海で、


「すまない、すぐ戻る」


そう言ってスマホを持って私から離れた真斗。
仕事の件で、急ぎの電話が来てしまったみたい。忙しいんだなぁ。

行ってらっしゃい、と真斗に手を振ってから砂浜の上を意味もなく、くるくる回った。
今日の私は、どうやらかなり浮かれているみたい。


気温も上がって、もうすっかり真夏。

この前紗矢ちゃんと春ちゃんと友ちゃんと、四人で海に遊びに行った。とっても楽しかったからその事を真斗に報告したんだ。


そしたら「今度は二人で行こう」と誘ってくれて。
スケジュールの合間を縫って、作ってくれたお休み。訪れた海水浴場はたくさんの人で賑わっていた。


せっかく真斗との海デートだからと思い、新調した水着。

ちょっと大人っぽくしたくて、ネイビーのフリルがあしらわれたオフショルのビキニを選んだ。


真斗まだかな、なんて思いながら待っていると、


「ねぇ、君可愛いね」
二人組の男の人に声をかけられた。



「あ、え……」
「ねぇ、ちょっとこっち来て遊ぼうよ」

あぁやだなぁ…こういうの…
ニヤニヤしながら私の身体を舐めるように見てくる男に、不快感を覚える。


「すみません、あの…人を待っているので、」
「そんなこと言わずにさ、ほら…あっちに車停めてあるんだ。ちょっと出かけようよ」

男の目線が胸元に集中しているのが分かって、気持ち悪くて両腕で胸を隠した。


「ごめんなさい、迷惑です」


ここはハッキリ断らないと、ずるずると連れていかれそうだ。
それなのに男は一向に引かず、私の両隣に挟むように立つ。


「…どうする?」
「もう無理矢理連れてっちゃおうぜ」
「いやっ…やめてください!」

片方の男が腰に手を回して、ぐっと引き寄せてくる。やだっ…真斗…まだ来ないの…っ?

彼の姿を思い浮かべて、涙目になってしまう。
もうダメかもしれないと思っていると、男から一気に身体を引き剥がされた。




「何をしている」
「真斗っ…!」

上を見上げれば、怒りを含んだ真斗の表情が目に入った。これは…多分かなり怒っている。


「な、なんだよお前!」
「彼女は俺の連れだ。さっさと消えてもらおうか」

私の腕を引いて、抱き寄せる真斗の体温に安心する。そのまま真斗に睨みつけられた男達は、すごすごとその場を去った。


「真斗、ごめんね。助けてくれてありがと…」

私がお礼を言うより先に、真斗は私と手を引いてずんずんと何処かへ歩いていく。
前を向いていて、真斗の表情が見えなくて、不安になってしまう。


真斗が連れてきたのは、他のお客さんがたくさん居る砂浜からは死角になる岩場だった。

立ち止まった真斗は私の方を振り返って、ぎゅっと力強く抱きしめてくれた。


「真斗…?」
「怖かっただろう。一人にしていて、すまない」
「ん、大丈夫。真斗のせいじゃないよ」

少し怖かったけど、真斗がすぐ助けに来てくれたから。私は全然大丈夫だったのに。真斗は私を安心させてくれるかのように、背中を撫でてくれるから、私も真斗の着ていたパーカー越しの胸元に顔を埋めた。


少ししてから顔を上げると目が合って、そのまま吸い寄せられるかのように唇を重ねた。

「んっ…ぁ、」
何度も何度も、繰り返されるキス。
すぐに真斗の舌が入ってきて、私の口内を暴れるようにうごめく。
背中に回した手で、真斗パーカーをきゅ、と掴んだら、真斗も私の腰に腕を回した。


ウエストからお尻にかけて滑らせる手つきが、妙にいやらしくて。さっき男に触られて時はあんなに嫌だったのに、全然嫌じゃなくてむしろ嬉しくて。貪るように繰り返されるキスと、お尻を揉む手のひらの感覚がどうしようもなく熱くて、身体が溶けそうになってしまった。こんな所じゃ、だめなのに。




  
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