腹痛

うぅ、痛い。

死ぬ程お腹が痛い。それに加えて頭まで痛くなってきた。必死にお腹を抑えて痛みがどこか遠くへ行くように、ひたすら念じた。どうしよう…辛すぎて涙が出てきた。


「なまえさん、大丈夫?」
「あ…瑛二くん、大丈夫だよ。ありがとう」


今日はファッション雑誌の撮影。
瑛二くんと架空のカップルを演じながら、1ヵ月のコーディネートを紹介するコーナーだ。

30日分の服を着なければいけないということもあって、撮影もかなり長丁場…。
休憩の間に椅子に座って休んでいたら、瑛二くんが温かいお茶を準備してくれた。


喉からお茶が通って、お腹に届く。温かい…少しだけ楽になった気がする。



「撮影、あと少しだから」
「ありがとう。迷惑かけてごめんね」


今日の相手が顔見知りの瑛二くんで本当に良かった。私が具合が悪いのを察してくれた瑛二くんは、少しでも撮影が早く進むようにたくさん協力してくれた。瑛二くんは、本当に優しい。


「この後のスケジュールは?」
「瑛二くんと二人の撮影が終わった後、瑛二くんの個人撮影を待って…自分の撮影したら終わりだよ。その後の仕事はなし」
「鳳さん、みょうじさん!スタンバイお願いします!」
「あ、はーい!」


んしょ、と立ち上がろうとした所を瑛二くんが身体を支えてくれた。瑛二くんは、撮影中もそっとハンカチで汗を吹いてくれたり、お腹に手を当てて暖めてくれたり、周りに分からないようにそっとフォローしてくれる。


「お腹痛いの?原因は何かある?」

撮影の合間に、瑛二くんが小さな声で私に聞いた。


「あ、はは…なんだろう?原因不明かな…」
「ええ?それ大丈夫なの?」



言えない…!
昨日のロケで食べた牡蠣があたってお腹を壊しただなんて!
そんな格好悪い理由…言える訳ない!

病気かな…?なんて本気で心配してくれる瑛二くんの顔を見て、申し訳なくなってきた。
ごめんね瑛二くん…!ただの食あたりなんです…!



「俺に出来ることがあったら何でも言ってね」


うう…!十分です!その優しさが辛いです瑛二くん。



「じゃあ次の撮影行きまーす」

スタッフの声かけで、ほっとひと安心する。
瑛二くんとの撮影はとりあえず終わり。
これで瑛二くんに迷惑かけないで済む。



後は瑛二くんの撮影を待って自分の撮影をすれば…今日は帰れ…

「じゃあみょうじさん、お願いします!」
「え…?」
「あれ?聞いてませんでした?鳳さんが撮影の順番変えてくれって言って」




スタッフの言葉を聞いて、自分の撮影が終わってからすぐ瑛二くんの所へ向かう。
だって…私、そんなの聞いてないよ瑛二くん。



「なまえさん!撮影終わった?」
「瑛二くん!お陰様で…って!瑛二くんこの後仕事あるんじゃなかったの!?」
「仲間内でのレッスンだし、少し遅れるって連絡してあるんだ。だから大丈夫」


そうにこっと笑った瑛二くん。
そんな…あれだけ面倒臭そうなメンバー、大丈夫なはずないのに。
もう、瑛二くんてば…いつもそうやって優しいんだから。



「…ありがと」
「いいえ。また一緒に、仕事出来るといいね」


手を振って自分の撮影に向かった瑛二くん。
その笑顔にぽっと胸が温かくなった。

相変わらず…お腹は痛いけれど…。
そういえば結局腹痛の原因は伝えられなかったけど、それはあまりに恥ずかしいからやっぱり言わないでおこうかな。



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