voice of mind - by ルイランノキ


 悲喜交交34…『冷たい雨』

 
「あんたたち何者だい!」
 
モーメルは突然進入してきた黒づくめの男らに取り囲まれていた。帰宅していたミシェルは人質として捕らえられ、抵抗すれば彼女の命がなかった。
 
「大人しくついてきてもらいますよ」
 
ミシェルとモーメルは、抵抗も出来ずに言われるがまま男らに連れ去られてしまった。モーメルは男らに連れられながら、その腕に属印が刻まれていることに気づいた。
 
──まったく、厄介なことになったもんだね……。
 
ミシェルさえ人質に取られていなかったら、簡単に回避できるのだが。
 
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シドは瓶の中から自分のアーム玉を取り出し、シキンチャク袋にしまった。それと入れ替えに、アールのアーム玉を取り出して瓶の中に入れてカラカラと瓶を振った。
 
「シド……」
 
かすれた声にしかならない。アールはただただ、冷静にことを進めてゆくシドを見ていた。
シドはつかつかとワードに歩み寄り、アーム玉を手渡した。
 
「ご苦労だったな」
 と、一言を添えて。
 
「説明してください……これはどういうことですか」
 険しい表情で、ルイは声を搾り出すようにそう言った。
「見てのとーりだろ。説明するまでもない」
「お前は」
 と、ヴァイスが口を開く。「組織の人間か」
「確かめるまでもねーだろ」
 
シドは袖を捲り上げると、二の腕に爪を立てた。がりがりと皮膚が剥がれてゆく。
アールは呆然と眺めながら、思い出していた。傷も痣も火傷痕も消せる化粧品。あれはシドの私物だったのだと。
 
日焼けした皮膚のように剥がれた特殊なファンデーションの下に隠されていたのは、属印だった。
視界が眩んでゆく。
 
「猶予を与えてやる。ばあさんが死ぬ前に、まだ眠ってる力を醒めさせておくんだな。頃合いを見て、殺しに来る。戦う覚悟があるなら、相手してやろう」
 
いつの間にか、アールの背中にカイがしがみ付いていた。
どのくらいの間立ち尽くしていただろう。
不気味なほどに静まり返った休息所に、男二人とシドの姿はもうない。
 
言葉を失ったアール達は、力なくその場に座り込んだ。そんな一同をあざ笑うかのように、冷たい雨が降り始めた。
 

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©Kamikawa
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