「あ、トキヤ…」
「なまえ?何故あなたがここに」


仕事を終え、寮の自室のドアを開けようとした瞬間に、先に中から開かれた。
てっきり音也か寿さんかと思えば、現れたのは意外な人物だった。



「あ、え…」
「あ、トキヤおかえりー」

激しく動揺した様子のなまえの後ろから、音也がひょっこりと顔を出す。当たり前だ、だってここは私達の部屋なのだから。

問題は何故男子寮のここに、なまえが居るのかということだ。
その理由を問えば、なまえは気まずそうに目線を逸らした。



「音也、寿さんはどちらへ」
「嶺ちゃんは撮影で今日は遅くなるって言ってたよ」
「そうですか…それでなまえは何をしに来たんですか」
「あー、それはね」
「音也!!」

音也の言葉を遮るように、なまえが大きな声を上げた。


なまえのその反応に、つい顔をしかめてしまう。只でさえ、彼女が他の男と居るのが気に入らないというのに。


「その、何でもないよ…私もう帰るね、ありがとう音──」

そう言って部屋を出ようとするなまえは、私の顔を見ようともしない。それに苛立ち、すれ違い様に彼女の手首を強く掴んだ。


「トキヤ…なに…?」
「あー…ごめん、俺ちょっと出掛けてくるね」


不穏な空気を察したのか、音也は気まずそうに目を逸らす。


なまえの腕を掴む私の横を通り過ぎる時に、耳元で彼女には聞こえないくらいの声で


「トキヤ、多分勘違いしてる」


とだけ囁いて、部屋を出ていく音也を目線で見送った。
すぐになまえを見下ろすと、怯えたような目で身体を震わせていた。



「トキヤ、ちょっと怖いよ…」


掴んだなまえの手首を強引に引っ張り、部屋の中へと引き入れた。大袈裟に音を立ててドアを閉めて、閉じたドアになまえを無理やり押し付けた。両手首にギリっと力を入れれば、痛みでなまえは顔を歪ませた。


「痛っ…トキ、」
「男と部屋で二人きりになると」


今にも唇が触れそうな距離にまで顔を近付ける。自分は今、どれだけ冷たい目をしているのだろうか。


「どうなるか教えてあげましょうか」



涙目になるなまえを無視し、強引に口付けた。
なまえは必死に手首を動かして抵抗するが、さらに力を込めればビクとも動かなくなった。


「ゃ、ときや…話、きいて…」


名前を呼ぶその愛しい声も、今はただ腹立たしい。口を開けた隙に舌をねじ込めば、彼女の肩が大きく揺れた。
貪るように、何度も何度も重ねる。舌を強く吸えば発せられている水音がやたら耳に響いた。


なまえの手を一つに纏め上げて、自分の左手で壁に押し付ける。


首を必死に動かして、唇から逃れようとするなまえ。あまりに苦しそうな姿に、胸が痛む。
ゆっくり唇を離せば、彼女の口はすでに唾液でびしょびしょになっていた。


肩を上下に動かして、息を整えるなまえは涙を両目から流していて。


「トキヤっ…やだ、こんなの…」

小さく震える声を無視して、

「いやっ!」

ブラウスをはだけさせれば、白い下着に包まれた二つの膨らみが露わになった。


「だめ、おねが…」

胸を力を入れて揉めば、ぐにゃりと形が変わる。ぴくんと小さく反応するのを、私は見逃さなかった。



「犯されて、感じてるのですか」
「んっ…ゃ、だって、」


何かを言おうとしたなまえをまた無視して、首筋をねっとりと舐め上げた。わざとらしく見えやすい位置に吸い付いて赤い痕を付けたのは…独占欲の、嫉妬の証だ。




「なんで、こんなことするのっ…」


白い胸に映えるように主張する、赤い乳首を口に含む。軽く歯で挟めば余計に硬さを増していく。音を立てて吸えば、またなまえは身体を大きく震わせた。



「トキヤはっ…


春ちゃんの事が好きなくせにっ…」

「…は」



七海さん?何故?
突然、予想外の名前が彼女の口から紡がれたのに驚き、触れていた手を止め顔を上げた。


なまえは涙が止めどなく流れる目元を必死に手の甲で抑えている。表情は全て見えなかったが、そんななまえの姿にまた胸を締め付けられた。


「ちょっと待って下さい、意味が分かりません」
「だって…この前休みの日にっ、一緒に出掛けてたの、見たもん…!」
「あれは…!たまたま出先で会って立ち話をしていただけです!」
「嘘だぁ…顔赤くさせてたじゃん!」
「それはっ、その…」
「…っ、ひっく…私はっ…私はトキヤがこんなに好きなのに…トキヤが春ちゃんを好きなんじゃっ、意味ないじゃん…!」


子どものように泣きじゃくるなまえ。好き、という言葉がこんなにも嬉しくて愛おしい。苦しいくらいに伝わる、なまえの想い。それに比べ、先程までの自分の最低な行為に後悔してもし切れない。

未だ泣き止まないなまえを、そっと抱きしめる。





「…七海さんに、聞かれたからですよ」



『一ノ瀬さんはなまえちゃんのどこが好きなのですか?』



そう。そう聞かれて無意識に顔が赤くなっただけ。それだけの話だったのに。



「誤解させて…すみません。それと無理に迫った事も」
「…っ、本当は、だめなのに…、トキヤにされて嬉しい自分もいてっ…もう、どうしていいか分からなかったの、」
「…っ、それなら何故音也と一緒に居たのですか」
「トキヤのこと、ずっと…相談しててっ、話聞いてもらってただけだよ…!」
「それならそうと早く言って頂けませんか…!」
「話聞いてくれなかったのはトキヤじゃんかぁ…!」


ここまで話をして、ようやく本当は両想いだったことを理解した。目が合って瞬きを繰り返すなまえの顔が徐々に笑顔になっていくのに釣られ、二人で笑い合った。


額を二人でくっつければ、なまえは照れたように顔を赤く染めて微笑んだ。そう、彼女のこの顔。私はこれを見てなまえを好きになった。


今度はどちらともなく、唇を優しく合わせた。先程のキスとは違う、甘くて優しいキスをなまえに送る。



「…続き、しても?」
「あっ…ん、ベッドで、なら」
「もちろんです」



それからは、ベッドに優しく押し倒して、なまえを何度も抱きしめた。先程までの時間忘れさせるくらい、ひたすらに優しく触れた。


「ひぁ…い、た…」
「初めてですか?」
「…っ、トキヤは、どうせ違うんでしょ…?」
「愚問ですね」


見下ろせばベッドに寝た状態の、誰よりも愛しいなまえの姿。
ずっと前から、欲しかった。


「あなた以外に抱きたいと思った女性はいませんよ」
「んぁ、…と、きやぁ…」


それからは我を忘れるくらい、ただ彼女に夢中になった。繋がった結合部が熱を持って、動きを止めることが出来ない。自分にしがみつくなまえに、これ以上ないくらい満足した──。






──

「ね、トキヤ」
「どうしました?」
「春ちゃんに私のどこが好きかって聞かれた時…何て答えたの?」
「教えてあげません」
「えっ、」


口に出して答える必要も無いでしょう。


「なまえはどうなのですか?」

その答えはきっと
全て、でしょうから。


「トキヤの全部が好きだよ」



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