※ポラリスパロ





──パン!


コックピットの中に乾いた音が響いたと同時に、頬に鋭く走る痛み。
それが私がパイロットの先輩であるトキヤさんに叩かれたと理解するのに時間はかからなかった。



「なまえ!」

慌てて私に駆け寄ってくれるナツキさんとセシルさん、それと反して肝心のトキヤさんは氷のように冷たい目で私を見下ろしていた。



「なまえ、大丈夫ですか?」
「だいじょぶ…です、」

心配してくれる二人にお礼を言ってゆっくり立ち上がる。私を見つめるトキヤさんに負けじと
私も睨み返した。



「あなたの勝手な操縦で、どれだけ仲間を危険な目に晒したか分かってますか」
「…申し訳ございません」


そうなのだ。
訓練生として初めての実戦。
順調にエネミーを撃退した事に自信を持った私は、一人で敵の群れの方に突撃してしまった。
必死に止めるトキヤさんの制止も無視、して。


やられそうになってしまった所で、ナツキさんが助けに来てくれて、そのまま強引に帰還したから一命を取り留めたものの──結果的に皆さんに迷惑をかけてしまったのだ。



「ですが!私だって自分の力を試したくて…!」
「たかが訓練生が」
「トキヤ、落ち着いて下さい」


優しく宥めるセシルさんと対照的に、冷たく言い放つトキヤさんの言葉に、心臓が止まりそうになる。
訓練生──確かにまだそうだけど、私だって…。



「私だってっ…エネミーをたくさん倒して、結果を…残したのに、」
「危うく死にかけている人間が何を言っても説得力がありませんね」
「…っ!そんな、少しは褒めてくれたって…」
「調子に乗らないでください。私に歯向かうのならもう二度と現場には出させません」
「トキヤ!」
「…もう良いです!トキヤさんのバカ!」
「なまえ!」


追いかけようとしてくれたナツキさんを振り切って、私はコックピットを飛び出した。






そのまま一人でとぼとぼと歩き、医務室の前で立ち止まる。


自動ドアが開き、薬品の匂いがする医務室に一人で入った。氷を取り出してタオルにくるみ、叩かれて赤くなる頬に当てる。ひんやりとした感覚と一緒に、現場での恐怖が頭に蘇ってくる。


「ううっ、ふ、うぇっ…」

目から涙がとめどなく流れる。
我慢していたのが一気に切れて、もう止まらなかった。



私は、ただ早くトキヤさんに認めてもらいたかった。少しでも役に立ちたかった。
それなのに、あんな言い方…酷いと思った。


だけど…ずっと憧れていたパイロットのトキヤさんとの初めての現場。浮かれていたのは事実。
下手したら死んでしまっていたかもしれない…トキヤさんが厳しく言うのも当然だ。

私が…悪かったんだ。



「謝りに、行かなくちゃ…」

重い足に必死に力を入れて、腰かけていたベッドから立ち上がろとした時、自分が出るより先に医務室の自動ドアが開いた。



「トキヤさ…」
「ここに居ましたか」


入ってきたのはトキヤさん…また冷たい目を向けられるのが辛くて、視線を合わせないように俯いた。トキヤさんは何も言わない。出来の悪い訓練生の私に、心から呆れてるのかもしれない。ずっと憧れていたトキヤさんに、嫌われてしまった。
やばい、泣きそうになってきた。


必死に唇を噛んで涙を堪えていると、トキヤさんがベッドに座る私の横に腰かけた。ギシリとベッドの軋む音がする。



「トキヤさん…」
「痛かったでしょう、叩いたりなどして申し訳ありませんでした」


そっと叩かれた頬を撫でられる。

恐る恐る目線を上げると、予想とは違って、優しい瞳をしたトキヤさんと目が合って。また泣きそうになってしまった。



「いけませんね…ついあなたには厳しく当たってしまう」
「それは…どうして、ですか」
「期待しているからですよ。…いえ、無意識にその才能に嫉妬すらしていたのかもしれません」
「そんな、私なんて全然…」


憧れのトキヤさんに、そんな事を言われるなんて思いもしなかった。驚きすぎて、溢れそうだった涙も引いてしまった。


「あなたは優秀ですよ。だからこそ命を大切にして欲しい…分かりましたか?」


頬を指でなぞられる。トキヤさんの言葉一つ一つが、心に染みる。トキヤさん…私の事を思って、ああ言ってくれたんだなってよく伝わった。こくこく、と何度も頷く。



「なまえ」


滅多に呼んでくれない、私の下の名前。

優しく微笑むトキヤさんと視線が絡んだ後、そっと瞳を閉じた。


「…ん、」

ちょっと強めに押し付けられた唇。ちょっとだけ苦しくて口を開いた瞬間、トキヤさんの舌が容赦なく入り込んできた。ゆっくりと…味わうように舌と歯列をなぞられる。


私の頬に触れていたトキヤさんの手は、身体のラインを確かめるように何度も往復してくる。


「んっ…や、」

胸元を撫でられる度に、びくんと反応する身体。身体にぴたりと張り付くきつめのスーツ。ファスナーをゆっくりと下げられれば、ぷるんと胸が弾けた。

唇を離したトキヤさんは、私が息切れしてるのにもお構いなしに、赤くなった胸の突起に噛みつきながら私をベッドに押し倒した。



「あ、トキヤさ…」
「少しこのスーツは身体のラインが目立ち過ぎますね。デザインを考え直さないと…」
「い、いや…」
「嫌ですか?」
「その、今のスーツ姿の…トキヤさんが、好きです」


私の言葉に少し驚いた顔をしたトキヤさんだったけど、直ぐにいつものクールな表情に戻る。
あっという間に下着ごと下も脱がされて。


スーツを乱さないまま器用に取り出されたトキヤさん自身が、私の濡れそぼった下部にあてがわれた。



「セックスの時くらい、敬語は辞めませんか」
「えっ…あ、んっ、ときや…?」
「そうです、良い子ですね」

そっと頭を撫でられて安心したのも束の間、


「ひぁ、やっ…!」

すぐにトキヤ自身に貫かれてしまった。


中途半端にスーツを乱された私と、ほとんど乱れていないトキヤ。だけど確かに私達は今繋がっていて。

止まらない腰の動きと、絶え間なく与えられる刺激に、私はもう我慢なんて出来なかった。


「あっあっ、やっ…ん、」
「良いですよ、もっと乱れて」
「やだっ…トキヤさ…」
「トキヤ、でしょう?」
「やぁっ…ときっ…あっ──!」


ギシッとベッドが大きく音を立てて、力強く突き上げられ絶頂に達しそうになった──と同時に、



…敵襲を知らせるサイレンが鳴り響いた。




「「……」」

二人で目を合わせて固まる。
残念そうに溜息を吐いたトキヤさんはゆっくりと自身を抜いてしまった。

それが寂しくて仕方なかったけど、敵襲ならもちろんそちらが優先だ。私もお預けをくらった身体を必死に抑えて、乱れたスーツを直した。


「行きますか」
「そう、ですね…」


私より先に部屋を出たトキヤさんは私の方をちらりと振り返って、また優しく微笑んでくれた。




「続きはまた後で、なまえ」



やっぱり私はこれからも、この人の為に生きなきゃダメなんだ。そう決意してから、ヒューマノイドアームズに乗り込んだ。



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