【迎えた朝に】


ぱちりと目を開けると、ちゅんちゅんと小鳥が鳴く声が外から聞こえた気がした。青いカーテンの隙間から差し込む太陽の光。どうやらいつの間にか朝になっていたみたいだ。


段々と鮮明になる視界で横を確認すると、隣で眠っていたはずの彼の姿がない。

ゆっくりと起き上がると、鈍く痛む下部と腰。


「(やだ私、昨日真斗と…)」

昨晩の激しい情事を思い出して、顔が熱くなる。痛みが昨日のことが夢じゃなかったのだと実感させてくれる。誰も見ていないというのに、掛布団で赤くなった顔を隠した。


そういえば、真斗はどこだろう。布団で口元を押さえながら彼の姿を探すけど、寝室の中には居ないようだ。

ベッドサイドを確認すると、綺麗に畳まれた白いシャツが用意されていた。改めて自分の身体を見ると身に付けているのは下着だけ。昨夜は部屋が暗くて気付かなかった、鎖骨の下のキスマークに気付いてしまい、その生々しさにまた顔が熱くなる。服を着ても見えない場所に付けるところが、何とも真面目な真斗らしい。

…なんて、朝から勝手に幸せな気分に浸っていても仕方ない。とりあえず目の前のシャツを着て良いんだと勝手ながら解釈して、下着の上から被らせてもらった。



裸足のままスリッパを履いて寝室を出る。カチャリとドアを開けてリビングを覗くと、漂ってくる美味しそうな香り。キッチンまでトコトコと歩くと、大好きな彼がお味噌汁の味見をしているところだった。


「お、おはよう真斗」

昨日のことがあってか、やたら気恥ずかしい。うつむき加減で様子を窺うと、声で私に気が付いた真斗が優しく微笑む。


「おはよう」

寝起きからそこまで時間も経ってないはずなのに、しゃんとしている真斗。朝日がキラキラと差し込んでいて、余計にその笑顔が眩しかった。格好良くてきゅんってする。

あぁ、やっぱり好きだなぁって思うんだ。



「夜はよく眠れたか?」
「う、うん。朝、真斗が居なくてびっくりした」
「…あぁ、朝食の準備をしていたんだ。食欲はどうだ?」


話しながら真斗がテーブルにお皿を並べた。炊きたての白いご飯に鮭の西京焼き、ほうれん草のおひたしにお味噌汁…完璧な栄養バランスの朝食だ、美味しそう。


「うん、朝からちゃんと食べる派だから嬉しい」
「そうか、良かった。朝食は一日の活力になるからな」


椅子を引いて座り、真斗と向かい合わせになってお箸を手に取った。ほかほかと湯気が立つお椀を持ってお味噌汁を口元に運ぶと、出汁の味が口いっぱいに広がり身体に染み渡っていく。


「…美味しい!」
「口に合うか?」
「うん、すっごく美味しい」

本当に美味しくて、ついつい溜息が出ちゃう。昨日の夜ご飯の時も思ったけど、真斗は本当に料理が上手だ。特にお味噌汁は何杯でもいけちゃいそうなくらい。



「…なんだか」
「ん?」
「私があの程度の腕前で、真斗に料理を振舞ったのが申し訳なくなる」
「何を言う。七瀬の手料理も絶品だったぞ」
「嘘だー」
「嘘じゃない」


二人で同じタイミングで笑い合った。静かで穏やかな、朝の時間。
朝からこんな美味しい朝ごはんを食べれるなんて、なんて幸せなんだろう。真斗が一緒なら尚更だ。


「真斗は今日、朝から仕事?」
「あぁ。食事が済んだら支度をして出ようと思う。帰りは…夕方頃になるな」
「そっか。あの、じゃあ…」
「?」





「ここで、待ってても…良いですか」
「……」
「な、なんて」


図々しいのは百も承知だった。だけどこのまま帰るのがなんだかすごく惜しくて。驚いた顔をした真斗の視線に耐えられず、お椀を持ったまま下を向く。そのまましばらく俯いていると「七瀬」と私を呼ぶ優しい声が聞こえた。



「待っていてくれるのか」
「う、うん」
「そうか…嬉しい」


視線を上げると、真斗は本当に嬉しそうに目を細めて笑った。少し照れたように頬を染める笑顔は、昨夜の大人びた表情とはまるで違う。

まるで小さな子供のような、屈託のない笑顔に…またぐっと心が奪われちゃう。



「(可愛いんだけど…もう!)」


可愛いと言って嫌がられてしまった前科があるから、その言葉は私の胸そっと仕舞って。抑えられない頬のにやけを誤魔化すように、口角を上げて私も真斗と一緒に笑った。




prev next
bookmark back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -