voice of mind - by ルイランノキ |
仲間がいても、寂しくなるときがある。
打ち解けたようで、打ち解けていないからかもしれない。
家族のこと、恋人や友達のこと、今の心境や悩み、辛さ……
まだ気軽には話せない。話したくない。
打ち解けたいとも思っていないのかもしれない。
私はいつか、此処を去る人間だから。
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アールは夜、街の中で恋人とすれ違うという夢を見た。雪斗の隣には知らない女性がいて、仲良く寄り添って歩いていた。
彼はアールに見向きもしなかった。まるでそこに彼女がいないかのように。
アールは透明人間にでもなった気分だった。声をかければ振り向いてくれるかもしれない。自分に気付いてくれるかもしれないと思ったけれど、ただ立ち尽くしていた。
人々が行き交う中で、何処にも行けず、声も出せずに。
──誰も私を見ない。誰も、私に触れない。
手前から歩いてきた人が、自分を避けずに通り抜けていった。
私は此処にはいないんだ……。
視界がグニャリと歪んだ。全て幻。触れられないもの。全部、偽物。
「アールぅ!」
後ろから声がした。
振り返ると、カイが走ってくる。
「アールぅ!」
彼女を呼んで、彼女の肩に触れた。
──私が見えるの? 君は本物?
「起きてよぉ、アールぅ」
「え……?」
「おーきーてぇー!」
* * * * *
そして目が覚めた。そこにカイがいた。
「おはようアールぅ」
そう言って満面の笑みで。
「おはよ。珍しいね、私より早く起きてるなんて」
と、アールは体を起こした。
「楽しい夢、見たぁ?」
「カイが夢に出てきたよ」
「ほんと?! なにしてた?」
「……救ってくれた。独りでいた私を」
──私は此処にいる。
家族も友達も恋人もいないこの場所に。
「そっかぁ! 俺やるじゃん! ──ところでシドとルイ知らない?」
「……え? いないの?」
「え? アール知ってるんじゃないのー?」
アールは仕切りを開け、テント内を見た。3人の布団は敷かれたままで、2人の姿がない。
「外にいるんじゃないの?」
「わかんない。チラッと見たときはいなかったぁ……」
アールは立ち上がり、テントから出て辺りを見渡した。遮るものがないので遥か遠くまで見えるが、どこにも人らしき姿はない。テントの後ろ側も見たが、どこにもいない。
「ねぇアールぅ、ほんとに知らないの? ふたりがどこ行ったのか」
と、カイは不安げに訊いた。
「知らないよ……私ずっと寝てたし。いつからいないの?」
「俺が起きたときにはもういなかったからぁ、10分前」
「ふたりがいないのにどうやってひとりで起きたの?」
一番の疑問である。
「喉が渇いてさぁ。最近夜な夜な喉が渇くんだよねー」
「……そう。暑いしこの辺は乾燥してるもんね」
アールは再びテント内に戻り、くまなくチェックをした。
シドの刀もルイのロッドもない。枕元に置いてあったシキンチャク袋もない。ただ、布団が敷かれたままだ。
「めずらしいよね、ルイが布団出したままなんて……」
「そうだよねぇ。急いでたのかなぁ」
「なにかあったのは確かだね」
「なにかって?」
「わかんない……でもすぐに帰ってくるかもしれないし、待ってみよう」
しかし、昼を過ぎてもルイたちは戻ってこなかった。
アールは携帯電話を取り出すと、ルイに電話をかけてみた。カイが心配そうに様子を伺う。
けれども呼び出し音は鳴っているが、出る気配がない。
カイは痺れを切らしてシドにかけてみたが、シドも電話に出なかった。一体どこへ行ったのだろう。ルイならばメモを残してくれそうなものの、メモもない。
「お腹すいた……」
と、カイはお腹を摩った。
そうだ。食料はルイが持っているのだ。
「あっ……お菓子あるよ」
と、アールはシキンチャク袋から箱に入ったクッキーを取り出し、カイに渡した。「リアさんがくれたの」
「わーい! アールの分は?」
「大丈夫。まだ1箱あるから」
「そっか! じゃあ遠慮なくいただきまーす!」
アールもクッキーを食べようと思ったが、思い止まった。ルイ達がいつ帰ってくるかわからない。念のため残しておこう。
空腹を満たすために、水を少し飲んだ。水も飲み過ぎないように心がける。
アールは何度もテント内から外を見回した。遠くで魔物がうろついているのが見える。──どこに行ったんだろう。捜しに行こうかと考えたが、カイを置いてはいけない。もし自分になにかあったら、カイは独りになってしまう。
日が暮れはじめても、一向に帰ってくる気配がなかった。
待ちくたびれたカイは布団に横になって眠っている。ルイ達からの連絡もない。やっぱり捜しに行こうか。でもひとりで遠くまではいけない。
アールは寝ているカイの体を揺さ振った。なかなか起きないので、苛立ちながら強めに揺すった。
「カイ起きて!」
「んーっ……帰ってきたぁ?」
と、カイは目を擦りながら体を起こす。
「ううん、まだ。──私ちょっと捜してこようかと思うんだけど」
「えっ、ひとりで?」
「一緒に行く?」
カイはしばらく考えて、
「一緒に行きたいけど……留守番してたほうがいいのかな」
と、言った。
「どうして?」
「俺……アールと一緒にいたら足手まといになるかもしれないし……」
「カイ……」
「待ってるよ。そんなに遠くまで行かないよね?」
「うん。テントが見えなくなるところまでは行かないよ」
「じゃあ待ってる。ちゃんと戻って来てよ? 絶対に!」
「うん。じゃあ……」
と、アールはテントを出ようとして、立ち止まる。
シキンチャク袋からもう一袋のクッキーを取り出し、カイに渡した。
「え……食べていいの?」
「ううん。なるべく節約して」
「じゃあなんで俺に渡すの? 俺食いしん坊だよ?」
「知ってる。私になにかあったときのために、カイが持ってて」
「なんだよそれぇ……帰ってくるんだろぉ?」
「そうだけど、一応ね。ほら、シキンチャク袋に仕舞っておいて」
「……わかったよ。でも戻ってこないと嫌だからね!」
「必ず戻るから。じゃあ行ってくるね」
と、アールはテントを出た。
剣を手に持ち、街へ向かう方面へと歩きだしたとき、カイがテントから顔を出した。
「アールぅ!」
「──なに?」
「電話していい?」
「うん、シド達に電話繋がったらすぐ連絡して!」
「そーじゃなくて、アールに電話していい?」
「…………?」
「電話しながら捜しに行ってくれない? 不安だから!」
「うん、わかった」
カイはアールに電話をかけ、アールは電話に出た。
「電話切らないでねー?」
と、電話越しにカイが言った。
「わかったわかった。私も不安だから、助かるよ。なにか話してて」
「りょーかい! じゃあ……ルイの秘密を」
アールは左手に携帯電話を持ち、右手に武器を持って歩き出した。
電話の向こうからカイの話し声が聞こえる。
『でねー、パーティーがあったときに、ルイは女装させられてさぁ!』
「ふふっ、そうなんだ」
時折返事をしながら、周囲を気にする。──と、その時、ナイフモグラが地面を這ってくることに気づいた。
「ごめんカイ、待って」
『え……もしもし? アール?』
アールは携帯電話を耳から離し、飛び出してきたナイフモグラに交わされることなく、斬り付けた。
『もしもしアールぅ?!』
「──あ、大丈夫。魔物が出たの」
『やっぱり戻ってきてよぉ!』
「ごめん、もうちょっと捜してみる」
そう言ってアールは、ふたりの名前を呼んだ。「ルイーっ! シドーっ!」
耳を澄ませるが、返事がない。
『見つかったぁ?』
「ううん、いない……。話の続き聞かせて?」
Thank you... |