プールで、


トキヤに海に行きたいと誘ったら、日焼けするからという理由で断られた。むう。
この間莉子たちと一緒に遊んだ写真を見せても、一向に靡かない。私はトキヤと二人で行きたいのに!


それでもトキヤと遊びたい私は、屋内のプールならどうだ!と思い誘ったら、

「良いですね」
とまさかの快諾。日差しの強い夏の海は嫌でも、屋内プールなら良いらしい。どんだけ焼けたくないんだ。まぁその、私もこんがり日焼けしたトキヤなんて見たくないけれど。




「ねぇ!次あれ行こっ。ウォータースライダー!」
「全く…少しはしゃぎすぎではないですか?」


呆れた顔を見せつつも、付き合ってくれるトキヤ。本当は優しいってことも知ってるんだから。
屋内なのになぜかパーカーを着ているのは謎だったけど。でも水着のトキヤとデートが出来るのだから私も大満足だ。


「水着ね、昨日買ったんだよ」
「そうですか」
「友ちゃんと莉子に選んでもらったの!」


そう。せっかくのデートだから、この前莉子達と遊んだ時とは、違う水着を選んだ。
たくさんたくさん悩んで、トキヤの好きそうなものは何かなって考えて。二人が勧めてくれた、モノトーンの花柄のビキニにした。白黒なら大人っぽいし、トキヤも好きかなって思って。



「ねぇねぇ、似合う?」
「はいはい。ほら、順番来ましたよ」

並んでいたウォータースライダーの順番が来てしまったため、トキヤの感想がちゃんと聞けなかった。ちょ、タイミング悪いんだからもう!



ウォータースライダーを楽しんだ後、流れるプールでのんびり泳ぐ私たち。結構な人混みで、ちょっとでも油断したらはぐれてしまいそうだ。

…あれ?



「と、トキヤー?」

言ってるそばから見えなくなってしまった相方の姿。プールに流されるまま辺りを見渡すけど、トキヤは居ない。完璧にはぐれてしまったようだ。



「ときやぁ…」


一度プールから上がって、トキヤを探す。
スマホはロッカーに預けてあって、連絡は取れない。うう、どうしよう。




「ねぇ、誰か探してるの?」
「……」
「君だよ、君!」
「え?」


まさか自分に声をかけられるとは思っていなかった。振り返ると知らない若い男の人が一人。

「僕ここのスタッフなんだけど、人探しだったら手伝おうか?」
「本当ですか?」

なんだ、プールのスタッフさんか。一瞬誰かと思っちゃった。


「こっちに放送室があって、呼び出し出来るからさ。一緒に行こうよ」

そっと背後に腕を回されて、肩を掴まれる。一気に距離を縮められた。うっ…何この人…。ちょっと気持ち悪い。


「ね、名前教えてよ」

素肌に触れるその感覚が嫌だったけど、トキヤを見つけるためだと思い、そのまま男の人について行こうとしていたら…



「彼女に触れないでいただけますか」


聞き慣れたその声に立ち止まる。ずっと探していた大好きなトキヤが後ろに立っていた。


「トキヤ!」

急いでトキヤの所へ走って行こうとしたら、掴まれていた肩をさらに引き寄せられ、動けなくなってしまう。な、何この人!


「えっと、どちら様ですか?私は今彼女を連れて、人探しを…」
「その探し人が、まさに私なのですが」
「いやー…そんなこと言ってもねぇ…って、痛!」


トキヤが私の肩を掴んでいなかった、男のもう片方の腕を捻り上げる。そのおかげで男から逃れた私は、急いでトキヤの背中に隠れた。


「警察呼びますよ」
「何だよお前っ…」
「それはこちらのセリフです。…どうせスタッフなんかじゃないんだろ?」
「…っ!」


トキヤの手を振り払って、逃げるように走り去った男。大きく溜息を吐いたトキヤは、背中に隠れていた私に視線を移した。

「知らない男にフラフラと…何をしてるんですかあなたは」
「ご、ごめんなさい…だって、スタッフさんだと思ったから…」
「どう見ても怪しかったでしょう。もう少し警戒心を持ってください」

な、何も言えない…。
あのままトキヤが助けてくれなかったら、どうなっていたのかと思うと、怖い。


「怖かったでしょう。私も、はぐれたりなどしてすみませんでした」
「ううん、大丈夫。助けてくれて、ありがと…」
「疲れたでしょうから、そろそろ帰りますか」


そう言ってトキヤは私の手を引いて、シャワールームまで連れてきた。


壁で仕切られているスペースに二人で一緒に入る。ドアはついていなくて、代わりににカーテンを閉めた。遮られた空間でシャワーの水を出そうとしたら、トキヤに壁際まで追い込まれた。



「トキヤ?どうしたの?」
「しっかり、洗わないといけませんね」


先程男が触れた私の肩を、今度はトキヤの手が触れる。トキヤはそのままシャワーの水を出して、私の肩を洗うように優しく撫でてくれた。

…と思ったら、




「んっ、トキヤっ…」

そのまま両肩を掴まれて、壁に押し付けられながらキスをされる。
シャワーの蛇口を止めなかったせいで、少量ではあるものの水が流れて、どんどん私達の身体を濡らしていく。

薄目を開けるとトキヤがじっと私の顔を見ながらキスをしていて、その表情にドキッとしてしまった。


「ふぁ…ぁ、」

開いた口に、するりとトキヤの舌が侵入する。絡め取られるように何度も何度も、角度を変えて唇を重ねてくるトキヤ。気持ちいいそのキスに、力がどんどん抜けてしまうみたい。


離された唇が寂しくて、その口元をじっと見つめるとトキヤはふっと笑った。


「…なんて顔、してるんです」
「だっ、て…」
「我慢出来なくなるでしょう」


表情が一変して、雄の顔になったトキヤに、心臓が跳ねた。濡れた前髪をかきあげたその仕草と顔がセクシーすぎて、どうしようもなくドキドキする。


さっきよりも、さらに力強く押し付けられた唇。それを必死に受け止める。いつの間にかパーカーを脱いでいたトキヤ。上半身裸のトキヤにぎゅっとしがみついたら最後、もう止まらなくなってしまうことは分かっていた。



  
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