voice of mind - by ルイランノキ


 臥薪嘗胆36…『電話が鳴る』


「俺、怒ってんだからね。起きたらさ、アール戻ってきてるってウペポばあちゃんが言うから会いに行こうと思ったらゆっくり休ませるからダメだって言われるし。仕方なく我慢するじゃん? でもさ、俺が必死に我慢してる間、ルイはアールを独り占めしていたわけでしょう? アールに会いたい寂しさと、会える距離にいるのに会えないもどかしさと、ルイへの嫉妬とで気が狂いそうになりながら一日耐えてたわけ!」
 と、朝食のご飯粒をこぼしながら隣に座るアールに想いを語るカイ。
「一日っつーか半日だろ。シャドウと遊ぶかほとんど寝てたんだからおめーは」
 と、シドが言った。
「いやいや、寝てる間もアールのことを考えていたんだよぉ」
「寝言で『大きな綿菓子ができました』って言ってたけどな」
「え、なにそれ知らない。気のせいだよ」
「こぼさないでください」
 と、ルイ。
「とにかく、俺はね? アールが無事に帰ってきてくれてよかったよ。うんうん」
「ありがとう」
 アールは笑顔でそう言った。

一行はウペポに別れの挨拶をして外に出た。すると数日間出かけていたレプラコーンが帰ってきた。その小さな体の背中には自分の体より大きなリュックサックを背負っている。

「今お帰りですか」
 と、ルイ。
「帰って来いと連絡があったもんでな」
「おかえり」
 と、アール。
「用は済んだのか?」
「うん、おかげさまで」
「帰りは気をつけるんだぞ、じゃあ達者でな」

レプラコーンは一向に手を振り、ウペポの屋敷に入っていった。
 
「さて、帰りも気が抜けませんね。雲の橋を渡る際には十分に気をつけましょう」
「渡ってからどうすんのー? まだいるのかなぁ、ロッカー」
「ノッカーですよ、ウペポさんが連絡してくださったようなので問題ないでしょう」
 
ルイはウペポとお別れの挨拶を交わした際に、ノッカーに頼まれていたことを伝えた。彼らが給料を上げて欲しいと願っていると。ウペポは「考えておくよ」と答えたあと、ノッカーに連絡を取った。
 
シドが先頭を切って雲の橋に足踏み入れたとき、アールの携帯電話が鳴った。
 
「あ、待って。電話」
 と、アールは携帯電話を開く。
「誰ー?」
 と、カイが覗き込んだ。
「ジャックさんだ」
「ジャック? 誰だそれ」
 と、シド。
「忘れたの? ジムと一緒に旅をしてた人だよ」
 アールはそう言って電話に出た。
「あぁ、仲間に仲間を殺された奴か」
「シドさん!」
「はいはい」
 
アールはシドを睨み、「もしもし?」と問いかけた。
 
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「おー、元気か?」
 と、アールに電話を掛けるジャックのこめかみに、銃口が向けられている。
 
どこかの街の、人気の少ない一角。
 
『元気ですよ、ジャックさんは?』
「あぁ……なんとかな」
『なにかあったんですか?』
「お前ら今……どの辺だ?」
『えっと……?』
「あーいや、実は会いたくなったんだ。久々に酒でも交わさないか?」
『会いたいですね! でもゆっくりしてる時間がなくて……』
「お前らがこれから向かう先でいい。俺がそこに行くから少しでもいいんだ。会えないか?」
『……ちょっと待ってくださいね、ルイに訊いてみる』
「おう……」
 
ジャックに銃口を向けているのは第十部隊のクラウンだった。その後ろには奇抜なメイクに派手なサーカス衣装の仲間が整列している。
 
『もしもしジャックさん?』
「おう」
『少しなら会えるかもって。シドは嫌がってるけど』
「がははは、いやいや、なにも全員じゃなくても──」
 と、ジャックのこめかみに触れている銃で頭をグイと押された。「あーいや、全員と会いたいがな」
『説得してみますね』
 と、アールは笑う。
「それで……どこに行けば会えるんだ?」
『私たちが次に向かうのはテンプスという街です』
「テンプスだな、わかった。いつくらいに着きそうだ?」
『ルイ、何日くらいに着きそうかって』
 と、アールの声が聞こえる。
 
クラウンの仲間は後ろで地図を広げ、テンプス街を探した。
 
『5日くらいかかるかも。順調にいけば』
「5日だな? わかった。着いたら連絡してくれ」
『うん!』
「……アール」
『はい?』
 
「余計なことは言うなよ?」
 と、クラウンが小声で警告した。
「…………」
『もしもし?』
「……少しは、強くなったか?」
『え? うーん、以前よりはきっと』
「そうか」
『? それがどうかしたんですか?』
「いや、いいんだ。待ってるからな」
『? はーい』
 
電話を切ったジャックは、小さくため息をついた。
 
「テンプス、見つかったかーい?」
 と、陽気な声で仲間に訊くクラウン。
「ありましたありました! ここです!」
 と、仲間の一人が地図を指差した。
「約5日後。待ち遠しいねぇ」
 そう言いながらクラウンは下ろしていた銃を再びジャックに向けた。
「なんだよッ!」
 と、ジャックは身構える。
「ばーん」
 クラウンは引き金を引いた。
 
パン!という軽い音と共に銃口から紙ふぶきが飛んだ。銃を改造して作られたクラッカーだった。
 
「お、脅かすなよ……」
「殺しは嫌いでねぇ」
「殺しはしないってか」
「時と場合によるけどねぇ。別に殺しがしたくて組織に入った訳じゃない。それは話しただろう? 殺しがしたいなら殺し屋になるさー」
「…………」
「ジャーック」
 と、クラウンはジャックの袖を捲くった。
 
ジャックの腕に、属印が押されている。
 
「君は第十部隊、サンジュサーカスの仲間になったんだ。初仕事、頑張っておくれよー? 君にしか出来ない仕事さ。なにも、奴らを殺せっていうんじゃないんだから、簡単だろう」
「……あぁ、わかってる」
 
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「ジャックさん、元気そうで良かったですね」
 と、電話を終えたアールに、ルイが言った。
「うん、ほんと。でもなにかあったのかな」
 アールはポケットに携帯電話をしまった。
「なんです? なにか引っかかることでも?」
「よっぽど会いたそうだったから。間違えないように繰り返してた。場所と、日付。私が言ったら、繰り返してた」
「…………」
 ルイは眉間に皺を寄せた。
「アールも繰り返すじゃん。すぐ忘れるから」
 と、カイ。
「そうだっけ」
 と、苦笑い。
「他に変わった様子は?」
「んー、なにか言いたそうだった。でも結局、少しは強くなったかどうか訊いてきただけ」
 
一向は話をしながら雲の橋を渡る。
一番後尾を歩くのは肩にスーを乗せたヴァイスだ。
 
「妙ですね」
「え?」
「なんかありそうだな」
 と、シドはそう言って刀を抜いた。「魔物だ。構えろ」
「落ちないように」
 ルイはそう言い足して、ロッドを構えた。
 
雲の橋の上での戦闘はひやひやするから嫌いだ、と、アールは思いながら武器を構えた。
 
第二十三章 臥薪嘗胆 (完)
 
──☆次回予告 第二十四章『 心憂い眷恋 』
恋愛とヴァイスの過去(幼少期)に迫ります。
5月公開予定です。楽しんでいただけると嬉しいです。


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