「全校集会お疲れ様でした。では放課後生徒会室に集合して下さ──」 「ちょーっと待って頂いてもよろしいでしょうかー?」 全校集会終了のお知らせを受けて、続々と教室へと戻る生徒達。その波に乗れずに、何故か私は体育館に留まっている。何事も無かったかのように話を進める一ノ瀬君に、私は背後から睨みをきかせた。目からビームを照射する勢いだ。だけど仕方ない、今回ばかりは逃げてスルーする訳にはいかないのだ。 「私に対する説明が何も無いのはいかがなものですかね?一ノ瀬会長」 「あぁ白石さん、申し訳ありません。生徒会の活動日ですが毎週金曜日を除く放課後と…」 「そうじゃなくって!」 勝手に進める一ノ瀬君にもだけど、何も突っ込んでくれない他の面々も怒りが湧く。特に皇君!昔のよしみで助けてくれたって良いじゃない! 「事前に知らせず挨拶をさせた事は謝ります。ですがこうでもしないと、あなたは引き受けてくれないかと思いまして」 「そっ…そもそも私は引き受けるなんて一言も言ってない!!」 「では、撤回しますか?全校生徒の前で」 「うっ…」 ず、ずるいずるい!こんなの卑怯だ! 今更撤回なんて出来るはずがない。そんなことをしたらそれこそ周りからの信用も失うし、そもそも全校生徒の前に再び立つ勇気もない。 私が出来ないことを知って、この人達は私をはめたんだ…!絶対にそうだ。 「性格悪い!」 「何とでも言いなさい。とにかくもう引き受けてしまったからには後には引けないでしょう?黙って副会長として責務を全うして下さい。では授業も始まりますので一旦解散しましょう。白石さん、放課後にまた」 「ご、強引すぎる…」 結局誰からの助けも得られないまま、私が副会長を務める流れになってしまった。まずいと思いながらも、辞める勇気も私にはないのだ。あぁ、もう…。これからの学校生活が憂鬱だ。 「さて、どうしよう」 放課後のチャイムが校内に響き、長い一日が終わろうとしている。否、私にはこれから生徒会の活動という重大任務が残っているから家には帰れない、訳なんだけど…。 今日一日は本当に参った。全校集会から教室に帰るや否や、クラスメイトから浴びる視線。だけどジロジロ見てくるだけで誰も話しかけようとはしてこなくて、それがかえって居心地が悪くて。こんなに早く一日が終わるよう願った日は過去にないと思う。 「…帰っちゃおうかなー」 とりあえず副会長の任には就いてしまったけど…ま、まぁ…元々強引に決められただけだし!?名前だけ貸すって事で…誤魔化せないかな、無理かな。 よし!そうと決まれば(私が勝手に決めただけだけど)、誰にも見つからないようにそーっと…「白石」 て言う訳にはいかないですよね!うん分かってた! 背後から掛けられた声に苦笑いしながら振り返る。予想通り、そこには爽やかに笑う聖川君がいた。 「どこへ行く、今から生徒会の活動だろう。生徒会室まで一緒に行こう」 「あー…その、あははは…」 ダメだ…もういよいよ引き返せない…。 ─── 「ここが生徒会室だ」 「な…中に入るの初めて」 「そうか。意外と広くて快適だぞ」 ガラガラと扉を開けると、私と聖川君以外の生徒会メンバーが勢揃いしていた。確かに中は広い…壁際の大きな棚にはファイルやテキストのようなものが所狭しと並べられている。 向かい合わせにくっつけられた6つの席。一番奥に座っているのが一ノ瀬君だ。その向かいの席は机の上がまっさらに片付けられていて…大変不本意だけどそこが私の席なのだと推測出来た。 ここが、私が1年間過ごす場所…。ついに、腹を括る時が来てしまった。 「ようこそ、生徒会へ。残り1年間ですが、どうぞよろしくお願いします」 「一ノ瀬君…」 立ち上がった一ノ瀬君が私を出迎えた。私を強引に陥れた(もう何回でも言ってやる)くせに、何て爽やかな笑顔なんだろう。その後ろには皇君、それから… 「あれ?瑛二君…生徒会だったの?」 「紬先輩!」 ひょっこりと顔を出して目を輝かせたのは、中学の後輩でもある鳳瑛二君だった。何故か私を大変慕ってくれている瑛二君はにっこりと可愛らしく笑って「庶務の鳳瑛二です」と片手を差し出した。釣られるように私も手を差し出すと、きゅっと握手をされる。何はともあれ、皇君の他にもう1人顔見知りがいるのなら心強い。 「そうなると、初めましてはオレだけかな?」 横からふわりと香水の香りが漂った。先程の瑛二君とは違い、初めから手を握られる。いや握られるというより、そっと取られるという表現の方が正しいかも。 初めまして、だけど私はよく知っている。会長の一ノ瀬君と並び、この学校の超有名人だ。 「会計担当の神宮寺レンだよ。よろしくね、レディ」 「戯け者!すぐに離れろ!」 手の甲にキスをされそうになったところに聖川君が止めに入ってくれて助かった。こんなイケメンに絡まれる経験なんて今まで全く無かったから、正直どう振る舞えば正解なのか分からないもん。 それにしても一ノ瀬君に、皇君、聖川君。瑛二君にこの神宮寺君ときた。 「(顔面偏差値が、えぐい…)」 ここで私は本当にやっていけるのだろうか。言い争いを続けている聖川君と神宮寺君を見て、私は更に憂鬱になった。二人のやり取りに慣れている様子の一ノ瀬君は呆れたようにひとつ溜息を吐く。 「喧嘩はひとまず置いておいて…自己紹介を続けていただけますか?」 「…あぁ、申し訳ない一ノ瀬。改めて、書記の聖川真斗だ。同じクラス故、分からないことがあればいつでも聞いてくれ」 「同じく書記の、皇綺羅だ」 「会長の一ノ瀬トキヤです。よろしくお願いします」 右手をそっと差し出した一ノ瀬君に一瞬躊躇うけど、おずおずと私も手を差し出した。きゅっと力を入れて握られる。窓から指す夕日が一ノ瀬君を照らしていて、綺麗な笑顔に一瞬目を奪われる。 「……」 「白石さん?」 「あ、ごめんなさい。えっと、白石紬です。副会長らしいです、よろしくお願いします」 まるで学校に入ったばかりの頃のような胸の高鳴り。 「(おかしいな、こんなはずじゃなかったのに)」 不安と同時に感じるのは、ほんの少しの楽しみだった。2年と少し…ありきたりで普通で退屈だった私の高校生活が、ここから確かに変わろうとしていた。 |