voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生15…『存在する意味』 ◆

 
「あまり心配かけるな」
 と、ヴァイスは回復薬をアールに差し出した。
「あ……ありがとう」
 たどたどしくそう言って受け取った。「お昼食べた?」
「いや」
「じゃあ……なにか食べに行かない?」
 と、回復薬を飲み、疲労をリセットさせた。
「…………」
 ヴァイスは少し考えた。お腹は空いていない。
「あ、無理しなくていいよ? それよりなにかあったの?」
「…………」
「なにか用事があって来たんじゃないの?」
「いや……スーがお前に会いたがっていた」
「そうなの? モテ期到来?」
 と、自分の肩にいるスーを撫でた。
「そういえば……あの二人って誰だったの?」
 
ムゲット村でヴァイスを襲っていた二人組みの男。質問しながらそんな自分にゾッとする。──私は誰かも分からずに殺したの?
 
「同じハイマトス族だ」
「……そう」
 と、ヴァイスは顔色の悪いアールに気付く。
「村を燃やした犯人でもある」
「え……そうなの? それで……?」
「感染病が流行っていたらしい。焼き殺す以外、そのウイルスを殺す方法がなかったと言っていた」
「…………」
 複雑な表情を浮かべたアールは、ヴァイスから目を逸らし、俯いた。
「感謝している」
 と、そんなアールにヴァイスは言った。
「え……」
「組織に誘われていた。拒否し、戦闘になった」
「なんで組織に誘われたの? なにか聞いた? シュバルツの方が……正義だとかなんとか……」
 見上げるアールの目は、不安げだった。
「……いや、ハイマトス族はシュバルツが作り出した化け物だと聞かされた。彼らは尚更シュバルツに謝意を向けている。だが私は……」
 目を伏せて言葉を切ったヴァイスの心情を感じたアールは、彼の腕を掴んだ。
 
この世界には色んな生き物がいる。人間、動物、妖精、龍、魔物、悪魔。私がまだ出会っていない生き物もいるんだろうし。どうやってこの世に誕生したのかわからない生き物も沢山いる。ハイマトス族もその中のひとつ。どうやって誕生したかなんて関係ない。
 
「私はヴァイスが好きだよ」
 
特別な意味なんてなくて、単純に、好きなんだ。
 
「ルイもカイもシドも、みんな好き」
「…………」
 
そんなアールの頬を突いたのはスーだった。──ボクのこと忘れないでと言っている。
 
「あ、ごめんごめん、スーちゃんも大好き!」
 
ヴァイスはスーと笑い合っているアールを眺めながら、この世に生まれてきた事への罪悪、ハイマトス族という魔物と人間を併せ持った異類異形な生き物への拒絶感が一瞬にして晴れてゆくのを感じた。
 
自分が何者でもいい。
自分が何者かは自分が決めていけばいい。
今は、目の前にいる小さな彼女を守る侍衛として仕えよう。
 
「それで、昼食どうする?」
「…………」
 お腹は空いていない。
「もう! いいよスーちゃんと行くから!」
「……すまない」

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©Kamikawa
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