【恋した予感】


【今日はありがとう。無事家に到着しました】

「送信…っと」


LINEを打ったスマホを片手に握ったまま、ぽすんっとクッションに頭を乗せて横になった。

あの熱を出した日を例外として、いつもデートの後は少し離れた場所で解散する。聖川くんははじめ家まで送るって譲らなかったけど、万が一スキャンダルになったらと思うと怖くて、私から提案した。だけど聖川くんは必ず「家に着いたら連絡してくれ」と言う。もう子供じゃないし平気なのに……そう思いつつも、彼に心配をかけてもらっていることは、単純に嬉しかった。


もう、私ってばこの間から本当にどうかしてる。
こんなに、聖川くんのことばかり考えてるなんて。

目を閉じても浮かぶのは、聖川くんの優しい笑顔だけだ。


…聖川くんは、私のことをどう思ってるんだろう。仲の良い仕事仲間、くらいにしから思ってないのかな。この前の発言は、ただの気まぐれだったのかもしれない…うん、きっとそうだ──そう自分に言い聞かせてスマホを握った。


間もなく、通知音が鳴る。

画面を開くと【良かった。俺も楽しかった。また連絡する】というメッセージが表示された。


メッセージアプリの何も設定されていないプロフィール画像と、聖川真斗の名前をそっと指でなぞる。


「……まさと」

蘭丸が前、聖川くんをそう呼んでいた。
ちょっとだけ、良いなって思ってしまった。



………


って!一体何言ってるの私!



「やだやだ!気持ち悪いにも程がある!」


部屋に響き渡る大袈裟な独り言。
横向きに寝ていた身体を回転させて、クッションに顔を埋めてうつ伏せになった。

心を落ち着かせようと、足をバタバタと動かす。まるで不審者だ。だけどこんなにもドキドキするのだから仕方ないんだもん。

聖川くんはずるい。ふとした言動にも、いちいちときめいてしまうというか…。


もうこれは、


「(…好きになりそう)」


でも相手は芸能人。しかも育ちの良いおぼっちゃまで、節約が趣味な一般人OLなんて見向きもされないだろう。

身分不相応も、いいとこ。
そう自分に言い聞かせている。





それなのに、


「また新しい服買っちゃった…」


新品の半袖ブラウスとフレアスカートを着て、小さく溜息を吐く。こうして今日も、また聖川くんと会う。だって、何度だって会いたくなっちゃう。

その理由を本当は、私はもう分かってしまっている。





──


「ごめん!お待たせ」
「いや、俺も今来たところだ」

私が来たことを確認して、すぐにスマホをポケットに仕舞って微笑んでくれる。そんな何気ない仕草だって気になって、きゅんってしちゃう私は、

「(相当、重症かもしれない)」


食事をしてお酒を飲みながら、いつも色々な話をする。一番多いのは聖川くんのお仕事の話で、今こんな作品を撮影しているだとか、こんな人と共演してどんな印象だったとか。あとはプライベートでST☆RISHのメンバーと遊んだこととか、たくさん話してくれる。

そんな華やかな聖川くんの話題と違って、私は最近ハマっているお料理とか、仕事で失敗した話とかそんなのばかり。けれど聖川くんはいつも楽しそうに聞いてくれるから、それがすごく嬉しい。


「ははっ…!面白いな櫻井さんは」
「ちょっと!笑わないでー」

最近ようやく彼も敬語が抜けてきた。
相変わらず、呼び方は櫻井さん、だけど。


ここ最近の帰り道は、いつも少しだけ遠回りをして帰る。こんな時間が少しでも長く続くようになんて、心の中で祈りながら。


「ね、聖川くん」
「どうした?」


私の方を振り向いて微笑むその姿に、またきゅんってするんだ。

「(名前で呼んでなんて言ったら、図々しいかな)」


言おうとした言葉を飲み込んで、私も同じように笑い返した。


「ううん、何でもない……あっ!」
「あ、すみません」


すれ違いざまににスーツ姿の男性と肩がぶつかる。踏ん張ろうとしたけど履いていたヒールが高かったせいで、足をくじき転びそうになってしまった。

「……っ」
「大丈夫か?」

咄嗟に聖川くんが私の身体を受け止めてくれる。
しっかり抱いてくれる腕が男の人だって改めて実感させられて。
それに耳元に彼の吐息がかかって、ドキドキが止まらなくなった。


「ご、ごめん…ありが、とう」
「櫻井さんに怪我をされたらたまらないからな。何もなくて良かった」


いつも見ている顔が間近にある。
少し近づけば唇すら触れてしまいそうな距離に、心臓が破裂しそう。


「まったく…だから目が離せないんだ」


もう、そんなに優しく笑わないで。


「じゃあ、行こうか」
「…うん」


どんどん、好きになっちゃうから。

好きだと自覚したら、もう止まらなくなる。




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