voice of mind - by ルイランノキ


 千思万考2…『仲間』

 
小さな豆電球の薄暗い明かりがモーメル宅の地下にある埃かぶった廊下を照らしていた。その奥に、8畳ほどのスペースがある。その中央に、鍵のかかった宝箱が木製の台の上に置かれていた。
モーメルは首にかけていた小さな鍵を外して、宝箱を開けた。埃が電球の明かりに照らされながら、ちらちらと舞った。
 
宝箱の中には、小さなアーム玉がひとつ。
 
「ようやく、仲間が迎えに来たよ」
 モーメルはそう言ってそのアーム玉を手に取った。
「モーメルさんはタケルと会っていたんですね」
 少し離れた位置に立っていたアールは、モーメルにそう言った。
「すまないね。彼との約束で言えなかったのさ」
 と、アールに歩み寄る。
 
手のひらに乗せたアーム玉を見せると、アールはそっと手を出した。
 
「ずっと待っていたようだよ」
 と、モーメルの手からアールの手へと渡される。
 
ドクンと心臓が脈打った。タケルと会った。目の前にタケルがいる。そう感じた。
 
「彼は力になる。彼には魔力も剣士としての力もなかったが、誰よりも意志はあった。立ち向かい、高みを目指す心の強さがあった。それは一番大切なもので、一番力になるものさ。どんなに魔力や剣士としての力があったとしても、使う側に強い意志がなければなんの意味も持たない」
「私のことを言われてるみたい」
 と、アールは苦笑した。
「生きていたら、訓練を積んで立派な剣士になれていたかもしれないね。──彼の意志、彼の強い思いは攻撃力と防御力に振り分けることができる。武器に装備するといい。無償で手を貸すよ。彼も望んでいたからね」
 
モーメルはアールの手に移されたアーム玉を眺めながら、タケルという少年から突然連絡があった日のことを思い出していた。
魔道具の新作を開発中に電話が掛かってきたのだ。作業を優先して電話には出なかった。いずれ止むだろうと思っていたがいつまで経っても鳴り続ける電話に仕方なく重い腰を上げて受話器を手に取った。
 
「誰だい。今忙しいんだよ」
『あ……あの、モーメルさんですか?』
 聞きなれない子供の声に眉をひそめた。
「何者だい。どこでこの番号を知ったんだい」
『あ、兵士に聞きました……』
「兵士? こっちには時間がないんだよ。あんたが何者で何の用があって電話をよこしてきたのかさっさと言いな」
『すみません……。選ばれし者の代役……というかサンプルとして召喚された者でタケルといいます。僕のアーム玉を作っていただけませんでしょうか』
「…………」
『突然すみません……』
 
事情が読み込めなかったが、“選ばれし者”“召喚”というキーワードで少し前に訪れたギルトという男を思い出した。彼もまた、同じワードを口にしていた。
 
『あの……』
「今から言う場所に来れるかい? そこまで迎えに行くから、待っていなさい」
『は、はい……』
 
タケルは携帯電話を兵に返した後、城内にあるゲートボックスへ急いだ。そこにいた雑兵がタケルを見て驚いた。
 
「タケル様……どうされましたか」
「ゲートを使いたいんです。いいですか?」
「おひとりでどちらへ?」
「魔術師のモーメルさんに会いに。ただ、誰にも言わないでほしいんです」
「なぜまた……」
「えっと……サプライズ? みんなに驚かせたいことがあって。詳しくは話せないんですけど、モーメルさんには既に連絡済みです。だめでしょうか」
「そうですか……」
 と、雑兵は迷っていた。ゼンダに伝えるべきだろうかと。
「お願いします!」
 タケルは頭を深々と下げた。
「いいんじゃないですか?」
 と、言ったのは別の若い雑兵だった。
 
ゲートの前にいた雑兵は腕時計を見遣り、時間を確認した。交代の時間だった。
 
「なにかあったら俺が責任を取りますよ」
 と、若い雑兵が言う。
「いいのか? お前……」
「先輩は聞かなかったことにしてください。俺、どうせ近々退職するかもしれないんで」
「なんだよそれ……聞いてないぞ」
「武器職人をしている父が病気になりまして。今更跡継ぎとして考えるのは遅いかもしれませんが……」
「そうか……」
「とにかく、タケル様のことはお任せください。モーメルさんは皆が知っている国家魔術師です。なにも心配ありませんよ」
「まぁ、それもそうだな」
 
こうしてタケルはモーメルに会いに行くことが出来たのである。
モーメルは近くの町でタケルと合流し、心底驚いた。電話の声の細さからして大男だとは思っていなかったが、それにしても随分と細く、頼りない。
 
「あんたがタケルだね」
「はい」
 
それでも、自分を倦む事無く見据えてくるその眼差しには力強いものを感じた。
家に招いたモーメルは詳しい事情をタケルのから聞き、状況を理解した上で彼に手を貸すことを決めたのだった。
 
モーメルはタケルのアーム玉を眺めているアールを見遣った。彼ほどの意志はこの子にはまだない。けれどもグロリアとして選ばれたのは彼女の他ならない。
 
「タケルが使っていた武器にはめ込んで装着することってできますか?」
 と、アール。
「いい考えだね。持ってきな」
「ありがとう。みんなにも伝えなきゃ……シドにも……」
 

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