あなたが生まれた真夏の日


一年に一度の大切な日は、あなたと二人きりで過ごしたい。
そう思うのは、贅沢なことなのかな。




「「誕生日パーティ?」」


昼下がりのカフェでお茶を飲みながら女子会を楽しんでいた私は、トモちゃんの言葉に莉子と一緒に首を傾げた。


「そ!8月6日の一ノ瀬さんの誕生日パーティーを事務所主催でやるんだけど、招待状渡してくれって頼まれててさ」

封筒に入った招待状を受け取って中身を確認する。8月6日夜7時…書かれているのは確かにトキヤの誕生日である日時だ。場所は私でも知ってる超有名ホテル…うぅ、すごい場所でやるんだ…。


「毎年事務所のお祝い会の話は聞いてるけど…こんなに派手だったっけ?」
「今年だけね、かなり豪勢にやるみたいなのよー。一ノ瀬さん、今映画撮ってるからさ…そのスポンサーとか、関係者とか結構来るみたい」
「そっかぁ…」
「紗矢ちゃんはともかく…私まで行っても良いのかな?」

莉子が不安そうにそう話すのも分からなくない。だって…私達って関係者でもないし事務所の人間でもないのに。だけどトモちゃんと、それからハルちゃんも同時に「気にしないで!」と明るく言った。

「まさやんからも莉子を連れて来いって言われてるからさ。まぁそんなに気を張らないで、美味しいもの食べに行こー、くらいの感覚で来てよ!」
「一ノ瀬さんも、紗矢ちゃんに絶対来て欲しいって思っているはずですよ」


じゃあ…お言葉に甘えて、と笑顔になる莉子の横で私はこっそり招待状を持つ指に力を入れた。紙がくしゃりと皺を作ってしまって、慌てて伸ばして直した。

すると隣の席に座っていた莉子が、私の様子の異変に気が付いたのか、眉を下げて私の顔を覗き込む。


「紗矢ちゃん、大丈夫?」
「あぁ…うん」



言葉を濁して誤魔化そうとしたけど、何となくこの心のもやもやを皆に聞いて欲しいと思ってしまって。私は小さく口を開いた。


「いや、お仕事柄仕方がないのは分かってるんだけど…本当はトキヤと二人でデートしたかったのになぁ…なんて」
「紗矢……」


だってだって、せっかくのトキヤの誕生日なのに。誕生日は一年に一度しか、来ないのに。そんな特別な日は、私だけトキヤを独占したいと思ってしまうの。



「そうですよね、せっかくの誕生日なのに…」
「うん…なんて!ごめんごめん!当日会えるだけでも十分嬉しいんだ!我儘言ってトキヤを困らせたくないし」


うん、そうだ。
それにトキヤだって色んな人に祝ってもらえた方が嬉しいはず。せっかくのパーティーだもん。私だってちゃんと楽しまなくっちゃ!


「当日、一ノ瀬くんといっぱい話せるといいね」
「うん!せっかくだから目一杯お洒落して行っちゃおうかな!」
「それでこそ紗矢!一ノ瀬さんをメロメロにさせちゃいなさい!」


わざと明るく接してくれる皆に感謝しながら、私は小さく気合を入れた。うん!せっかく久々に会えるんだもん、思い出に残る一日にしよう!








───


…と、思ったものの。


「まだ返事なし……か」


莉子達と別れて、一人寂しく帰路につきながら私はスマホの画面を開いた。


LINEのトークルームを見て、またちょっぴり切なくなる。私からのメッセージには全て既読が付いてるけれど、トキヤからの返信はなし。きっと返す暇もないくらい忙しいんだろう。


ここ最近、トキヤが仕事に追われているのは知っていた。主演映画の撮影があって、長期で地方のロケに出掛けていると聞いてて。「しばらく会えないかもしれません」と言われててちゃんと覚悟してた。

実際、本当に何日も会えてないし…会えたとしても本当に少しだけ。エッチなんてずっとしてないよ…。



「…て!何言ってんの私!」

トキヤはお仕事で忙しいんだから!そんな不純な事を考えたらダメだ!
邪念を振り払おうと、首をぶんぶんと思い切り横に振った。



「…誕生日プレゼント選んで帰ろ」


太陽の日差しが厳しい真夏の日。
トキヤはこんなに暑い時期に生まれたんだなぁ…なんて思いながら、私は小さく汗を拭ってまた歩き出した。




  
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