Home party


一年に一度の聖なる夜は
あなたと、二人で──







寒くてつい吐いてしまった息が白い。寒さも厳しい12月の夜──仕事を終えすぐに向かったのは紗矢の家だった。すっかり見慣れたマンションの廊下を渡り、彼女の部屋の前のインターホンを押した。

片手にはシャンパンが入った紙袋、もう片手には甘い物に目がない紗矢の為にと用意した、人気店のブッシュドノエルをぶら下げて。恋人が居ない前の自分であったら絶対に購入はしない代物だ。

紗矢と出会う前の、真面目で堅苦しい自分を懐かしく思いながら、扉が開かれるのをじっと待つ。間もなくして中から足音が聞こえてきた。


「トキヤ!お仕事お疲れ様」
「ありがとうございます。お邪魔します」

部屋の中から吹き込む暖気にほっと息を吐き、玄関で靴を脱いだ。


ごく自然に紗矢がコートを預かり、リビングへと進めば、テーブルに所狭しと並べられた料理が目に入る。

「ありがとうございます、こんなにたくさん大変だったでしょう」
「へへ、今日はせっかくのクリスマスだもん。ちょっと頑張っちゃった」


張り切って準備をしてくれた彼女を愛おしく思いながら、シャンパンを開ける準備をしていると、ぽすん、と何かが頭に乗る感覚がした。


「今年はトキヤがサンタさんね!」

……いつの間に準備していたのだろうか。
頭に乗せられたのは、赤い三角の形をした帽子。

目の前でニコニコと笑う紗矢の頭には、トナカイの角を模したカチューシャが付けられている。撮影や衣装でこの類の物を付けることがあるが、正直、家では気恥ずかしい。しかし紗矢があまりに期待に満ちた表情で見上げてくるから(可愛すぎます)、「メリークリスマス」と小さく呟いた。
その瞳が満足したように細くなる。


「早く乾杯しよ!お料理冷めちゃう」

紗矢が心から楽しそうに、私の手を引きながらそう言った。

シャンパンの栓を開け、二人で揃いで買ったグラスに注いだ。グラスを合わせてから料理に手をつけていく。尽きない話をしながらする食事は、あっという間に時間が過ぎていった。



「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。トキヤもケーキありがとう。これすっごく美味しい!」

さすが人気店のブッシュドノエル、味は一級品であった。甘い物を普段は好まない自分でも、すぐに平らげてしまうくらいだ。

それ以上に、とにかくケーキに満足していたのは紗矢だった。今日はいつになく機嫌がよく、皿を下げながら鼻歌まで歌い出した。



「……へ、」
「付いてますよ」

互いにシンクまでたどり着いたところで、紗矢の口の端に付いていたチョコレートのクリームをぺろり、と舐める。徐々に赤く染っていく紗矢の頬。
可愛い、と一言囁けば面白いくらいにあたふたし始めた。


「もうっ!トキヤのばか!」
「馬鹿とは心外ですね…可愛いと褒めただけですよ?」
「ずるいの、色々と…もう」
「さて、片付けは後回しにして…少し出掛けませんか?」
「え?今から?」
「えぇ」


きょとんとする紗矢に、バイクのキーを指で回して見せた。ぱぁっと効果音がつくかのように、明るくなっていく表情。

以前から、ずっと二人乗りをしたいと言われていましたからね。免許を取って以降一度も乗せたことが無かったのは、実は今日のサプライズの為だったりする。


「うん!」

満点の笑みを浮かべて大きく頷いた紗矢の手を引いて、彼女には内緒で用意していたピンクのヘルメットを被せる。
いつの間に用意してたの?なんて楽しそうに尋ねてくる紗矢を後ろに乗せて、私達は再び真冬の闇の中へと繰り出した。




  
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