voice of mind - by ルイランノキ


 一蓮托生1…『未来』

 

 
思い出が次々とよみがえってくる。
シドの真実と嘘を探るように。
 
仲間のふりをし続けるための嘘はどれ?
一見仲間のためと思えた言動は全て信じ込ませるための演技だったとでもいうのだろうか。
楽しかった思い出も、嘘で固められていたと思うと記憶が捻じ曲がっていくような気がした。
 
━━━━━━━━━━━
 
フマラ町・アールの家。──午後10時半。
アールはお風呂を済ませて“自分の部屋”でドライヤーを片手に髪を乾かしていると、ルイから電話が入った。
ルイはアールの体調を気にかけた後、シドと連絡を取ったことを話した。
 
『シドさんはアリアン様が別の世界から来た侵略者だと思っているようです。そしてその侵略者から世界を守るために立ち上がったのがシュバルツ。組織の人間はそれが真の歴史だと思っているようです』
 そして言葉を選びながら言い足した。
『アールさんのことを敵対しているのは、崇拝してやまないシュバルツにとって脅威になるからかと。彼等にとってアールさんは悪として見えているようです』
 
ルイはアリアンの塔についても話したが、アールの暴走については口にしなかった。彼女の精神状態を気遣ってのことである。
身体が完全に回復してから探しに行くことも伝えた。
 
「そう……わかった」
 なんだか腑に落ちないが、アールはひとまずそう答えた。
『ところでヴァイスさんとはまだ一緒ですか?』
「え? とっくにそっちに帰ったと思うけど」
『そうですか……。このことをヴァイスさんにも伝えようと先ほど何度か電話をしたのですが、出ないようなので。留守電にもならないので』
「寄り道してるのかな」
 と、アールは首を傾げた。
『すみませんがアールさんからも連絡してもらえませんか? 彼のことですから心配はいらないと思いますが』
「うん、わかった」
『では。あ、VRCに行かれたようですね。あまり万全ではないときに無理はなさらないように』
「あ、はーい……気をつけます」
 と、苦笑い。「ルイも早く治してね。カイも」
『えぇ。それでは』
「ちょっと早いけど、おやすみ」
『おやすみなさい』
 
いつも穏やかで優しい声のルイ。彼もカイも無事でよかったと、鼻歌を歌いながらヴァイスに電話をかけてみた。ルイの言うとおり、出る気配がなかった。
 
「まぁいっか」
 彼はいつもどこかへ行ってしまう。
 
アールはドライヤーのスイッチを入れて半渇きの髪を乾かした。──もしかしてムゲット村だろうか。咄嗟にそう思った。彼が行きそうな場所はそこくらいしか知らない。髪を乾かし終えたらモーメルに連絡してみようと思った。
 
その頃、モーメルはいくつもあるモニターの前で険しい表情を浮かべていた。ミシェルが入れた紅茶は一口も飲まれずに放置されている。時折キーボードを叩いて複雑に形成された文字が画面上に埋め尽くされた。暗号化されているのか、ミシェルには読むことが出来なかった。
 
モーメルは冷えてしまった紅茶は飲まない。ミシェルはもったいないと思いながらも台所に運んだ。シンクに流そうと思ったけれど、自分で飲むことにした。
ティーカップを持って2階へ上がり、自室へ向かった。中はすっかりダンボールで埋め尽くされていた。ワオンが探し続けていた新しい部屋の目星がついたのだ。というのも、同じ職場で働いているトーマスが見つけ出してくれたものだった。
見かけによらずいい人だと思いながらベッドに腰しかけ、冷えた紅茶を飲んだ。
 
──と、モーメルがいる1階から電話が鳴った。
慌てて紅茶をドレッサーの上に置き、階段を駆け下りた。モーメルを一瞥したが、電話が鳴っていることに気づいていないのか険しい表情でモニターを見つめている。
 
「はい、もしもし」
 ミシェルが代わりに出ると、受話器の向こうからアールの声がした。
『あれ? ミシェル? ワオンさんのところじゃなかったの?』
「アールちゃん! 荷物をまとめに戻ってるの」
『ってことは新居決まったの?』
「一応ね。手続きがまだなんだけど」
『そっか、寂しくなるね。──あ、モーメルさんいる? ていうかそっちにヴァイス来てる?』
「ヴァイスさん? 来てないわよ?」
 と、“ヴァイス”に反応したモーメルがミシェルに顔を向けた。「モーメルさんは忙しいみたい」
「なんだね。用件だけ聞くよ」
 と、モーメル。
「用件は聞くって」
『ヴァイス、またムゲット村にいるのか訊いてくれる?』
 ミシェルは言われたとおり代弁してモーメルに尋ねると、
「知らないね」
 と、素っ気無く返された。
「モーメルさんずっと家の中にこもってるから、知らないんだと思う」
 ミシェルはそう付け足した。
『こもってる? なにかあったの?』
「わからないけど、仕事が忙しいみたい」
『そっか。モーメルさんって働き者だよね。ありがと!』
 
電話は切れ、ミシェルは受話器を置いた。
 
「なにかあったのかしら」
「…………」
 モーメルは口を閉ざしたままキーボードを打った。
「シドくんとのこと、どうなったのかしら」
「…………」
「ねぇ、モーメルさんは心配じゃないの?」
「やかましい子だねぇ。人の心配してないで自分の心配したらどうだい。新婚で浮かれているんだろうけど、大変なのはこれからさ。安心しきってるときが一番危ないんだよ」
「もう! なんてこと言うのよ!」
 ミシェルは機嫌を損ねて2階の自分の部屋へ上がって行った。
 
モーメルは険しい表情でモニターに視線を戻し、ため息をついた。
 
「アタシの役目は……そろそろなんだろう? ギルト」
 
モーメルが見ていたのは生前、ギルトから送られてきた“シナリオ”を暗号化したものだった。一行ずつ特殊なパスワードを打ち込み、解読できるのは彼女だけだ。
 
「あんたの新しい未来を形成する力にただただ驚くばかりさ……」
 

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©Kamikawa
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