voice of mind - by ルイランノキ


 紅蓮の灯光34…『ハイマトス』

 
──夜明けまであと12時間。
 
ルイは結界が張られている家の窓から、カーテンを少し開けて外を眺めた。
相変わらずルフ鳥が獲物を探して徘徊している。中にはこの家に獲物があることをわかっていて家の周りでうろついているものもいた。
 
ルイは片時もカイの心配をやめなかった。助けにいけない自分がもどかしい。
シドはルイに貰った回復薬を飲み、ソファで眠っていた。そんなシドをアールはワラブの隣で見ていた。床に座り、壁に寄り掛かる。──シドは心配していないのだろうか。
 
アールたちは下手に動くよりも、結界が張られているこの家の中で待機することを選択した。カイを助けに行きたいのは山々だが、確実に助けに行ける方法がない今、どうすることも出来なかった。スーがカイの役に立ってくれることを願った。それにカイは逃げ足が早い。それに運も持っていると信じた。
 
アールは腰を上げて、ルイの隣に歩み寄った。
 
「なにを見てるの……?」
「ルフ鳥の動きです。もし、誰かが近くにいた場合、ルフ鳥が騒ぎ出すと思うので。この街の住人か、旅人か誰かと出会えれば、カイさんを助け出す方法を見つけだしてくれるかもしれません」
「そっか。……空飛ぶ絨毯を売りに商人が現れてくれたらいいのに」
「空飛ぶ絨毯は安定感が悪いのであまりスピードが出せないのですよ」
「え、空飛ぶ絨毯あるんだ……」
「荷物を運ぶリヤカーの代わりになら使えますが、人が乗って移動は出来ませんね。危険ですし、むきだしですから禁止されています」
「…………」
 夢がない。と、アールは思った。
「じゃあ絨毯に春巻みたいに包まって飛ぶのはどう?」
「それは……その状態では飛べませんね」
「ですよね」
 
再び2人は沈黙した。ルイは窓の外を眺め、今もカイを助けに行く方法を考えていた。
 
「戻ってくる前に……」
 と、ルイが口を開いた。「僕がゲート魔法でこちらに戻ってくる前に、モーメルさんに連絡をとったのです」
「モーメルさんに? 助け求めたの?」
 アールが食い気味に訊くと、ルイは小さく頷いた。
「じゃあ大丈夫なんじゃない? 助けてくれるかも」
「モーメルさんは、自分はもう手を貸さないと言いました。いつでも手を貸せるわけではないから、自分たちで乗り越えなさいと」
「……そう」
「これからも物資の支援はしてくださりますが、こういった緊急事態に対応はしないとおっしゃりました」
「そんな……カイになにかあったらどうするの……?」
 と、アールは不安げに訊いた。
「それは助けてくれなかったモーメルさんのせいではなく、カイさんの仲間である僕たちの責任です。僕たちはこれから、もっと大きな問題と向き合っていかなければならないのに、こんなところで既に人の力を借り、人の力を頼りにしていてはいけないのです。誰かに助けてもらえるとどこかで安心していては、僕たちだけでは今後も何も出来ないままです」
 
  甘えるんじゃないよ
 
アールはモーメルの声が聞こえたような気がした。
まるで自分たちは“モーメルお母さん”に甘える大きな子供みたいだ。
 
カイの安否がわからないまま、時間は刻々と過ぎてゆく。
1時間ほど経ってから、シドは漸く目を覚ました。欠伸をして、背を伸ばす。
 
「いま何時だ?」
 ルイは腕時計に目をやった。
「18時半です」
 シドはソファから下りると、一度部屋を見回し、窓際にいるルイの横に立った。
 
アールはまたワラブの隣に腰を下ろしていた。シドが一度部屋を見回したのは、カイが戻っていないか確認したのではないかと思う。
 
「まだうじゃうじゃいんだな」
「えぇ。この街にはほとんど人は残っていないというのに、しつこいですね」
 
ルイがそう言ったとき、家の周りをうろついていたルフ鳥がギャアギャアと叫びながら羽ばたいた。
 
「なんだ……?」
「わかりません。なにかいたのかもしれません」
 と、ルイは玄関から飛び出そうとしたが、シドがすぐに腕を掴んで止めた。
「待て下手に動くな!」
「しかしカイさんかもしれませんし、カイさんではなくても誰かいるのかもしれません!」
「だとしても落ち着け! またルフ鳥に捕まったら洒落になんねーだろ!」
 そう言ってシドはまた窓から外を眺めた。「お前はここにいろ俺が見てくる」
「……はい」
 
シドは玄関の周辺にいたルフ鳥がほとんど姿を消したのを確認し、ドアを開けた──と、同時に、何発もの銃声が鳴り響いた。
何者かに撃たれたルフ鳥がドサドサと上空から落ちてくる中で、カイが全速力で家の中へ転がり込んできた。
 
「──?! カイッ!」
 
アールとルイはすぐにカイに駆け寄った。カイは顔に無数の切り傷が出来ていた。ルフ鳥の爪にやられたのだろう。
 
「カイ大丈夫?! どうやって帰ってきたの?!」
「どうしよう……俺……俺……ハイマトス族に借り作っちゃった……」
 
  ハイマトス族
 
その言葉を聞いて、ルイとシドは顔を強張らせた。
 
「今……なんと……」
 と、ルイが言う。
 
シドもカイに目を向けていたが、ふと玄関前に人の気配を感じ、目を向けた。
 
「ハイマトス……」
 
そこには軽々と180cmを越える男が無表情で皆を見下ろしていた。
冷酷にも見えるその紅蓮の目で──。
 

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©Kamikawa
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