魔女っ子さん


「とりっくおあとりーと!」
「…は、」
「へへ、どう?」


自宅のドアを開けた途端、元気よく響いた紗矢の声。私が何かを言うより先に、紗矢はくるりと一回転した。

というか、幾ら何でも発音が酷すぎやしませんか。可愛いから許しますが。もう少しお勉強をした方が良いのではないでしょうか、可愛いから許しますが。


「今月はハロウィンでしょ?だから雰囲気出そうと思って買ってきたの」

そう誇らしげに話す彼女の頭には、黒く三角の形をした大きな帽子が乗せられていて。ようやく彼女が魔女になりきっているのだと分かった。


「…中途半端ですね」
「がんっ」


率直な感想。
確かに被っているそれは魔女そのものだが、下は普通の私服だ。そう、要するに中途半端です。


「やるからには完璧にやりましょう」
「え…これじゃ、だめ?」
「ダメです」

しゅんとした紗矢の姿にときめきながらも、結局買取をした例の衣装を取り出した。


「良い物を、貰ってきました」
「い、嫌な予感がするんだけど…」
「いえ、紗矢もきっと喜ぶかと」


数あるコスプレ…ごほん。衣装の中から私が選んだのは、魔女その物になれきれる黒い衣装セットだった。帽子と箒まで完璧にセットされている。



「あ!可愛い!」

楽しそうに服を広げて笑顔になる紗矢。
最初はご機嫌だったが、よく衣装を見て察したのか、だんだんとその表情が曇ってきた。


「ねぇトキヤ」
「はい」
「あの、これ…可愛いけど露出多くない?」
「さぁ、黙って着ましょうか」
「ちょ!話聞いてよ!」
「私も撮影用の衣装を借りてきたんです。一緒に着て写真を撮りましょう」
「…しゃしん、」
「記念になりますよ?」
「…撮る」


よし勝った。心の中でそうほくそ笑んだ。

彼女がどれだけハロウィンなどのイベント事が好きかを、私はよく知っている。自分で帽子を買ってくるくらいですからね。


どうしても写真を撮りたいのか、衣装を握りしめた紗矢はパタパタと部屋を出た。



「…トキヤ?」
「着替えました?」


自分も撮影で着用した吸血鬼の衣装を纏った。
ネクタイを整えながら紗矢を見ると、恥ずかしそうに胸元を隠しながら、私の元へ歩いてくる。


「なんかっ…小さいっ…」
「キツかったですか?申し訳ありません」
「うん…でも、可愛いかも」

それはそうだ。わざとそのような作りになっているのですから。
ワンピースの丈は下着が見えないくらいギリギリのライン、胸元もぱっくり開いていて、黒い布が豊満な胸を必死に持ち上げている。くっきりと強調された胸の谷間に、興奮して喉が鳴った。
実際着てみると、想像よりもかなりいやらしい。


「えぇ、よく似合ってますよ。さぁ、撮りましょうか」
「うん!」

私の座るソファの横に腰かけた紗矢が、自撮りモードにしたスマホを掲げる。
しっかりと写り込むように、紗矢の肩を抱いてぐっと距離を縮めた。



「わぁ…!嬉しい!ありがとうトキヤ!」

画面を見て満足そうに微笑んだ紗矢を見て、自然と笑みが零れた。
どのような形であれ、彼女を喜ばせることが出来るのなら…それは自分にとってこれ以上ない幸福だ。


「トキヤもすごく格好良い」
「ありがとうございます」
「うん、あれみたい。全てを闇にー」
「捧げたなら?」
「愛を守れーるのかー」
「BLOODY SHADOWSですね」

二人で歌い合いながら、笑い合う。
流れる、穏やかで優しい時間。
もちろん、それだけで終わるつもりは全くありませんでしたけど。


「トキヤ…?」
「今の私は吸血鬼ですから、」


私は紗矢を強く引き寄せて、

「あっ…」
「あなたの血が欲しくて堪らないのですよ」

白い首筋に顔を埋め、わざと強めに歯を立てた。吸い付けばくっきりと残る赤い痕に満足し、それを確かめるように唾液を含んだ舌で舐め上げた。


「ん、トキヤぁ…気持ち、い…」
「ほら、魔女なら抵抗したらどうです?」
「そんなのっ…出来ないよぅ…」


話しかけながらも手を止めることはない。
やわやわと胸を揉みながら、露わになる鎖骨を舌でなぞり、上目遣いで紗矢を見つめた。


紗矢は頬をすっかり赤く染め上げ、その大きな瞳には欲情の色が宿っていて。


「だって、止めてほしくない…」

ぽつりと呟いたその言葉に、自分の下半身が脈を打つ。ニヤリと笑ってそのまま押し倒し、紗矢の唇を飲み込んだ。



「んぁ、あっ…やっ、」

ベッドに仰向けで横たわる紗矢の黒いワンピースはずり上がり、パンツが完全に見えてしまっている。胸元はずり下ろされ、さらけ出されていて…その姿は官能な魔女そのものだ。


「や、破っちゃ…だめ、」

あまり普段彼女が履かない黒ストッキングに指を引っかけ、秘部の部分だけ穴を開ける。


「あぁ…黒ストって良いですね…」
「へ、んたい…」
「何を今更」


下着をずらして、熱くなった紗矢の中に中指を入れて、一回転させる。ヌルヌルになったソコはもう熱く、


「さて、」
「あぁっ…トキヤ…!」
「もう一度、先程のセリフを聞かせてもらえますか?紗矢」


すんなりと私自身を受け入れる。
すっかりワンピースがはだけている紗矢とは対照的に、少しも乱れていない自分の服。


そのまま少しの時間腰を揺り動かしていたが、背中に纒わりつくマントが邪魔になり、それだけ外して投げ捨てた。バサリと床に落ちる音がするが、もう自分には紗矢以外見えていなかった。


「…っ、と」
「はっ…」
「とりっく、おあ…とりーと…?」


息切れ切れに、喘ぎ声に紛れて聞こえたセリフ。それが可愛くて、またさらに腰の動きを速めた。


「いたずら、しちゃう、よ…?」
「はっ…そんな、必要ありませんよ」
「やっやっ…あ、」
「私はもう、すっかり魅せられているのですから。あなたという魔法にね」
「んっ、ときや…大好き、」


また唇を合わせて、激しく絡み合う。
紗矢の顎を伝った唾液を舌で掬い飲み込んで、その味に口角が上がった。


「美味しい、」
「ん、ぁ…とき、」
「さぁもっと乱れてください。あなたは私だけの魔女ですよ」
「あっあっ、やぁ…!」


腰で最奥を刺激し続ければ簡単に達した紗矢、その締め付けで自分も限界を迎えた。
黒いワンピースが、白の精液で染まる。


すっかり力の抜け切った可愛い魔女を見て、次はどんな衣装を着せようかと楽しみで仕方なくなった。



  
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