宇宙一綺麗な花嫁へ

※近親相関、悲恋
※家族構成捏造




白いドレスを着た美しい花嫁、女性なら誰もが夢を見る瞬間。
それはきっと花嫁だけじゃなくて、


「バージンロードを弟と歩くのって良いの?」

その花嫁の手を取る男性も、同じように夢を見るんだろう。



「私はナギと歩きたいの」


幼き頃に両親を亡くしてから、親同然に自分の面倒を見てくれたなまえ。

年の離れた実の姉の横に、ボクは今立っている。その足が震えている事を悟られたくなくて、必死に両膝に力を入れた。


「綺麗だよ」
「ありがとう、宇宙一キュートなナギにそう言ってもらえて嬉しい」

白いベール越しに、口紅が塗られた唇が綺麗な弧を描いたのが見えた。今日の姉は一段と美しい、決してお世辞なんかじゃない。宇宙一可愛い、なんて普段は大きな事を言っているけれど、今日のなまえの美しさには到底敵わない。

スーツに合わせた白いネクタイをぎゅっと掴んで、変に高鳴る胸の鼓動を抑えた。


「ナギってば泣きそうになってる」
「……うるさい、もう子どもじゃないんだから」
「ふふ、知ってるよ。大きくなったね」
「姉さんこそ、泣きそうじゃん」
「これはね、嬉し泣きだよ」

自分の涙は違うよ、そう言おうとした口を噤んだ。ここまで来たのにそんな事、言えるはずがなかったから。

そう、もう後戻りは出来ない。
せっかく掴んだ彼女の幸せを、自分が奪う訳にはいかないんだ。



「姉さん」


扉が開かれて赤い絨毯が正面に現れる。
バージンロードの向こうには、白いスーツを着た新郎の姿がいて、あぁ、本当に姉が旅立ってしまうんだって今更ながら実感した。



「結婚おめでとう」

本当は笑ってこのセリフが言える自信が無かった、けど思ったより言葉は自然と出た。
こういう時に声が震えないのは、アイドルとしてのトレーニングを重ねた成果なのかな、なんて妙に冷静な事を考えている時にスタッフからの合図があり、足を踏み出した。


「ありがとう、ナギ」

バージンロードは、その一歩一歩が、新婦の人生を表しているんだって。瑛一から聞いた。
一歩目は生まれた時、もう一歩は初めて立った時……というように。


それを噛み締めるように、少しずつ歩みを進めていく。ボクの人生にはいつだって、横には姉さんがいたんだって、そう思いながら。


いつからだろう、惹かれたのは。
いつだろう、それが特別な感情だと気付いてしまったのは。
許されないこの感情、今日までずっとその気持ちに必死に蓋をしてきた。
取り繕うのは得意だった。だから姉さんはボクの気持ちには全く気付いていなかったと思う。


「ナギ、私ね!結婚するの」


もし気付いていたら、あんな顔して結婚報告なんてしないもんね。

必死に涙を堪えたあの日の記憶が蘇った頃に、新郎の立つ場所へ辿り着いた。



「よろしくお願いします」

新郎と向かい合って、丁寧に頭を下げた。
それに合わせて彼も小さく礼をする。
今この男が自分だったなら、どれだけ幸せだったんだろう。なんてね、そんなに風に思う自分が滑稽だ。もう考えないようにしよう、そう決めたじゃない。


組んでいた両腕がゆっくりと離れていく。
その手を取る資格は、ボクには無い。


指定された親族の席に着席して、二人を見守る。視線を上げれば教会のステンドグラスがこれ以上無いくらい美しくて、だけど白いドレスを着た姉さんはそんなのに負けないくらい本当に綺麗で。姉さんを見ていると涙が堪えられなくなりそうだったから、必死にステンドグラスに視線を合わせた。それなのに視界が滲んでいくから、なんだか笑えた。



「大好きだよ、これからもずっと」


わざと小さく、ぽつりと呟いたボク自身の言葉を、聖歌隊の声に紛れさせて、聞こえないふりをした。



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