金魚のように


夏の夜、大好きな人と浴衣を着て花火の下で甘いキス。そんな夢のようなひとときを過ごしたのに、

まさかあんなことになるとは、想像していなかったの。




「……」
「怒っていますか?」
「ちょっとだけ」
「紗矢も喜んでいるようにしか見えませんでしたよ?」
「ち、違うもん!」

指を絡めて手を繋ぎ、露店の間を通る帰り道。夏の蒸し暑さも人混みも、トキヤと一緒なら苦じゃない。


「時間遅くなっちゃったね」
「私の家に泊まりますか?」
「うん!そうする──」
「あれ?もしかして紗矢ちゃん?」

後ろから聞こえた男の人の声に、トキヤと繋いでいた手を咄嗟に離した。アイドルと仲睦まじく歩いているところ、他の人に見られない方が良いかなって思っての判断だった。


「え?もしかして先輩!?」
「そうそう!久しぶりだね、元気だった?」
「はい!元気です!先輩もお変わりなく?」
「うん、普通にサラリーマンしてるよ」
「……」

偶然会ったのは高校生時代の部活の先輩だった。卒業して以来だから会うのは数年ぶりだ。先輩は友達とお祭りに来てたんだけど現地で解散したから、一人で帰路についているところだと話してくれた。


「浴衣可愛いね。それに紗矢ちゃん、すごく綺麗になった」
「あ、ありがとうございます」
「この後時間ある?良かったら飲みにでも…」
「あ…えっと、実は──」
「すみませんが」

丁重にお断りしようとしたら、横からトキヤが私と先輩の間に割り込んだ。私なりにバレないように配慮していたっていうのに、トキヤはお構い無しという感じで、先輩の目の前で堂々と私の肩を掴んだ。


「予定がありますのでこれで失礼します」
「え?あ…」
「ご、ごめんなさい先輩!私…」
「紗矢行きますよ」
「ちょ、トキ…待ってってば!」

ずんずんと先に歩いていくトキヤに連れていかれるがまま、私達はその場を後にする。ちらりと振り返ったら先輩が呆気に取られた顔で、呆然と立ちすくんていた。



肩を掴む力が強い。何度も呼ぶのに何も言わないトキヤ。このまま家に向かうのかな、と思っていたらいつの間にか大通りから外れた道を歩いていて、小さな公園に辿り着いていた。


「とーきーや!ちょ、痛いってば!」
「……」
「もう!一回止まって!」

ようやく歩みを止めたトキヤは、ゆっくりと私の肩から手を離した。どうしたんだろう、なんか…

いつものトキヤらしくない、気がする。


「誰です」
「へ?」
「今の男」
「あぁ…えっと、高校の頃の先輩だよ」
「随分親しげでしたが?」

あ、これ怒ってる。そこで初めて気が付いた。

「別に、普通だと思うけどなぁ…ただの知り合いだよ」
「本当にそれだけですか?」
「う…」

トキヤは勘が鋭い。多分空気とかそういうのですぐ察するんだと思う。これは適当に誤魔化してもバレてしまう、そう観念した私は小さく口を開いた。ネイルを施した指先を弄って、視線を逸らす。


「えと、実は…」
「はい」
「昔、好きだった人…」
「は?」


圧が!圧がすごい…!


「む、昔の話だよ!今は別に…会うのも久々だったし、ていうか本当にたまたまだから!」

両手を振って弁明するけど、トキヤの表情は変わらない。いつもと違う冷たい視線が私を突き刺す。
どうすれば良いか分からずにいると、トキヤが何も言わずに力強く私の腕を引く。そしてそのまま公園のベンチを飛び越え、茂みの中へと連れ込まれた。


「トキヤ…?」

立ったまま木に背中を預けられ、押し付けるように両手首を握られた。掴まれた手首が痛い、トキヤ…絶対怒ってるじゃん…!


「あ、あの…ごめんなさ──」

謝罪の言葉を紡いだ唇は、すぐにトキヤに塞がれてしまった。さっきの花火の時ともまた違う、激しく攻められるキス。いやいやと首を横に振っても、トキヤの舌が追いかけてきて逃れられない。


「んっ…ふっ…」
「……」
「ふぁ、ときや…な、んで?」
「何故?『可愛い』と言われあんなに嬉しそうな顔をしていたのは、あなたでしょう?」
「ひあっ」

キツめに締めていた帯にトキヤの手の平が入り込む。いとも簡単に緩められ胸元に隙間が出来て、鎖骨に強く吸いつかれた。
きっとキスマークが付いてるであろうそこに、トキヤの舌が這う。


「違うっ…それは…!」

弁明する暇など与えられず、ぐいっと浴衣を開かれ露わになった胸を、ぎゅっと揉まれる。ぐにぐにと形を変えながら触れられ、それはいつもより力強くほんのり痛みが走る。


「違う?何がですか?」
「あれは、んっ、はぁ…」

大きめに開いたトキヤの口が、下着ごと胸の突起を飲み込む。食べられるように激しくうごめく唇に、全身が震えてしまう。ここ、外なのに…!


「トキヤの為にお洒落したの、褒めてもらえて…嬉しかったからっ…」
「……」
「本当、だもん」


そこまで話して、全身をまさぐっていたトキヤの手がようやく止まる。いつの間に、足の間まで触れられていたのだろう。自分でも下着が濡れているのが分かって、恥ずかしい。だけど今はとにかく、この気持ちをトキヤに知って欲しくて。


「けど本当はっ…トキヤに一番に可愛いって、褒めて欲しかったの…」
「紗矢…」
「だけどトキヤ、言ってくれない、から」

小さな声でそう呟くと、トキヤの目が驚いたように大きくなった。しばらく、沈黙が続く。



「…すみませんでした」
「…ぁっ」

トキヤの目が優しく細められ、ほっとしたのも束の間──ずぷっと音を立てて、トキヤの指が私のナカに侵入した。突然の刺激にびくっとして腰を引こうとするも、トキヤの身体がそれを阻んだ。


「可愛いですよ、紗矢…浴衣も、似合っています」
「あっ…ん、ほんとう…?」
「えぇ。ですが──今の顔はもっと可愛い」

今までの少し乱暴な行為とは違う、腫れ物に触るように優しく頬を滑るトキヤの手。優しく微笑んでくれるトキヤにうっとりしていると、



「きゃぁっ…!」

突如下部に走る刺激と全身を襲う快感…立ったままの状態で、トキヤが私を貫いていた。


「あっあ…!とき、」
「なんて、簡単に許すと思いましたか?」


音を立てながらあっさりと飲み込んでしまったトキヤのものが、規則的なリズムで私を突く。動きの激しさに、浴衣が段々とはだけて太ももが晒されて。

こんなところ、誰かに見られたら…!


「紗矢」

身体の動きは止めないまま、トキヤの親指が私の唇をなぞる。喘ぎすぎて濡れている唇。せっかく口紅も塗ったのに、きっと落ちちゃってるだろう。下から与えられる刺激が大きすぎて私は口をぱくぱくと動かすことしかできないのに、トキヤはいつも余裕そうだ。
ちょっと、悔しい。


「あなたは誰のものですか?」
「あっ、な…んっ…!ぁっ、んぁ、」
「言いなさい、この口で」


絶え間なく快感が与えられるせいで、上手く言葉を発することが出来ない…トキヤが止まってくれれば言えるのに、だけど止めて欲しくない。気持ち、良い。


「…き、やのっ」
「よく聞こえませんね」
「トキヤのっ…だからぁ…!」

息きれぎれにそう言うと、トキヤは満足したように私の身体を抱えて芝生に横たわった。身体は繋がったまま。ぬぷっといやらしい音を立てて、私が上の体勢になる。そのまま下から激しく攻められ、声が止まらなくなる。


「どうします?誰かに聞かれるかも、しれませんよ」
「やだっ…やだぁ…」


浴衣の袖を噛んで、必死に声を抑えた。下から私を見上げるトキヤはいつにも増してセクシーで、うっすら額に滲んだ汗すら愛おしくなる。乱れた浴衣から覗く胸板とか、綺麗な鎖骨とか、トキヤの全部に目を奪われるから困ったものだ。

せっかくの浴衣が汚れちゃう、とか本当に誰かに見られたらどうしようとか。もうそんなの関係なく、ただトキヤがくれる快感に身を任せた。


「あぁ、良い眺めですね。私の紗矢」
「あぁんっ、ふ…や…!」


だって、私はきっと永遠に…トキヤからは逃げられないんだから。



  
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