Royal party


一年に一度の聖なる夜は
お前と、二人で──







12月の夜は、やはり冷える。
肌に突き刺さるような寒さに身震いしながらコートに入れていたスマホを取りだし時刻を確認した。約束していた時間より既に5分が経過しようとしている。


「(待ち合わせを外にせずに良かった)」

この寒さの中で待たせるのは相当負担をかけるからな。遅れると連絡はしてあるものの、少しでも早く向かわなければ。そう思い歩みを速め、ホテルの自動ドアを通り抜けた。


室温の高いホテル内に入り、エレベーターで上階を目指す。増えていく数字を眺めながらコートとマフラーを脱いで片腕にかけた。




「いらっしゃいませ。既にお待ちです」

レストランの入口で出迎えてくれた顔馴染みのスタッフに軽く挨拶を交わし、案内された窓際の席へと向かう。



「莉子」


姿勢を正し、窓の外を眺めていた彼女がゆっくりと振り返った。グロスの塗られた口元が嬉しそうに弧を描いたのを見て、自分もまた幸せを噛み締める。

「真斗!お疲れ様」


正面の席にゆっくりと腰掛けた。良い席を用意してくれたのだろう、窓からは東京の美しい夜景が一望出来た。

軽くドリンクメニューを目に通し、クリスマス限定のシャンパンを注文する。お料理は?と莉子が尋ねるので、既にコースを予約し支払いも済ませていると答えれば少し不満そうな顔を見せた。


「もう!全部完璧に用意してくれちゃうんだから」
「不満か?」
「ううん…でもここ、絶対高いなって」
「何を今更。莉子の為だ、気にするな」
「へへ、ありがとう真斗」

一年に一度の特別な日…目の前に座る莉子もいつもに増して美しい。


「綺麗だ」

つい零れた本音に、莉子は照れたように微笑んだ。

「夜景のこと?」
「莉子の事に決まっているだろう…飲み物が来たな、乾杯しよう」

シャンパンの注がれるグラスの向こうに、頬を膨らませた莉子の顔が見えた。どうしたかと聞くと、「ずるい」なんて可愛いセリフを言う。


「メリークリスマス」
「メリークリスマス!今日は誘ってくれてありがとう」

夜景を眺めながらの、高層階ホテルでのクリスマスディナー。全ては莉子に喜んでもらうためのものだ。そう話せば、莉子は笑って

「一緒に居るだけで幸せだよ」

と、とびきりの笑顔で言った。

幸せとは、こういうことを言うのだと。
莉子と居ると、改めて実感させられる。




デザートとコーヒーまで堪能したところで、二人でゆっくりと席を立つ。

「ありがとうございました」

美味しかったね、と幸せそうな顔を浮かべる莉子に笑みを返し、レストランのスタッフに礼を言ってから、ある物を受け取った。


「何もらったの?」
「ここのカードキーだ」


いつもよりヒールの高い靴を履いた莉子をエスコートするように、自然に腰に手を回す。
少し酔いが回っているのか、赤く染めた頬と潤んだ瞳が、俺の顔を見上げた。



「上の部屋を取ってある」
「……ぅ」
「行こうか」

そう、クリスマスの夜は長い。まだまだこれからだ。
照れながらも小さく頷いた莉子の額にこっそりキスを落としてから、上昇するエレベーターに再び乗り込んだ。




  
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