プラネタリウムが終わって外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。昼間からずっと一緒に居ると余計に、「今日が終わっちゃう」と切ない気持ちに駆られる。

今日はもうバイバイなのかな。トキヤはきっと明日もお仕事だ。握られた手にきゅっと力を入れると、それに気付いたトキヤが私に視線を移した。


「紗矢」
「ご、ごめん…今日が終わるのが…寂しくって」
「またそう、可愛いことを言うのですね」

行きましょうか、と言ったトキヤは片手を上げてすぐにタクシーを止めた。乗り込んで流れていく街並みを眺めていると、私の自宅とは真逆の方向へ進んでいることに気付く。

そして、到着したのは──




「えっ…ここ…」
「行きますよ」


潮風が吹く海辺に、泊まっていた一船の白いクルーズ。躊躇なく乗り込むトキヤに促されるまま甲板まで足を運べば、タイミングを図ったかのように船が動き出した。

今日は…本当に、びっくりすることが続く。



「人、誰も居ないね」

海風に靡く髪を抑えながら、辺りを見渡しても私とトキヤ以外の人影は見えなかった。「もしかして、貸切?」と尋ねると、トキヤはそれがさぞ当たり前かのように頷く。


「こんなの初めて…」
「海から眺める夜景も綺麗でしょう?」
「うん…ありがとう、トキヤ」

こんな素敵なデート、私にはもったいない。私はただ、あなたが隣にいるだけで幸せなのに。


手すりに腕をかけてたトキヤが、私に向かって優しく微笑んだ。トキヤのバックには東京の夜景とさらに輝く星空が見える。プラネタリウムの時と体勢も背景も違うけど、彼はいつもいつでもとびきり素敵だ。


「少し、冷えますね」

するとトキヤがそう言って、自分の来ていたグリーンのジャケットを脱いだ。私の肩にかけてくれるのは嬉しいけれど、さすがに悪いと思ってその手を止めた。


「大丈夫!私マフラーあるし…トキヤが風邪引いちゃう」
「気にしないで下さい。…それと、もうひとつ」
「え?」
「贈りたいものがあるんです。渡しても良いですか?」


私の肩に掛けられたジャケットの内ポケットから、トキヤが何かを取り出した。黒い小さな箱に首を傾げていると、私の目の前でトキヤがそれを開く。



「わぁ、可愛い…!」

中に入っていたのは、二つに並んだシルバーのネックレス。デザインが控えめのシンプルなもので、普段使いも出来そうだ。

トキヤが私のうなじに手を回して、後ろの留め具を止めてくれる。同じようにもうひとつのネックレスはトキヤの首元に。ふたつでひとつの、お揃いのネックレスだ。


「ずっと、揃いの物が欲しいと言っていたでしょう?」
「…うん。すっごく嬉しい」


恋人なのだからペアの物が欲しい、と我儘を言って見たことがあった。アイドルのトキヤが簡単に付けれるはずがないと諦めていたのに。トキヤは「これなら洋服の下に隠せますからね」と言って、ネックレスを選んだ理由まで教えてくれて。


「付けて…」
「紗矢?」
「付けてて、くれるの?」



「もちろんですよ、肌身離さずに」


トキヤの答えが嬉しくって、私はネックレスをきゅっと握ったまま、ヒールの履いた足元で背伸びをした。ありがとうの意味をたくさん込めた、私からのキス。唇が離れたと思ったらすぐにトキヤに後頭部を掴まれ、お返しの口付けをもらう。

甘い甘いキスを交わす私達の姿を、海の冷たい風が揺らしていた。








「まさか…部屋になってるなんて…」

クルージングなんて生まれた初めてだったから、内部がどうなっているのかよく知らなかった。小型のクルーズとはいえ豪華な作りの最新型(らしい)、しっかりと仕切られた部屋は小さめだけれどゆっくり過ごすには不自由ない。



「もう少しだけ、船旅を続けましょう」
「…帰らないの?」
「おや、悪い子ですね…分かっているくせに」

私の顎を持ち上げたトキヤが至近距離で微笑んで、私の腰を撫でた。その感覚に、ぞくぞくと背中が震える。


「だってトキヤが…」
「私が?」
「えっちなキス…いっぱいするから…」


薄暗い部屋に、すぐそこに見えるベッド、目の前に居る大好きな彼。そしてホワイトデーという特別な日。こんなムード満点なんだもん、私だって欲情しちゃう。

ううん、本当はずっと…トキヤに触れられたかった。もっとくっつきたかった。


顎に指を添えたまま、トキヤが私の唇を奪った。舌を絡め取られながら、自然と足はベッドへ向かう。

何度も唇を食べられて、口周りが濡れてしまった頃に、背中が柔らかいベッドに落ちた。手の平は太股を撫でながら、器用に捲り上げられるニットワンピ。胸元までたくし上げられ、両手をバンザイするように上げて脱ぐのを手伝う。


「やはり、ワンピースは良いですね」
「な、にが…?」
「脱がせやすくて」
「そ、そんな理由!?」

せっかくトキヤが好きだって言うから、可愛いの着てきたのに…!むぅ、と頬を膨らませると「おやおや、可愛い顔ですね」と笑ってからかってきた。そうやって言えば、私が喜ぶことを分かってるんだ。


尖った唇をあやすように、優しくトキヤの唇が触れた。すぐに飲み込まれてまた、深い深いキス。今日は本当にたくさんキスしてくれるから嬉しくて。

夢中になってそれに応えていると、トキヤの指が下着越しに胸の突起を優しく摘んだ。キスで敏感になっているせいか、いつも以上に身体が跳ねる。


「んぅ、あっ…」
「あぁ本当に可愛い。…愛してますよ、紗矢」


まるでクッキーのように甘い言葉に、酔いしれてしまいそう。


「あっあ…きもちっ…」
「色っぽい下着ですね…期待していたのですか?」

今日のことを、と。耳元に唇を寄せられ囁かれると、それだけで感じて声が漏れた。いつもより背伸びしたセクシーな黒い下着も、トキヤの為に買ったもの。そのブラのカップにトキヤが唇を寄せる。

下着ごと胸を唇で挟まれれば、曖昧な刺激が私を襲った。焦れったくて腰を揺らせば、それに気付いたトキヤがすぐに片手でホックを外す。


「脱がせるのは勿体ないですが…紗矢が言うなら仕方ないですね」
「なにもっ…言ってな…」
「身体が言ってるのですよ」


露になった胸の突起が、ピンと勃ち上がってるのが視界に入って恥ずかしい。それから目を逸らしたくて、上目でトキヤの顔を見上げればトキヤは触れるだけのキスをくれる。そっと微笑まれたかと思ったら…ぐっと両手首を掴まれ、頭の上で一纏めにされた。


「…ひぁっ!?」

予想だにしない部分に刺激を感じて、咄嗟に抵抗しようと腕を動かす。けど当然トキヤの力によってそれは簡単に阻まれた。

腕を上げたことによって、無防備になった腋。そこにトキヤの舌が滑る。擽ったいはずなのに、ぬるぬるとした感触に身体がたまらなく反応しちゃって。ううん、それよりも、さすがにこれはっ…!


「だめっ…やだやだっ!恥ずかしいっ」
「何故です」
「だって…そんなとこ、汚いっ…」

ちゃんとケアしているとは言え、綺麗な場所ではない。冬だって汗はかくから臭いだって気になるのに…!トキヤはお構いなしに、そこを何度も何度も舐める。


「あぅっ…ぁっ、んん…」

羞恥心と快感が相まって、思わず変な声が漏れた。嫌なはずなのに、気持ち良くてたまらなくて身体をくねらせた。トキヤの舌はなかなか止まってくれない。


「あぁ、たまらなく興奮します…紗矢」
「もっ…いやっ…」

ようやく腕を解放されたと思ったら、トキヤの舌が今度は胸の谷間に落ちる。形を確かめるように口元で撫でられ、執拗に突起を攻められていく。

舌先でつつかれたと思えば、舌で弾かれ時々音を立てて吸われて。その刺激は止まることを知らずに、どんどんと私を快感へ追い詰める。


「やっ…も、胸ばっか…」
「胸ばかり?ではどこに触れて欲しいのですか?」
「いじわるしないで、ばかぁ…」

私の考えを読んだように、舌を這わせながらトキヤの顔が太股まで移動した。黒いショーツ越しに、ちょんっと舌先だけが触れる。


「んっ…!」

肝心な部分にはそれしか触れてくれず、今度は太股の付け根をじっくりと舐められる。違う、そこじゃないよ。そう訴えたいのに…ぬるぬるとしたその刺激すらも強い快感を与えるから、上手く言葉が紡げない。


「あっぁ…ひぁっ、んぅ…」
「下着をこんなに湿らせて…いやらしい」
「だって、トキヤがぁっ…!」


ショーツを脱がされて顔を埋められるも、トキヤは直接そこを弄ってはくれなかった。ぎりぎりの部分を舐められ、腰を動かしても意地でも触れてくれない。すぐ、そこを舐められたらイけるのにっ…。

焦らされて、焦らされて。こんなにも全身を舐められてるのに、中々限界には達することが出来なくて。



「ひっ…く、もういやぁ…」
「あぁ、泣かないで。そんなにイキたい?」
「うんっ、うん…!」
「では、ちゃんと言葉に出せますね?」


いつにも増して今日はとことん焦らされる。まだ、一回もイッてないからその快感が恋しくて欲していて。



「ときやのっ…ちんちんで、紗矢のおまんこ…ぐちゃぐちゃにしてっ…」


もう私には羞恥心なんて残っていない。ただあるのは、トキヤが欲しいという本能だけ。




「合格です」
「ああっ…!きもちぃっ」

満足そうに、そして興奮したように自分の唇を舌で舐めたトキヤがベストとシャツボタンを外してバッと服を脱いだ。足を開かれて、ぐっと奥まで一気に挿入される。


「トキヤっ」

待ち侘びた、快感。規則的なリズムで突かれてそれが奥まで届く度気持ち良すぎて声が溢れた。だけどそれ以上に、私には気になることがあった。トキヤから貰った首元のネックレスだ。


「これっ…壊したくないから、外したい…」
「そこまで脆くありませんよ」
「けどっ…」
「良いんです、このままで」


トキヤが身体を倒して、私の首元を舌でツーっとなぞった。そしてネックレスのチェーン越しに、私の首に今日何度目か分からないキスを落とす。



「そそられるでしょう?」


トキヤの首にかかったお揃いのネックレスが、律動に合わせてゆらゆらと揺れる。普段はあまり身に付けないシルバーの装飾物が、トキヤの白い肌に映えて…それが何とも綺麗でかっこよくて、目を奪われる。


「ほらっ…余所見しないで」
「あぁっ!んっ…やっや、はげしっ…!」


片足を上げられれば、更に深く奥まで繋がる。ガンガンと激しく突かれ快感へと誘われた私は、焦らされていたこともあり、あっという間に限界を迎えそうだ。


「あっ、いっちゃ…いっちゃうっ…トキヤぁ…!」
「紗矢」
「んっ?ぁっ…」
「何度でも言いましょう、愛しています」


舌を吸われながら達すると同時に、太股に熱い液体が注がれた。息を切らしたトキヤが私の身体の上に倒れ込むと、まるでキスをするみたいに、ペアのネックレスがカシャンと重なった。




  
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