voice of mind - by ルイランノキ


 千思万考4…『ブレスレット』

 
星のない夜空の下で、白い息がこぼれる。外に出て素振りを繰り返していたシドの元に、ワードが息を切らして駆け寄ってきた。
 
「どうした」
「第二部隊が動き出したようだ」
「第二部隊? 確か部下が城内に入り込んでいたな」
「知っていたのか……」
「情報屋とかな。組織の人間としてあの場にいれば同じ匂いがする奴くらい検討がつく。だからこっちからも1匹入れといたんだろうが。グロリアの情報を撹乱させるために」
 第三部隊からも1名、城内に入り込んでいた。
「その忍び込んでいた者が先ほど城内で謀殺された」
「うちのもか?」
「あぁ……。第二部隊から何人侵入していたのかはわからないが、謀殺されたのは5人、その中に俺たちの仲間も」
「最近情報が入るのが早いな」
 と、シドは刀を鞘に納めた。
「カナブンのおかげだ」
「は? カナブン?」
「八部隊のアメリという女が使っていたカナブン型の小さな機械だ。グロリアが去ったあと、八部隊のアーム玉を奪いに行ったら見つけた。アーム玉はグロリアが持っていったようだが。怪しまれることなく盗聴、盗撮が出来る」
「魔道具か?」
「あぁ。どこで手に入れたのかはわからないが、女の胸にその機械と神経接続を行う魔法円のシールが貼られていた。体のどこかに貼り付けることで操れる。使い慣れるまで少しコツがいるがな」
「お前が操ってんのか」
「いや、今はベンが。あいつのが操作が上手い」
 と、笑う。
「で? 動き出したってのは忍び込んでいた連中が殺されたからか」
「おそらくそうだろうな。第二部隊は俺たちが動き出したことも知っている。奴らもグロリアはアールという女だと確信しているのかもしれない」
「確信できるほどあの女に力があるとは思えねぇけどな。先に女を襲う気か」
 と、舌打ちをした。
「いや、それが……」
「なんだ」
「城を攻め入るつもりらしい」
「はぁ? なんだそれ……仲間がやられた復讐か?」
「それだけで襲撃するとは思えん」
「ほかに何の目的があんだよ」
「…………」
 
ワードは考え込むように腕を組み、虚空を見遣った。よほどのことがない限り、城を攻め入ることはしないだろう。
 
「エテルネルライトか……?」
 と、シドが呟いた。
「そんなものがあるのか」
「奴らと旅をしていた道中に偶然見つけた。それも膨大な数のな。ルイがゼンダに連絡している。全ては無理だとしても、一部城に運んだと考えられる」
「それを狙っているのか? だが金貨じゃねんだ。奪ったって持ち運べないだろう」
「ならゼンダの首か」
「国王の命を狙ってるって言いたいのか? なんでまた」
「……あ”〜クソッ! わっかんねーな!」
 と、シドは頭を掻き毟った。
 
同じ組織の人間とはいえ、理解できない行動を取られると気になって仕方がない。
 
「第二部隊の連中はどんな奴らだ」
 と、シド。
「そこまでは……」
「奴らのアジトに侵入してわかった情報じゃないのか」
「カナブンか? 城に侵入したんだ。罠によって殺された連中が死ぬ前に話していた。まもなく第二部隊が城を襲撃するだろうとね」
「他には?」
「それだけだ。死ぬ間際にブラン様に祈りを捧げていたな」
「ブラン……総隊長か。お前は総帥の顔を見たことがあるか?」
「いや……。ブラン様にも直接お会いしたことはない。聚合があったとしても参加するのは隊長だけだからな」
「上からの命令だとするなら俺らにもなにか指令があるかもしれないな。エルドレットさんからの連絡もしばらく途絶えている」
 
シドが口にしたエルドレットとは、第三部隊の隊長の名前だった。
 
「ところでさっきから気になっていたんだが」
 と、ワード。
「なんだ」
「それ、お前らしくないな」
 ワードの視線はシドの手首に向けられていた。
 
シドは手首を見遣った。ブレスレットが目に入る。アールからもらった物だった。ルイ、カイ、ヴァイスも、防御力をアップするこのブレスレットを身につけている。もちろん、アールもだ。
シドは無言でそれを外した。
 
「いるならやるよ」
 と、ワードに向かって放り投げると、ワードは咄嗟にキャッチした。
「いらねーなら捨てとけ」
「…………」
 
シドは室内へ戻っていった。
 

──荒野にて。シドの記憶。
 
「はいこれ、シドの」
「……なんだそれ」
 と、すぐに嫌な顔をする。
「おまもりみたいなものだよ。全員に買ったの。お揃い。仲間の証?」
 と、アールは自分の腕につけたブレスレットを見せた。
 
あえて防御力が上がるアクセサリーであることは口にしなかった。
 
「無駄遣いしてんじゃねーよ。しかもお揃いとかダッセェ。ほんと女ってなにかとお揃いにしたがるよな」
「ボロクソ言ってくれてどうもありがとう。無駄遣いにうるさいルイはなにも言わなかったよ? むしろ喜んでくれてたかも」
「お前に叱れねーだけだろ。とにかく俺は付けねぇからな」
「なんでよ! ブレスレットくらいいいじゃん!」
 と、アールは頬を膨らませた。
「んなもん付けてたら邪魔になんだろーが!」
「──邪魔になるんだ?」
「あ?」
「シドは手首にブレスレットつけただけで邪魔になるんだ?」
 アールはシドを見据えた。
「なんだよその言い方……」
「私もカイもルイも、邪魔にならないのに。ブレスレットつけてたら邪魔で刀が鈍るとか? どっかに引っ掛けちゃうとか? たかがブレスレットなのにそんなに気になるんだ?」
 
シドはぶすっとした顔でアールを見遣りながら、拳を突き出した。殴られると思ったアールは一瞬目を閉じたが、シドは拳を突き出したまま、「──ほらよ」と、ぶっきらぼうに言った。
 
「え?」
「つけりゃいいんだろーが。付けるならさっさと付けろ」
「つけてくれるんだ! ありがとう!」
 と、アールは慌ててシドの腕にブレスレットをつけた。
「なくさないでね? 時間かけて選んだんだから」
「はいはい」
「デザインを選んで、値段もそんな高くないやつで──」
「はいはい」
「結構真剣に選んだやつなんだから」
「はいはい」
「シド……」
「はいはい」
「聞いてないでしょ人の話!」
「あ? 耳があるんだから嫌でも聞こえてるよ」
「ムカつくなぁもう!」
「ハイハイ。」
 
(紅蓮の灯光4…『ブレスレット』より)


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