【第一印象は】


「マサ〜!今度単独でCM出るんだって?すごいじゃん!」
「あぁ、有難い事にオファーがあってな。ST社の緑茶飲料のCMだ」
「ST社なら大手ですね。さすが聖川さん」


今は音楽番組の収録前。控室などでST☆RISHの仲間内で個人仕事の話をする事がよくある。それぞれの活動について、俺たちは互いに把握しているように努めているからだ。

今回のCMの件もすでにメンバーの耳にも入っていたようで、一十木や一ノ瀬が共に喜んでくれた。


ST☆RISHとしてデビューし、芸能界入りしてからおよそ4年。ドラマや映画など芝居の仕事は数多くあったが、ソロのCM出演は今回が初めてだった。頑張らねばとプレッシャーに思う反面、やはり素直に嬉しかった。



「おー、お前らも同じ番組か」
「黒崎さん!すみません、俺達から挨拶に行かなければならないのに」
「んなことはいいんだよ。腹減った、何かねぇのか」
「ここに差し入れの菓子がありますが…黒崎さん達の楽屋にはありませんでしたか?」
「カミュの野郎が全部食いやがった」


そう言いながら黒崎さんは楽屋に入り、ソファーに腰かけた。他のメンバーが各々騒いでいる中、俺は茶を入れて黒崎さんに差し出す。悪いな、と一言返して茶を口に含んだ黒崎さんは、テーブルの上に何かを見つけ、それを手に取った。


「ST社…真斗、何かの仕事か?」
「はい、今度緑茶のCMに」

黒崎さんが手に取ったのは、テーブルの上に置いたままにしていた櫻井さんの名刺。明日の撮影の段取りを確認していた時に、無造作に置いてしまったものだった。

ふーん、と一言呟いた黒崎さんはそっと名刺を元の場所に戻す。何か気になることでもあったのだろうか…。不思議に思った俺の気持ちを察したかのように、黒崎さんは俺を見てあぁ、と小さく反応した。


「別に何があるわけでもねぇよ。知り合いの名前があったから気になっただけだ」
「知り合い…櫻井さんがですか?」
「地元が一緒で顔馴染。こっち来てたまたま再会した」
「そうでしたか」
「ま、悪い奴じゃねーし、よろしくな。んじゃ」

菓子を食べるだけ食べて去っていく黒崎さん。相変わらず自由な人だ…。
黒崎さんの食べた菓子の袋を片付けながら、櫻井さんと出会った時の事を思い出す。




───


「はじめまして。ST社の櫻井七瀬と申します」


大手企業の宣伝担当だなんて、もっとベテランの社員が来るのかと思っていたら、自分とさほど歳の変わらない女性が目の前に現れて、少し驚いた。

しかし彼女は臆することなく、凛としていた。派手でも地味でもなく、きちんと施された化粧、ピンクベージュのネイルに華奢なネックレス。白く透き通った肌と清楚な雰囲気が印象的な、そんな女性だった。耳に心地よいソプラノの声で、ゆっくりとした落ち着いた口調で話してくれたおかげで、契約の内容もスムーズに入ってきたのをよく覚えている。



「それでは失礼します」

最初の打ち合わせをしたあの日…丁寧にお辞儀をして、事務所を出ていく彼女達を見送った後、彼女のくれた名刺をじっと眺めていた。しばらくそのままでいると、隣に立っていたマネージャーが楽しそうに俺の顔を覗きこんできた。


「なんだ、もしかしてタイプだったか?」
「な…!違います!何を言ってるんですか!」
「結構美人だったな。ま、CM撮影頑張ろうな」


からかってくるマネージャーの言葉を必死に否定しながらも、頭に思い浮かべた櫻井さんの姿。確かに綺麗な人だった、とは思う。




「ST☆RISHさーん、そろそろ準備お願いしまーす!」


スタッフが呼びに来た声で、意識を現実に戻した。
伸びをしたり、髪型を整えながら楽屋を出ていくメンバーに置いて行かれぬよう、慌てて立ち上がった。ふと目に入る、櫻井さんの名刺。


撮影はいよいよ明日だ。大きな仕事に対する緊張感が高まるが、櫻井さんの顔を思い浮かべれば自然と上手く行くのではないかと、そんな予感がしていた。



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