時に、画面が暗くなって除夜の鐘の映像に切り替わった。
大晦日恒例の歌番組が終わると、いよいよ今年が終わりを告げるのだと実感する。暖房をしっかりかけた部屋の中で、甘いホットココアを一口こくりと飲んだ。


ゴーン、ゴーン、と画面の鐘が音を鳴らす。
ひとりで迎える年末年始は寂しいけれど自然と慣れてくるから不思議なものだ。



「紅白を最後まで観たのなんて久々」

ひとり呟いて、大きく身体を伸ばした。
実は、私が珍しくこんな時間まで起きていたのは、この番組が観たいがためだった。聖川くん──正確にはST☆RISHが出演すると知ったものだから、ついテレビの前に座り込んでしまったのだ。


出番が最後の方だったから少し眠気もあったけど、あの明るくて素敵な歌を聴いていたら、そんなものも吹っ飛んでしまった。


あと数分で、今年が終わる。



「…聖川くん、今日は遅くまでお仕事なのかな」

外は当然真っ暗だ。しかも今日は一段と気温が低いと聞いている。…こんな寒い中、アイドルって本当に大変だ。



家に着くのは一体何時になるのかな。ご飯、ちゃんと食べられたのかな。

そんな余計であろう心配をしながら、思い浮かべるあの人の顔。何となく、ふと自然にスマホの画面を点ける。


「……あ!明けた」

画面を見ると、既に変わっている年号。いつの間にやら新年を迎えたみたい。




「(我ながらあまりにも地味な年明け……)」


除夜の鐘が鳴っていたチャンネルから、音楽番組の特番にチャンネルを切りかえた。
画面はいっそう華やかになり、出演者が年明けを笑顔で祝福している。


12時……さすがに迷惑かな。
少し迷うけれど、伝えるだけ伝えたい。そう思った私はよし!と気合いを入れてもう一度スマホをタップした。


開いたLINEの画面で表示する聖川真斗の名前。

トーク画面を開いて、この間買った牛の可愛いスタンプを送る。あけましておめでとうございます、とメッセージ付き、おまけに牛が愉快に踊って動くスタンプだ。


「お仕事お疲れ様です。今年もよろしくお願いします…っと」


時間も時間だし、返事は貰えなくても全然良い。私が聖川くんに勝手に伝えたいだけだから。



さて、そろそろ寝ようかな。

もう一度身体を伸ばしてから、ココアの入っていたマグカップを片付けようとシンクへ向かう。

すると、バイブ音の鳴る私のスマホ。
メッセージだけかと思い、そのままにしていると、音が鳴り止まなくって、それが電話による物だとようやく気が付いた。


確認すると、まさかの名前が表示されている。
慌ててスマホを耳に当てながら、少しでも電波が届くようにベランダへと出た。


吹いている風が冷たく、私の頬を突き刺す。



「も、もしもし」
「みょうじさんですか?夜分遅くに申し訳ありません」


耳に優しく響く低めの声に、胸がドキドキと音を立てる。
まさかの、聖川くんからの着信。想定外の展開に、驚きが隠せないでいた。


「ぜ、全然大丈夫!むしろ私の方こそごめんなさい。夜にメッセージなんて送って…」
「いえ、嬉しかったです。ありがとうございます」
「……今、大丈夫なの?」
「メンバーと楽屋で年越しをしました。後ろが少し騒がしいかもしれませんが、お気になさらずに」


確かに、電話口の向こうからは聖川くん以外の声が聞こえる。随分と賑やかだからスタッフさんとかも一緒なのかな。

メンバーと楽しい時間を過ごしているのに、何故わざわざ私に電話を…?
そう問いかけようとする前に、聖川くんの声が私に届く。



「まだ起きていらっしゃると、確証が持てたので」

落ち着いた声で、そう告げられる。
確かに起きていたけど…でもわざわざ電話をくれるなんて、そんなの…調子に乗ってしまうじゃない。


「あの…」
「はい?」
「どうして、私なんかにわざわざ…」


賑やかな後ろの声に掻き消されそうなくらい、小さな声だった事だろう。けれど、聖川くんにはちゃんと届いていたみたいで、優しい声で答えを返してくれる。



「…何故でしょう、自分でも不思議なのですが」


聖川くんが一呼吸置いたのを聞いて、私は空を見上げた。今夜は満月──星も光っていて、なんて綺麗な空だろう。



「あなたの声が、聞きたくなりました」



そんな夜空に負けないくらい、綺麗で、それでいて優しい声。
胸に響く、聖川くんの声。

なんて答えていいのか分からなくて、少しだけ照れくさくて。ありがとう、と小さく呟くのが精一杯だった。



電話の向こう側で、聖川くんの名前を呼ぶ誰かの声が聞こえる。それに対して、聖川くんが「今行く」と、いつもの様子の声で答えた。


「みょうじさん、ではそろそろ戻ります」
「うん、あの…わざわざありがとう」
「いえ。今日は寒いので、暖かくしてお休み下さい」



「おやすみなさい」

赤の切電ボタンをタップして、通話を終了する。ぎゅっとスマホを握ったまま、ベランダの柵に置いていた自分の腕に頬を埋めた。


「(……ずるい)」



ドキドキしちゃって、もう少し落ち着いてからでないと、到底眠れそうもない。

暖房の入った暖かい部屋に飛び込んで、もう一度ココアを飲もうと、いつものマグカップに手を伸ばした。



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