▼ プールで、
トキヤに海に行きたいと誘ったら、日焼けするからという理由で断られた。むう。
この間莉子たちと一緒に遊んだ写真を見せても、一向に靡かない。私はトキヤと二人で行きたいのに!
それでもトキヤと遊びたい私は、屋内のプールならどうだ!と思い誘ったら、
「良いですね」
とまさかの快諾。日差しの強い夏の海は嫌でも、屋内プールなら良いらしい。どんだけ焼けたくないんだ。まぁその、私もこんがり日焼けしたトキヤなんて見たくないけれど。
「ねぇ!次あれ行こっ。ウォータースライダー!」
「全く…少しはしゃぎすぎではないですか?」
呆れた顔を見せつつも、付き合ってくれるトキヤ。本当は優しいってことも知ってるんだから。
屋内なのになぜかパーカーを着ているのは謎だったけど。でも水着のトキヤとデートが出来るのだから私も大満足だ。
「水着ね、昨日買ったんだよ」
「そうですか」
「友ちゃんと莉子に選んでもらったの!」
そう。せっかくのデートだから、この前莉子達と遊んだ時とは、違う水着を選んだ。
たくさんたくさん悩んで、トキヤの好きそうなものは何かなって考えて。二人が勧めてくれた、モノトーンの花柄のビキニにした。白黒なら大人っぽいし、トキヤも好きかなって思って。
「ねぇねぇ、似合う?」
「はいはい。ほら、順番来ましたよ」
並んでいたウォータースライダーの順番が来てしまったため、トキヤの感想がちゃんと聞けなかった。ちょ、タイミング悪いんだからもう!
ウォータースライダーを楽しんだ後、流れるプールでのんびり泳ぐ私たち。結構な人混みで、ちょっとでも油断したらはぐれてしまいそうだ。
…あれ?
「と、トキヤー?」
言ってるそばから見えなくなってしまった相方の姿。プールに流されるまま辺りを見渡すけど、トキヤは居ない。完璧にはぐれてしまったようだ。
「ときやぁ…」
一度プールから上がって、トキヤを探す。
スマホはロッカーに預けてあって、連絡は取れない。うう、どうしよう。
「ねぇ、誰か探してるの?」
「……」
「君だよ、君!」
「え?」
まさか自分に声をかけられるとは思っていなかった。振り返ると知らない若い男の人が一人。
「僕ここのスタッフなんだけど、人探しだったら手伝おうか?」
「本当ですか?」
なんだ、プールのスタッフさんか。一瞬誰かと思っちゃった。
「こっちに放送室があって、呼び出し出来るからさ。一緒に行こうよ」
そっと背後に腕を回されて、肩を掴まれる。一気に距離を縮められた。うっ…何この人…。ちょっと気持ち悪い。
「ね、名前教えてよ」
素肌に触れるその感覚が嫌だったけど、トキヤを見つけるためだと思い、そのまま男の人について行こうとしていたら…
「彼女に触れないでいただけますか」
聞き慣れたその声に立ち止まる。ずっと探していた大好きなトキヤが後ろに立っていた。
「トキヤ!」
急いでトキヤの所へ走って行こうとしたら、掴まれていた肩をさらに引き寄せられ、動けなくなってしまう。な、何この人!
「えっと、どちら様ですか?私は今彼女を連れて、人探しを…」
「その探し人が、まさに私なのですが」
「いやー…そんなこと言ってもねぇ…って、痛!」
トキヤが私の肩を掴んでいなかった、男のもう片方の腕を捻り上げる。そのおかげで男から逃れた私は、急いでトキヤの背中に隠れた。
「警察呼びますよ」
「何だよお前っ…」
「それはこちらのセリフです。…どうせスタッフなんかじゃないんだろ?」
「…っ!」
トキヤの手を振り払って、逃げるように走り去った男。大きく溜息を吐いたトキヤは、背中に隠れていた私に視線を移した。
「知らない男にフラフラと…何をしてるんですかあなたは」
「ご、ごめんなさい…だって、スタッフさんだと思ったから…」
「どう見ても怪しかったでしょう。もう少し警戒心を持ってください」
な、何も言えない…。
あのままトキヤが助けてくれなかったら、どうなっていたのかと思うと、怖い。
「怖かったでしょう。私も、はぐれたりなどしてすみませんでした」
「ううん、大丈夫。助けてくれて、ありがと…」
「疲れたでしょうから、そろそろ帰りますか」
そう言ってトキヤは私の手を引いて、シャワールームまで連れてきた。
壁で仕切られているスペースに二人で一緒に入る。ドアはついていなくて、代わりににカーテンを閉めた。遮られた空間でシャワーの水を出そうとしたら、トキヤに壁際まで追い込まれた。
「トキヤ?どうしたの?」
「しっかり、洗わないといけませんね」
先程男が触れた私の肩を、今度はトキヤの手が触れる。トキヤはそのままシャワーの水を出して、私の肩を洗うように優しく撫でてくれた。
…と思ったら、
「んっ、トキヤっ…」
そのまま両肩を掴まれて、壁に押し付けられながらキスをされる。
シャワーの蛇口を止めなかったせいで、少量ではあるものの水が流れて、どんどん私達の身体を濡らしていく。
薄目を開けるとトキヤがじっと私の顔を見ながらキスをしていて、その表情にドキッとしてしまった。
「ふぁ…ぁ、」
開いた口に、するりとトキヤの舌が侵入する。絡め取られるように何度も何度も、角度を変えて唇を重ねてくるトキヤ。気持ちいいそのキスに、力がどんどん抜けてしまうみたい。
離された唇が寂しくて、その口元をじっと見つめるとトキヤはふっと笑った。
「…なんて顔、してるんです」
「だっ、て…」
「我慢出来なくなるでしょう」
表情が一変して、雄の顔になったトキヤに、心臓が跳ねた。濡れた前髪をかきあげたその仕草と顔がセクシーすぎて、どうしようもなくドキドキする。
さっきよりも、さらに力強く押し付けられた唇。それを必死に受け止める。いつの間にかパーカーを脱いでいたトキヤ。上半身裸のトキヤにぎゅっとしがみついたら最後、もう止まらなくなってしまうことは分かっていた。
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