【花の耳飾り】


「事務所のスタッフさんへの結婚祝いかぁ…」
「あぁ、すまない。何を贈れば良いか悩ましくてな」


真斗と付き合い始めて数ヶ月が経過したある日。
久々に休みが重なった今日は、真斗に「買い物に付き合って欲しい」と言われ、私達はとある大型雑貨店に来ていた。

色とりどりの、様々な雑貨が並ぶ店内。いくらでも見ていられちゃうくらい、わくわくする。それはきっと真斗が隣にいるのも理由の一つで。


「付き合わせて申し訳ない」
「ううん、一緒に居られればそれで良い」

それは本心だった。付き合って少し時間は経ったけど、好きという熱は全く冷めることはなくて、むしろどんどん気持ちは大きくなっていく。恋って、本当に素敵だ。


「でも良いね、メンバー全員からって名目でプレゼント用意するなんて」
「本当は全員で選びたかったが…スケジュールが合わなかったんだ。それで比較的、今仕事に余裕のある俺が」
「代表に選ばれちゃったんだ」
「選ばれてしまった」

困惑した様子の真斗は、普段贈り物を選ぶことに慣れていないと話してくれた。
私の意見で参考になれば…と思い、二人であれこれ言いながら、商品を物色しているところだ。


「俺は小切手が良いんじゃないかと提案したのだが」
「そ、それは止めた方が良いと思う」
「…む、そうか」

戸惑いながら変装用の眼鏡を指で上げた真斗は、本当に慣れてないんだろうな、と思った。ファンの人から贈られる事には慣れているだろうけど。
しゅん、と肩を落とす様子からするに、メンバーの皆さんにも反対されたんだろうな、小切手…。その場面を想像すると、悪いと思いつつもちょっぴり可笑しい。


「やっぱり、形に残るプレゼントって特別だと思うの」

私は展示されているペアグラスを手に取り、ぽつりと呟く。


「それを使ったり身につけるたび、贈ってくれた人のことを思い出すんだよ」
「……」
「それって、すごく素敵なことじゃない?」


私の話をじっと聞いていた真斗の口が、緩やかな弧を描いた。少し生意気なことを言ってしまったかな、と不安に思う間もなく私の持つグラスに真斗の手が伸びたから、自然とそれを渡した。


「これ、良いな」
「え?」
「揃いの器とカトラリーと、セットにして包んでもらおう。…どうだろうか」
「…うん!すごく良いと思う!絶対喜んでくれるよ」

つい大きめの声を出してしまった私に、「ではこれにしよう」と納得したように真斗が頷いた。

声をかけてくれた店員さんと、真斗のやり取りをそわそわしながら横で待つ。私が役に立てたかどうかは別にして、良い物が選べて本当に良かった。


在庫の有無と色の確認をして、レジの方へ向かう真斗は、私の方を振り向いて「少し待ってくれ」と話しかける。


「うん。…あ、ちょっと向かいのお店見てても良い?」
「構わないぞ」

包装に時間がかかりそうだからな、と言う真斗の言葉に甘えて、一人私は先に雑貨店を出た。



向かいにあるのは、私が大好きなジュエリーショップ。少しだけ…見るだけ…と思いながらも足はどんどんお店の奥まで進んでしまう。

明るい店内に、キラキラと輝く金や銀のジュエリー。この煌びやかで夢のような雰囲気が、すごく好きなんだよね。


「わ、可愛い!」
「こちら、秋冬の新作になります」

見て回っている内に、ショーケースの中で一際目を引くジュエリーに出会った。

それはお花を形取った小ぶりで揺れるタイプのピアス。真ん中には控えめにダイヤがあしらわれていて、そのさり気なさが惹かれるデザインだ。
どうしよう、すっごく好み…!

そのお花がどこかブルースターに似ていて、それもまた惹き付けられる。


「ご覧になりますか?」
「ありがとうございます」

手袋をした店員さんがショーケースからピアスを取り出し、トレーに乗せて目の前で見せてくれた。近くで見るとやっぱり可愛いなぁ…。今日は買うつもりはなかったのに、その可愛さについ欲しくなっちゃう。

だけど…トレーに乗った値札を見て、ぎょっとした。


「(たっか……!)」


ね、値段は全然可愛くないじゃん!さすが新作…!
どうしよう、欲しいけど…今の手持ちを考えるとちょっと厳しい。給料日前だし節約もしたい。

…うん、仕方ないよね。



「(冬のボーナスが出たら買いに来よ…)」
「気に入ったのか?」
「わっ!びっくりした…驚かせないで真斗」
「良いじゃないか、似合いそうだ。すみません」


買えないピアスを前に小さく溜息を吐いたその時、突如後ろから身を乗り出したその声に驚く。買い物を終えた真斗だ。片手にプレゼントの袋を提げた真斗は、目の前の店員さんにごく自然に声を掛けた。


にこやかに会話をする二人に呆気に取られる。そしてあれよあれよという間に、何だか購入する流れになってしまっている…!

「ね、ねぇ」と真斗の服の裾を引っ張るけど、真斗は「どうした?」と穏やかに返事をしてくれるだけだ。


「ラッピングは如何なさいますか?」
「はい、贈り物用でお願いします」
「ね、ねぇ真斗…本当に大丈夫だってば…悪いよ」


さぞ当たり前かのようにお財布を出す真斗と、笑顔でカードを預かりカウンターを一旦離れた店員さんに、私はついていけないままだ。確かに欲しいとは思ってたけど…これじゃあまるで遠回しに買わせてしまったみたい。今はとにかく嬉しい気持ちよりも、申し訳ないという感情の方が大きかった。


「特別高価な物でもない、プレゼントさせてくれ」
「じ、十分高価だと思いますけど…!」


未だにこの金銭感覚の違いには慣れない。慣れないんだけど…!

真斗は本当に何も気にしていない様子で店員さんからピアスの入った紙袋を受け取っていた。お店の外で、それを渡されて…大好きなお店のロゴが入った紙袋はやっぱり嬉しくて。でも私は素直に受け取る事が出来ず、一旦遠慮がちに伸ばした手をすぐに引いて戻した。


「申し訳ないと思っているか?」

真斗の言葉に、私は何も言えず首だけ縦に振った。プレゼントは嬉しい、真斗の厚意も無駄にはしたくないし本当に嬉しいの。けど、


私はいつも真斗に与えてもらってばかりで、私ばかりこんなに優しくしてもらって良いのかなって。それが、ただ不安だった。


「うむ、そうだな。では少し早いがクリスマスプレゼントということで、どうだ?」


真斗は私が受け取りやすいように、しっかりと言葉を選んでくれているのだと思った。顔を上げると優しく微笑む真斗がいて、その優しさに結局は甘えてしまう。おずおずと手を差し出して、紙袋を受け取った。中から覗くのは小さな正方形の箱、可愛らしくリボンも掛けられている。本当に、贈り物用に包んでくれたみたいだ。


「ありがとう、すっごく嬉しい」

紙袋を抱き締めて、ようやく素直にそう伝えることが出来た。そんな私に真斗も安心した表情を見せてくれて、それがまた嬉しくなった。


「今度何かお返しさせて?そうだ、真斗はクリスマスプレゼントに欲しいものはない?」
「俺のことは気にするな。七瀬が喜んでくれるなら俺はそれで満足だ」
「そ、それはダメだよ!私もちゃんとお返ししたい」


私の手を引いて歩き出す真斗を見上げて、もう一度欲しいものはないかと聞いても真斗は「考えておく」と言って、結局誤魔化されてしまった。


私だって真斗に何かあげたいのに…。教えてくれないなら自分で考えてみよう…何が良いかなと勝手に考え込んでいると、「七瀬」と私の名前を呼ぶ真斗の声が聞こえて顔を上げた。


「身につけるたび、俺のことを思い出してくれるのだろう?」
「……」
「それで十分だ」


握った手に、真斗がきゅって力を入れたのが分かった。

プレゼントなんてなくても、いつでも想っているのに…私はこんなにも真斗が大好きで、ずっと一緒に居たいって願ってるって。


「…うん、大切にするね」

その気持ちがとにかく伝わるように、今度は私が繋いだ彼の大きな手を握った。


そして…こんな風に、幸せで満たされた時間が永遠に続きますように、なんて月並みなことを改めて願ったんだ。



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