「……チッ」

不機嫌全開の蘭丸の横で、せっせとトランクに荷物を入れている私。傍から見れば同居中のカップルが喧嘩をして、彼女が家出をするようかに見えるだろう。だけど私達の場合は少し違う。同居中の、という部分だけ間違いではないけれど。


「だから、ただの仕事だって」
「泊まりがけで一週間だろ?たかがバラエティのロケで」
「海外だから普通だってば……こまめに連絡するから」

そう言って私は音を立ててトランクの蓋を閉めた。無意識に声も大きくなっていたかもしれない。だけど蘭丸の態度があまりにも酷いから。

多分彼は、一緒に行くのが自分が面倒を見ていた後輩二人だという点が特に気に入らないのだろう。


「行くな」
「いや、行く」
「んでだよ」
「大切な仕事投げ出したくない」

そもそも蘭丸がこんなに嫉妬深いなんて、付き合う前は想像もつかなかった。どちらかというと、女の子には興味のない素振りを見せてたし、実際ドライな部分はこれまで何度も見てきた。

いざ恋人となった時の蘭丸の変貌ぶりに、当初は驚いたりもしたっけ。
やや強引に首の前に回される両腕、腕の力強さにもだいぶ慣れた。


ヤキモチを妬かれて嬉しい反面、正直困る事もある。恋人としての時間も大切にしたいけれど、仕事に影響を及ぼしたくない。それはプロ意識の高い彼なら充分すぎるくらい分かっているはず……なのだけれど。



「アイツらだって男だろ。なまえに変な気を起こすかもしれねぇ」


強すぎる、独占欲。
ダメだと分かっているのに、私自身もその毒に時々侵されそうになる。


理性を保って、蘭丸の腕を優しくぽんぽんと叩いた。だけど蘭丸は離れてはくれず私の首に顔を埋めた。


「あの二人に限って間違いなんて犯さないでしょう?」
「んなの分かんねぇだろ、特にレンは」
「うーん」

レンは、の部分については否定はしないでおいた。だけど、いくらなんでも先輩の女に手を出すような子達では無い。それは蘭丸が一番よく知っているだろうに。それに私だってそんな簡単に手なんて出させやしないのに。そんなに信用されてないのかな。ちょっと悲しくなってくる。



「いたっ…!」

私が何も言わないでいると、蘭丸はそれが不服だったのか突然私のうなじに噛み付いてきた。キスを落とす、なんて可愛いものじゃない。まるで動物が飼い主に怒りで歯を立てるよう。

痛みと少しの快感に耐えているところで、蘭丸の右手が私の胸元に伸びた。乱暴に胸を掴まれて揉みしだかれて、自然と身体が反応する。


「蘭丸」
「……」
「今日仕事でしょ?遅れちゃうよ」
「知るか」
「嶺二くん達に怒られちゃ──」

「だから他の男の名前出すんじゃねぇ」


ダメだダメだと思いつつ、独占欲を露わにする蘭丸が何だかんだ愛おしくて。彼に身体を押された私はそのままベッドの上に沈んでいった。







誰にも渡さない
(いいよ、独占されてあげる)




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