「何だその格好は」
「えへへ…どうかな?」


素敵な夜景の見えるパーティーに、カミュと一緒に招待された。一般人の私には馴染みの無い、高級そうなパーティーに少しばかり気合を入れてお洒落をしたのに。
その姿を見たカミュはあからさまに怪訝そうな顔をした。


そんな彼に構わず、水色のドレスをひらひらさせながら、くるりとその場で一回転してみた。頑張ってお洒落しなくちゃと思って、貯金をはたいて購入した一張羅だ。


「ね、どうどう?」
「悪くは無いな、だが詰めが甘い」
「何よそれ」


カミュに可愛いって言ってもらいたくて準備したのに…どうやら不発に終わったらしい、むむむ。

これまた高そうなスーツを完璧に着こなしたカミュは、ソファーから立ち上がって私の方へと近付いてきた。



「座れ」


私のすぐ近くにあるドレッサーの椅子を引いて私にそこへ座るよう促す。言われるがまま椅子に腰掛けて、鏡と向かい合わせになる。鏡越しに私の後ろにカミュが立っているのが分かった。



「髪を下ろしていくつもりか」
「あー、ごめん。アレンジ苦手で…」
「だから詰めが甘いと言っているんだ、愚民が」


そう言いながらカミュは、肩に落ちている私の髪を取った。そのまま櫛でゆっくりと髪を梳かしてくれる。その感触がとっても心地良い。


ストレートの髪の毛が、いつもに増してさらさらになる。そのままでも私は十分だと思っていたのに、この男はどこまでも完璧を求めるらしい。

こんなズボラな私でも一応は揃えてあるアイロンのコンセントを差したカミュは、私の髪の毛を一房手に取った。


「えっ?もしかして巻いてくれるの!?」
「巻いた後にアップにする」
「えええ!そんな高度な技出来るの?カミュが?」
「馬鹿にしてるのか。俺はいつも髪のスタイリングは自分でやっている」


そうなんだ…知らなかった。時々一纏めにしたり、ハーフアップにしてるけど、あれ…自分でやってたんだ。

確かにカミュは手先が器用だ、それにセンスもある。私が自分でやるよりは遥かに期待出来るだろうと思い、お言葉に甘えることにした。



あっという間に可愛くセットされていく髪。時々カミュの指が首の辺りを掠めて、ちょっぴり擽ったくて目をきゅって瞑った。
その反応を見たカミュは楽しそうにふっと笑う。


「擽ったいですか?お嬢様」
「うぇ、」
「本当、可愛いですね」


突然の執事モードにドキッとして、顔が赤くなる。でも可愛いと言われたのは素直に嬉しい。
…中々、普段は聞けないからなぁ。


私の反応に気を良くしたのか、鏡の方を向く私の正面に回り込んだカミュは、優しく触れるキスをしてくれる。一回で身体が離れてしまうのが寂しくて、カミュの着ているジャケットの裾を握った。


そしたらカミュは私に応えるように、素肌が露出している私の肩を掴んで、ぐっと引き寄せる。さっきよりも強めに押し付けられた唇、何度も何度も重なる。後でグロス、塗り直さなくちゃ。



「ふ、ぁ…」

唇が離されたと同時に、満足気に笑うカミュの顔が視界に入った。


また背後に回られて、最後の仕上げをされる。
スプレーで固めて完成された髪。鏡に写った自分の姿は、まるで別人のようだ。


「わぁ…!可愛い!」


可愛くアップされた髪、こめかみから垂れるサイドの髪もゆるく巻かれてカールしている。


「カミュ、ありがとう!」
「…ほら、早く行くぞ」



カミュの後ろに続いて慌てて玄関へ向かう。いつもよりヒールの高い靴を履いて外へ出てみたら、急に変な不安が押し寄せてきた。


私…私なんかが行って大丈夫なパーティなのだろうか。私はカミュの隣に立っていて、ちゃんとお似合いに見えているのかな。




「胸を張ってください。今日のあなたは誰よりも美しいですよ」


頭上から聞こえた声に、ゆっくりと顔を上げた。私の不安を察したのか、カミュはその不安を拭うかのように優しく微笑んでくれる。


「俺の横に立っているのだ。堂々として貰わなくては困る」


カミュの言葉に、私もうん、と首を縦に振った。よし!と気合を入れて、ハイヒールを履いた足を一歩踏み出した。



「お手をどうぞ、お姫様」
「…はい!王子様」


私の手を取ったカミュは、優しく手の甲にキスを落としてくれた。
その仕草が格好良過ぎて、つい見惚れちゃうんだ。


「あ、間違えた!伯爵様だ!」
「そこは言い直さなくて良い」


そんなカミュと一緒なら、今日のパーティがどんなに素敵なものになるんだろう。

そう期待を抱きながら、ドレスを揺らしてカミュの腕に抱き着いた。



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