真斗くんが禁欲した場合


最近、真斗の様子がおかしい。

「では今日はそろそろ帰るな。おやすみ」
「お、おやすみ…」
「どうした?」
「ううん、何でもない」

いつもは家に来ても泊まってくれるのに、最近は帰ることが多くなった。玄関の先まで見送るけど、バイバイするのが寂しくて切ない気持ちになる。そんな私の様子気付いた真斗は、顎を持ち上げて触れるだけの優しいキスをくれた。


「じゃあ、また」

パタンと静かに閉まるドアをぼーっと見つめる。また、触れるだけのキスだけだった。ここ最近はずっとそうだった。


今までは毎回デートの度に身体を重ねていた。自然な流れ…と言うより真斗が強引に攻めてくる事が比較的多いけれど、最近はそれもない。

もう…最後にシてから2ヶ月は経っている。こんなこと、今まで一度もなかったのに。


「私、何かしたかな…」

もしかして太ったとか…!?それで性欲が湧かなくて、みたいな…?有り得るかもしれない…だって真斗の作るご飯美味しくてつい食べ過ぎちゃうし…!


入浴前、下着姿になって全身鏡の前でくるりと一回転する。そこまで、スタイルは変わっていないような気がするけど…体重計に乗っても表示される数字はいつもと変わらない。

鎖骨に付けられたキスマークは、とっくに消えてしまっている。跡が残っていたはずのそこを指でなぞると、切ない気持ちになって胸が締め付けられた。いつもなら、消えちゃう頃にまたすぐ付けてくれるのに。


お風呂に入ってもお布団に入っても、考えてしまうのは真斗のこと。欲してしまう、真斗の温もり。自分で自分の身体を抱き締めても、その寂しさが埋まることはなかった。








───


「今日はお仕事遅くなりそう?」
「いや、夕方までには帰ってくる予定だ」
「じゃあ、このまま真斗の家で待ってても良い…?」


そんな日々にも慣れてしまってきた頃、またお家デートの日がやって来た。ここ何日かは外出することが多かったから、真斗の家に来るのは久しぶりだ。

最近の様子から考えると、断られてしまうかな…。断られるのが怖くて目をぎゅっと瞑っていると、頭にぽんと真斗の手が乗った。
そのまま髪を撫でられて、額にちゅっと落ちるキス。


「分かった。帰る頃にまた連絡をする」
「…うん。家の事して待ってる」
「ありがとう、では行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」



真斗が部屋を出たことを確認して、キスをされた額を手で抑える。甘くて優しい…けど少しだけ物足りない。焦れったい。


「はぁ…わがままなのかなぁ…」

真斗だって仕事で疲れてるだろうし、そりゃしたくない日だってあるはず。私の欲求の解消のために付き合わせるのは気が引けちゃう。
…多分真斗なら、誘ったら抱いてくれるんだろうけど。


「(負担には、なりたくないもん)」


気を取り直して家事に取り掛かろうと、掃除機を手に取った。言っても真斗はこまめに家事をする人だからお家は本当に綺麗なんだけど…何か手を動かしている方が気も散って、少し気持ちが楽になるから。


掃除機をかけ終わると、乾燥機のアラームが鳴る。洗濯物を取り出して、ひとつひとつ丁寧に畳んだ。シャツは別にしてアイロンをかけてから仕舞おう。アイロンは確か寝室だったはず…真斗のシャツを抱えたまま、私は寝室へと移動した。そこで目に入る、ピンとシーツが張られた綺麗なベッド。


「…最近、ずっと一緒に寝てないよ」


どうしても温もりが恋しくなってしまった私は、シャツを両腕に抱えたままそこに横たわった。まだ真斗は当分帰って来ないはず。ちょっとだけ、ちょっとだけ…。


ふわふわのベッドに横になり、真斗のワイシャツを抱き締める。すん、と襟の部分を嗅ぐと柔軟剤の香りに混ざって、真斗の香りがした。
こうしていると、真斗に抱き締められているみたいだ。その感覚が堪らなくて、シャツにもう一度顔を埋めた。


「莉子」

私をぎゅっと抱き締めて、耳元で囁いてくれる真斗…そんな真斗が、本当にここにいるみたいに思えて。胸がきゅんっとなって体温が上がっていく。

真斗の姿を思い浮かべるとドキドキすると同時に、子宮の奥がきゅんって締まるような感覚がした。あ…どうしよう…。


「(な、んか…)」

今、すごく真斗に触れて欲しい。
いっぱい抱き締めてキスして、愛して欲しい。
これが俗に言う…むらむらする、という感覚なのかな。


「んっ…」

大丈夫…真斗はまだ帰ってくる時間じゃない。
真斗のシャツを抱き締めて、その生地をはむ、と噛んだ。少しでも、キスしている錯覚に溺れたくて。
真斗の唇が私に触れる。いつも優しく何度か啄んだ後、ゆっくりと舌を吸われて…絡まって。そんなとんでもない妄想をしながらついに、私は自分の胸に手を伸ばした。


服の裾から手を入れて、ブラの上から右手で胸を揉む。固くなっている突起は、気の所為なんかじゃない。それをきゅっと摘んでクリクリと優しく左右に動かす。
いつも、真斗がしてくれてるみたいに。


「んぁ…あっ…」

口から自然と声が漏れて、それを止めるようにシャツに顔をうずめる。なのに胸を弄る手は止めることが出来ない。
いつもなら、真斗が口に含んで吸って舌でなぞって…そう、想像するだけで全身が疼く。


どうしよう、もう。

「(だめ、なのにっ…)」

そう思うのに私は、ついにスカートの中にまで手を入れてストッキング越しに秘部に触れた。
下着の上からでも分かるくらい、しっとりとした感触に指が震える。

やだっ…こんなに濡れてる…。


「あぁん、ぁ…」

割れ目を縦にゆっくりとなぞると、くちゅくちゅといやらしい音が響いた。段々と濡れていく下着に我慢が利かなくなる。

ストッキングを脱いで片足に引っ掛けたまま、ショーツの横から指を差し入れ、直接触れるとダイレクトに刺激が伝わった。


「んっ、ふっ…ぁっあ、」

直接自分で触れるのは抵抗があった。だげどそれより、気持ち良くなりたいという欲が勝ってしまう。ぬるぬるとした感触に戸惑い、ナカに指を入れるのは躊躇いがあったけど、それでももう止まらない。音を立てて飲み込んでいく自分の指の感触に、全身が大きく震えた。


「あぁっ…真斗っ…」

ゆっくりと出し入れしながら、その指が真斗の物であると想像する。真斗の細くて長い指が、いつもココに入ってるんだ…。

エッチの時、いつも奥を擦って弱い所を攻めてきて…その場面を思い出すことは出来るのに、いざ再現すると思った場所に指が届かなくて、焦れったくてきつく唇を噛んだ。

違うっ…ここ、じゃなくて…もっと奥なのに…。


「ふっ…んぁ…真斗、まさとっ…」

ひたすら名前を呼んで、縋るようにシャツを抱き締め指を動かして水音を立てる。その度に腰が揺れて、もう少しなのにぎりぎりのところでイけなくて…やだ、もう…!



「まさ、と…イけないよぉ…あっ、あ…!」
「莉子、こんな所に居た、の、か…」
「……っ!?」


まさにその時だった。
真斗本人が、寝室のドアを開けて私の目の前に現れたのは。驚いた顔をした真斗と、ばっちりと目が合ってしまう。


「い、や…どうしてっ…?」
「…仕事が急遽延期になったんだ。一応、連絡は入れたのだが…」

大慌てで起き上がり、スカートを直した。濡れた指は洗濯したてのシャツで隠す。そうだ、スマホ…リビングに置きっぱなしだった…!そのせいで真斗からの急な帰宅の連絡に気が付かなかったみたい。それに、帰って来て玄関を開ける音にすら、気付かなかったなんて…!



「えっと、これは…!ち、違うの!そのっ…」
「……」
「洗濯物、畳んでて…っそれで…アイロン探して…」


火照っていた顔が一気に青ざめる。最悪なところを、見られちゃった…!
必死でつらつらと言い訳をするけど、真斗は何も言わない。それが余計に恥ずかしくて惨めで、俯いて膝の上で拳を握った。片足に引っかかったままのストッキングが生々しい。

最悪…絶対引かれたし、嫌われる…!


ぎゅっと目を瞑っていると、ずっと黙っていた真斗がベッドに近付く気配がした。
ギシ…とベッドが軋む音がしてすぐ、隠していた右手を勢い良く掴まれる。


「じゃあこれはどうした?」
「…っ、これは…」

べっとりと、濡れた中指。それを見せつけるかのように、真斗の舌が指に付着した液を拭う。
口から覗く、赤い舌と突き刺すような視線に、ぞくぞくっと身体が震えた。


「…ひぅ、ぁ」
「そうか、そんなに欲求不満だったか。俺の服を使って妄想して…自慰して一人でヨガっていたのか?」
「言わないでっ…やだぁ…」

言葉にされると、消えちゃいたいくらい恥ずかしくて…数分前の自分を呪いたくなった。だって、まさか見られるなんて。

知られたくない、私が…こんなにエッチだったなんて。


「ひぁっ…!」
「もうグショグショじゃないか。ほら、欲しいだろう?足を広げろ」
「やっやぁ…!」


ずっと欲しかった真斗の指が、私のナカを貫いた。焦らすことなく、一気に奥まで届いて激しく出し入れされて…


「だめっ!ぁ、やっん…!あっあーっ!」

待ち焦がれた刺激。愛しくて堪らなかった真斗の温もりを、すぐそこに感じる。


ぱしゃぱしゃと、私にまではっきりと音が届いて、きゅうっと下が収縮したのが分かった。すぐに頭が真っ白になって…くたっと全身の力が抜ける。そのまま私はベッドの上に横向きに倒れ込んだ。


「はぁっ…はっ…はぁ…」

肩を上下に揺らし、呼吸を必死に整える。抱き締めていた真斗のシャツはもうすでにしわくちゃになってしまっていて…もう、何も言い訳が出来ない──恐る恐る真斗の顔を見上げると、

息を荒く乱した真斗がそこにいて。


「あっ…」
「莉子」

欲望に濡れた瞳で射抜かれた瞬間、これから与えられるであろう刺激に期待しちゃう私がいて。

ぞくぞくと背中を震わせて両手を伸ばした瞬間、覆い被さってくる大きな身体。その温かさにもっと溺れたくなって、真斗の身体をきつく抱き締めた。




  
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