voice of mind - by ルイランノキ


 相即不離40…『カカシ』◆

 
「ぎゃああぁあぁあぁッ!! 滝だぁああぁあぁッ!!」
 
丸太にしがみついていたアールたちは、突然夕焼け空の下に出た。
流れる水の先に滝がある。
 
「やだやだ落ちるのやだッ!!」
 アールの青ざめた叫びに、ルイが答える。
「大丈夫です! 僕に任せて!」
 
滝が目の前に迫り、一行は丸太ごと宙に飛ばされた。
 
「あぁあああぁあぁああぁ……」
 
ルイは落下しながらロッドを翳した。
シャボン玉のような剛柔結界で囲んだのはアールだけだった。ゆっくりと落下するアールの下で、男たちはドッポーン!と高らかに水しぶきを上げて川に落ちた。
 
「みんな大丈夫っ?!」
 
ふわふわと降りてきたアールは、まるい結界で囲まれたまま川の水面にぷかぷかと浮かび、流されてゆく。
 
「あ、あれ?? みんなーっ?!」
 
流されて行くアールを余所に、男たちは全員川から顔を出した。
 
「ぶはっ!! 滝があるなんて聞いてねーぞブタ!」
「ブベァ!!」
 と、カイが顔を出す。「なんか言った? めっちゃスリリングだったねぇ!」
「ブタに言ったんだよブタに」
 
ザバッと、ルイとヴァイスも顔を出した。
ルイに抱き抱えられてマスキンも顔を出す。
 
「マスキンさん、大丈夫ですか?」
「は? あ、えぇ、無事ですけど?」
「アールさんも大丈夫です……か?」
 
アールの姿がない。
男たちは辺りを見回した。
 
「風船の中にいた女の子なら流されてったでよ」
 と、川に歩み寄ってきた腰の曲がったお爺さんは、鍬(くわ)を肩に担いでいた。
「えっ?! 急いで追い掛けないと──」
 ルイは慌てて川から上がった。しかし急に視界が歪み、倒れ込んでしまった。
 
カイが急いで駆け寄り体を起こすと、ルイの顔は赤く、熱っぽかった。
 
「ルイ大丈夫ぅ?!」
「アールさんを……捜さないと……」
「カイ、チビ女捜してこい。俺がルイ担いで宿探す」
「わ、わかった! ルイ、アールのことは俺に任せて!」
 
カイは急ぎ足でアールが流れて行った方へと向かった。
 
ルイをおぶったシドの後ろを、マスキンはきょろきょろと頻りに辺りを見回しながら歩いていた。
 
「どうかしたのか?」
 と、一歩後ろを歩くヴァイスが言った。
「は? あ、いえ、洞窟を抜けたらカスミ街だと思っていたもんですから。どうやら違うようです、はい」
 
━━━━━━━━━━━
 
「おやまぁ、大きな風船が流れてきよったわ」
 と、川で洗濯をしていたおばあさんが、流れてきたアールを止めてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「まぁー、最近はこういう乗り物が流行っているのかい?」
「いえっそういうわけでは……えっと」
 
アールはどうにかしてまるい結界から出ようと試みたが、出られない。
 
「すみません、ちょっと転がすように川から出してもらっていいですか? 私も中から頑張ってみます」
 
おばあさんとアールは「せーのっ」とタイミングを合わせた。
おばあさんは川岸に押し上げ、アールは中から川岸にダイブ。アールが中でジャンプしたため、一瞬軽くなった結界はおばあさんの力でも川岸に上げることが出来た。
 
「ありがとうございます!」
「お嬢ちゃん、出られるのかい?」
「多分仲間が来てくれると思うので大丈夫です」
 
アールは結界の中で腰を下ろした。
辺りを見回し、のどかな街の雰囲気に癒される。
色とりどりの花が咲き、川から少し離れた場所に畑が見える。畑にはカカシが立っていた。街というより村だ。
ここはまだカスミ街ではないのだろうか。
 
そういえばまだ迷宮の森の謎は残ったままだ。
エテルネルライトを隠していた魔術師と山賊は繋がっていたのだろうか。
山賊が現れて村の子供達を襲うようになってから村人の依頼を受けて魔術師がやってきたはずだ。それまでは迷宮の森ではなく、簡単に抜け出せる普通の森だったはず。
その頃から山賊が住み着いていたのか……ん? いや違う。だとしたらあの池の下から繋がっていた秘密の洞窟の説明がつかない。
 
魔術師の結界があって正面からは入れないから、地下の洞窟から入り込むとカイが言っていた。その洞窟をつくったのは山賊だとも言っていた。彼等も結界の壁があって入れなかったからつくったのではないだろうか。
その時にエテルネルライトを発見したのかもしれない。……ん? 魔術師がなにか隠していると感づいて洞窟を掘った? いや、先にエテルネルライトを発見したのは山賊で、それを魔術師に見つかってしまって独り占めされたかなんかで……
 
「あーっ! わかんないっ」
 と、アールは頭を掻いた。
 
でも山賊が村の子供達をさらっていたのは数百年前だ。その頃はまだ魔物は少なかった。魔物が少なかったころはまだ、魔法もそんなに数多く存在していなかった。
そんな時代のエテルネルライトって、価値があったのだろうか?
 
「あのっ」
 アールは川で洗濯を再開していたおばあさんに声を掛けた。「ここはカスミ街ですか?」
 おばあさんは手を止めて振り返った。
「いいや、ここは谷底村だよ。カスミ街はもっと先さ」
「そうですか……」
 
アールはぼんやりと空を見上げた。
カスミ街までまだ遠いのだろうか。また質問しようかと思ったが、洗濯の邪魔をしてはいけないと思い、やめた。
 
オレンジ色の空は綺麗だった。赤とんぼでも飛んでいたら完璧だ。
 
「あの……あなた大丈夫?」
「はい?」
 
突然背後から声を掛けられ、振り返った。
心配そうにアールを見下ろしていた女性の顔を見て、時間が止まったような感覚に陥った。
 
「え……久美っ?!」
 
親友の久美にそっくりだったのだ。
 

第十五章 相即不離 (完)


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