刻印
「痕つけて」
私の上に覆い被さって、胸に唇を埋めていたヴァンがゆっくりと顔を上げた。
なんで?と言いたげな顔。
私が突然変なことを言うから、ヴァンも驚いたみたいだった。
それでもお願い、ともう一度強請る。
「レンちゃんはキスマークつけてこうへんの?」
「ここ何日もセックスしてない」
そう話したら、ヴァンは意外やな、と言って私の首筋に吸い付いて赤い痕をつけた。
ピリっとした、その痛みが何だがものすごく懐かしい。彼はよく行為中につけてきたというのに、私に遠慮してるのか、ヴァンは一度もキスマークをつけたことはなかった。
まぁ…付き合ってもいない女に所有の痕をつけるなんて、そんな馬鹿な事をする男じゃないか。
「何かあったん?」
「…ん、」
痕をつけた首筋に舌を滑らせながらヴァンが私に尋ねる。
もうとっくに服も全部脱がされて、生まれたままの状態。太股の間に手を入れられれば、触れられるのを待っていたかのように、いやらしい音を発した。
レンが見せつけるかのように首筋に赤い痕をつけて、朝方堂々と帰宅してきたのがほんの数日前。
ずっと前から浮気しているのは知っていた。
それこそ私がヴァンとこういう関係になる、ずっと前からだ。
私と違う香水の匂いをつけて、ワイシャツに口紅なんかつけちゃって。
いつからこうなったんだろう。
どうしてこうなったんだろう。
あんなに愛し合っていたと思っていたのに。
浮気された腹いせにヴァンを誘って、寝た。
それ以降この奇妙な関係がずっと続いている。
私の中を手慣れたように弄るこの男のテクに、まんまと溺れてしまった私。なんて、愚かなんだろう。
ゆっくりと、時々速くと絶妙に緩急をつけてくるせいで、快感がどんどん高まっていく。
ぬるぬるとした感覚の中、ヴァンの指をきゅっと締め付けているのが自分でも分かって、それに気付いた彼もまた口角を上げて笑った。
「アイツ、私から別れようって言い出すのを待ってるのよ」
「ん…」
「自分から女を振るのがそんなに嫌なのかしらね」
堂々とキスマークなんかつけてきた今は、もう末期だ。それは互いに分かっているのに。
「本当、性格悪い」
「んー、なまえちゃんも大概やで」
「んっ、ぁ…」
「ワイの気持ち、とっくに気付いてるんになぁ」
知ってる。私は最低な女だよ。
指を抜かれて、すぐに硬くて大きなものが挿入される。痺れるような気持ちよさに、身体が大きく反応した。ゴムは着けなくて良いと、何度も言うのにそれが叶ったことは一度もない。
そう。私も同じくらい性格が悪いの。
「なまえちゃん」
こうして私を抱きながら涙を流すヴァンに気付かない振りをして。
レンもヴァンも繋ぎ止めようとしているのだから。
「早く俺の物になってーや」
それでもあなたは一途に私を想って、私を突き動かしてくるから
「考えておくわ」
何度目か分からないそのセリフを繰り返してしまうんだ。
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