voice of mind - by ルイランノキ


 千思万考23…『お知り合い?』

 
「あれ? えっと……確かヴァイスさん……ですよね?」
 と、フマラのVRCの受付をしている男が椅子から立ち上がった。
「アールはいるか?」
「あ、はい。1時間ほど前に入られて。ヴァイスさんもお使いになられますか?」
「……いや」
 と、ヴァイスはプレハブのような訓練室を見遣った。
「さきほど延長してほしいと連絡が入りましたので、あと1時間は出てこないかと」
「…………」
 
ヴァイスはアールの体調を気にかけた。エルドレットがアールによって討伐されたことは耳に入っているが、その後意識を失ってこの町に運ばれている以上、彼女の体は万全ではないことは明らかだった。それなのに。
 
「呼びかけてみましょうか?」
「……いや、延長したのであれば心配は不要なのだろう」
 
と、そこにひとりの男がやってきた。この世界でアールの父として名乗る、トクという男だ。
 
「アールはここに?」
「あぁ」
 ヴァイスは一度アールの家に立ち寄ってからいないことを知ってVRCまで捜しにきたため、トクとは既に会っていた。
「まだ病み上がりだというのに、元気だな」
「…………」
「うちで待つか?」
「いや、その辺りで時間を潰そう」
「そうか? 遠慮はいらんぞ。いつでも来い」
 と、トクは笑顔でヴァイスの肩に手を置いて、来た道を戻っていった。
 
ヴァイスはVRCの敷地から出ると、携帯電話を取り出してルイに電話をかけた。ルイは随分と早く電話にに出た。
 
『ヴァイスさん? アールさんのご様態はどうでしたか?』
「まだ会ってはいないが、VRCに入り浸っている以上心配はいらないようだ」
『VRCに? ……なぜまた』
「…………」
 それはヴァイスも聞きたいところだった。
『アールさんに無理なさらないよう、お伝えください』
「お前もな」
 と、電話を切る。
 
━━━━━━━━━━━
 
城を襲った第二部隊は侵入してからその姿を現し、力を見せつけた。その為、外で待機していた重歩兵や弓兵は出遅れ、城内にいた兵士達が侵入した5人の第二部隊の相手を請け負うこととなった。人数だけで言えば遥かに有利だが、数が多ければいいというものではない。特に城内での戦闘は苦戦を強いられた。
城内に仕掛けられた罠は侵入者を感知し、発動するも第二部隊の連中は並外れた能力で交わし、エテルネルライトが保管されている部屋へと向かっていた。
 
ゼフィル兵の死体が廊下の先まで続いているのを、動員兵の一人が震え上がりながら見据えていた。そこにゼンダが背後から近づき、肩に手を置いた。
 
「怖いか」
「あ……ゼンダさん……すみません! ここにいては危険ですよ!」
「案ずるな。本体ではない。──怖気づいたのなら無理に戦う必要は無い」
「いえっ……大丈夫です」
「無駄死にはするなと言っているのだ。手も足も出ないと思うのなら安全な場所にいなさい。君が役立つその時に頑張ればよい。今の君は、役立たずだろう」
「……はい、すみません」
 と、弱弱しく言って顔を伏せた。
「勘違いするな。逃げるわけではない。君には君の出番が必ずあるはずだ。それまで待機していろということだ」
 と、ゼンダは言い残し、その場を去った。
 
エテルネルライトの保管部屋へ真っ先に向かっていたのはセル・ダグラスだった。彼を仕留めようとゼフィル兵が近づくと、忽ち手の平を向けられて消されてしまう。目の前で仲間を消されたゼフィル兵は目を丸くして、後ずさった。

「ワシには近づけんぞ。一歩でも近づいてみよ。お前を消し去ってみせよう」
「くっ」
 攻撃をしようにも隙がない。
「残念じゃったな」
 と、セルは背中を向けた。その瞬間、攻撃魔法を仕掛けたゼフィル兵だったが、セルが振り向きざまに手のひらを向け、攻撃魔法ものとも消し去ってしまった。
 
これでは太刀打ちが出来ない。戦おうにも戦う前に消されてはどうしようもない。
悠々と保管部屋の前までやってきたセルは、足を止め、部屋のドアに寄りかかっている若い男に目をやった。
 
「じいさんなかなかやるっすね」
 セルを待ち構えていたのはデリックだった。タバコを吹かし、傷ひとつつけられていない老人を見遣った。
「おぬしも消されるのがオチじゃ。黙ってそこを退きなさい」
「退いてもいいけど、じいさんこの部屋のドア開けられんのか? 頑丈だし、随分ややこしい魔法で保護されてるみたいっすよ」
「ふむ」
 と、セルは顎の髭をさすった。
「じいさんさぁ、その手、吹っ飛ばしたらその厄介な魔法使えなくなんの?」
 デリックは足元にタバコを落とし、踏みつけた。
「ほう、戦う気か。無駄じゃな」
「どうだろうな。いちいち手を翳すのも面倒じゃねーの?」
 と、デリックが右手を突き出したのを見てセルは即座に魔法を発動したが、デリックの姿は消えるどころか結界で囲まれていた。
 
何か言葉を発しようとしたセルだったが、背後に人の気配を感じて振り返った。デリック以外誰もいなかった廊下に10人もの弓兵が矢を向けていた。兵士等が矢を放とうと手を離したと同時にセルも手を翳したが、その後ろから刀が抜かれる音がし、瞬時に判断を変えて自分自身をどこかへ移動させ、姿を消した。
弓兵が放った矢は的を失い、その向こう側に立っていた数人の雑兵を目掛けて飛んだが、幸いデリックが結界を張って突き刺さることは間逃れた。
 
兵士たちの足元には、脱ぎ捨てられた透明マントが落ちている。
 
「あーぁ、逃げられた」
 と、デリックはポケットから真新しいタバコを取り出した。
「禁煙ですよ」
 と、兵士のひとりが注意を促した。
「知ってる」
 タバコに火をつけ、一服した。
「今の方法でまた待機しておきましょうか」
 と、兵士がマントを拾い上げたそのとき、深々とフードを被って顔を隠した第二部隊の男が二人現われ、目で終えない速さでその場にいた二人の弓兵の首をへし折った。
 
デリックは眉をひそめ、タバコの煙を肺まで吸い込み、ふぅと吐き出した。
 
「おっかねーな」
「全員殺す」
「殺したってドアは開かねーぞ」
「殺したあとゆっくり考えるさ」
 と、一人が顔を上げた。血のような紅い目がぎらりと光る。
「おっと……あんたらもハイマトス族か。おもしれーな」
「あんたら“も”?」
 男は顔を見合わせ、デリックに視線を戻した。
「知り合いにあんたらと同じ種族の男がいましてね。愛想のないクソ感じ悪い男っすよ。お知り合い?」
 

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