不安なら一緒に消して

スケジュール帳を見て、また胸がドキドキとしてしまう。そう、悪い意味でのドキドキ。

「オイなまえ、さっきから何ボーッとしてんだ」
「あ、うん…」


家に遊びに来ている蘭丸の話にも耳を傾けられないくらい、今の私には気持ち的な余裕がない。
ここ最近、何故こんなに悩んでいるのかは、理由があった。


「何かあんならちゃんと言え」
「だ、大丈夫!うん…ごめんね」

言えるわけないよ。



先月のとある日に赤でマークしてある日付。
その日からもう1ヶ月以上経っている。


月に一度訪れる、女の子の日。毎月憂鬱なその日だけど、来ないなら来ないで不安になる訳で。そう…予定の日から1ヶ月、前回の生理からはもう2ヵ月以上経過してしまっていた。




「(どうしよう…!)」


怖くて検査はまだしていない。
万が一妊娠していたら…相手は蘭丸しかありえない。でも蘭丸には相談できない。


アイドルとして、今は大事な時期。

そんな大事な時期にできちゃった婚なんてしたら、大変なことになる。
そもそも赤ちゃんが出来たからと言って蘭丸が結婚してくれるとも限らない。
もっと言えば、産んでいいと言ってくれるかも分からない。それにまだ子育てをしていく自信もない。


誰にも相談出来ず、ここ何日も悩み続けている。辛い、もう限界だよ。
どうしよう、泣きたい。


唇を噛んで必死に涙を堪えて俯いていたら、蘭丸がガシガシと頭を撫でてきたから、びっくりして顔を上げた。


「何かあったんだろ」
「蘭丸…」
「なまえの顔見てりゃ分かる。何でも聞いてやる、だから話せ」

蘭丸の優しい言葉に、もう涙を我慢するなんて出来なかった。




「こないの…」
「あ?」
「生理が、来ないのっ…!」



蘭丸は私の頭に触れていたを止めて、文字通り固まった。口を開けてぽかんとしている。

結構長い沈黙の後、蘭丸は焦ったように自分の顔に手をあてて首を横に振った。


「…いや、な、そ…いやいやいや!ちゃんと避妊はしたはずだ!」
「でもコンドームは100%安全じゃないって…ネットで見たも、ん」
「いや待て!落ち着け!ダメだ、俺の方が落ち着いてねぇ…」
「ねぇ、どうしよう蘭丸…」


「…病院は」
「まだ怖くて行ってない…」
「自分で検査は、」

その問いにも首を横に振る。
そうか、と一言呟いて蘭丸は突然立ち上がった。


「5分で戻る」
「え?」
「ちょっと待ってろ」



荷物も持たずに、蘭丸は慌てて部屋を出て行った。蘭丸が居なくなって一人残された私は、開いたスケジュール帳を眺める。涙で視界が歪んだ。



…そうだよね。子どもなんて出来たら面倒と思うに決まってる。当然、仕事にも影響する。

望んだ訳じゃないその現実が、どうしようもなく重く胸にのしかかってきた。



5分も経たない内にすぐに戻ってきた蘭丸。
何も言わずに、茶色い紙袋に入った何かをテーブルに置いた。
中身を確認するよう目で合図され、そっと袋から中にある物を取り出した。



「…まさか」
「……」
「買ってきてくれたの…?」


薬局に行って何度も手に取っては怖くなり、買えなかった妊娠検査薬。

男の人が買うなんて、絶対恥ずかしかっただろうに。蘭丸は恥ずかしがる様子もなかった。



「一人で抱え込ませて悪かった」
「蘭丸…」
「俺も一緒に考えるからよ…とりあえず確認だけしてこい」
「でもっ…もし妊娠してたら…!」
「そしたらその時考える。責任は俺が取る。なに、仕事のことなら何とでもなる」


ぶっきらぼうだけど、私のことを労わってくれる蘭丸の言葉。うん、とだけ一言伝えて、私は検査薬を握りしめてお手洗いに向かった。






「…どうだった!?」
「…た、」
「?」
「生理、きた…」


蘭丸は大きく息を吐いてその場にへたりこんだ。安心した私は、蘭丸にぎゅっと抱きついて声を上げて泣いた。


「ううううらんまるぅー!」
「…んだよ、はぁ…良かった。良かったっつうのも、おかしいか」
「びええええ!良かったよおおおお」
「分かった!分かったから鼻水拭け!」


どっと安心してしまって、大泣きした私を、蘭丸は背中を叩いてなだめてくれる。
その大きな手にまた安心して、涙が止まらなくなってしまった。


「次から、何かあればすぐに言え」
「うんっ…!」
「全部一緒に悩んでやらぁ」


あぁ、なんでもっと早く蘭丸に相談しなかったんだろう。次からはすぐにちゃんと言わなきゃ。

きっとこの人は、私のどんな悩みも大きな身体で全部受け止めてくれるから。



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