voice of mind - by ルイランノキ


 離合集散14…『アクセサリー』

 
食事を終えたアールとリアは、再びぶらぶらと街を散歩する。
いつの間にかリアの両手には買い物袋がふたつずつ。
 
「片方持ちますよ」
 と、アールは言った。
「いいわよ、こう見えても力はあるんだから」
 リアはそう言って買い物袋を持ち上げて見せた。
「でも歩き辛いでしょ? 持ちます」
 と、アールはリアから袋をふたつ手に取った。
「ありがとう。久々の買い物だから、ついついいっぱい買っちゃうの」
「あ、それわかります!」
 
そう共感したものの、アールの手にはリアの荷物だけだ。
 
「じゃあ次はどこいこっか! あっ。忘れてた! 私ルヴィエールに知り合いがいるのよ。半月前くらいにここに引っ越したらしくてね、ルヴィエールに来る機会があったら顔を出してって言われてたの……」
「あ、じゃあ荷物預かっとくので行ってきてください」
「そんな……悪いわよ。アールちゃんも一緒にどう?」
「私はお邪魔になるだろうからいいよ。どこかで暇潰して可愛いお店でお茶して待ってます」
 と、アールはウインクした。
「でも遅くなるかもしれないわ。なるべく早く戻るようにするけど、話の長い人だから」
「大丈夫です。ごゆっくりしてきてください」
 
アールはリアが持っている荷物を全て預かった。ずっしりと重い。
 
「じゃあお言葉に甘えて。荷物はコインロッカーに預けておけばいいわ。転送ロッカーじゃなくて、普通のコインロッカーね」
「どこにあるんですか?」
 転送ロッカーってなんだろうと思いながらアールは訊いた。
「すぐそこよ」
 と、リアが指をさした先にコインロッカーがずらっと並んであるお店があった。
「わかりました」
「じゃあ用が済んだら連絡するわね」
「あっ、私携帯電話置いてきました。電源切ってるから……」
「そう……じゃあ……」
 リアは頭を悩ませた。
「さっき食事をしたお店で待ってます。何時くらいがいいですか?」
「遅くても1時間……と言いたいところだけど、2時間後かなぁ。大丈夫?」
 と、リアは申し訳なさそうに言う。
「はい! じゃあ2時間後にさっきのお店で」
 
2人はそう約束をして、別行動となった。
アールはコインロッカーに荷物を預け、ひとりでお店を見て回る。ショーウインドウのガラスに映る自分を見て、笑顔になった。──でも、心の奥に虚しさを感じた。どんなにお洒落をしてこの街に馴染んでも、心だけは置いてきぼりだ。
 
「あの人、目立つわよね」
 と、人の話し声が耳に入ってきた。
 
自分のことかと思ったが、どうやら違うようだ。人々の視線の先を辿り、ドキリとした。腰に刀を掛けている旅人らしき男が歩いて来るのが見えた。
このお洒落な街には似合わない。私も初めてこの街に訪れたとき、あんな風に見えていたのだろうか。アールはまるで当時の自分から目を逸らすように、顔を伏せた。
男はアールの横を通り過ぎていった。
 
アールは男の背中を見遣った。──あの人も旅の途中で立ち寄ったのだろうか。これからどこへ向かうのだろう。なんだか自分が今ひとりでいることに、心細さを感じた。あの人は仲間がいるのだろうかと、そう思いながら。
 
旅人が歩いて行った方角へ、あてもなく歩いてみると、武器屋を見つけ、無意識に足を止めた。
 
  今は心を休める時
 
そう言われたことを思い出し、並んである様々な武器から目を逸らしたが、その場から立ち去れない自分がいた。──なにがしたいの。
自分に問い掛けても答えは出ない。武器を眺めたいわけでも、新しい武器を手に入れたいわけでもない。それなのにどうして……。
自分の気持ちを確かめるように、武器屋へと足を踏み入れた。刀剣が大半を占めているが、銃やロッドも置いてある。
 
「──お嬢さんが来るような店じゃないよ」
 と、店員が声を掛けてきた。70代後半のお婆さんだった。
「あ……えっと……ちょっと興味があって……」
「そうかい。珍しいね」
「少し見て回ってもいいですか?」
「もちろんさ」
 そう言ってお婆さんは店の奥へと戻って行った。
 
さっきの旅人は、ここに来たのだろうか。そんなことを思いながら、店内を見て回る。どれも万単位の品ばかりだ。
レジの隣の棚には、ネックレスやブレスレットが並んであり、武器屋になぜアクセサリーが置いてあるのだろうかと、手に取ってみる。するとまたお婆さんがレジから声を掛けてきた。
 
「知り合いに旅人でもいるのかい?」
「え? あ……はい」
「そうかい。それはお守りだよ」
「お守り?」
「そこに置いてあるアクセサリーはどれもお守りさ。といっても、なにかしらの効果があるわけじゃない。職人が願いを込めながら作っただけのものだよ。どれも一点ものだがね。効果を期待するなら、店を出て三軒先のお店に行くといい。そこになら魔力が備わったアクセサリーが売ってるよ」
「魔力?」
「身につけていれば力が増す物から、体力の消耗を抑える物まで色々さ。値段は張るがね」
「そうですか……ありがとうございます」
 と、アールは笑顔で言った。
 
今の自分に必要な物は、キラキラ輝くストーンのネックレスでも、揺れるピアスでも、色鮮やかなお洋服でもない。
 
「すいません、これください。紹介してもらったお店にも行ってみます」
 
お守りをひとつ、購入した。アンティークなブレスレット。濃い赤や緑の丸い石が革紐に通してある。
少し男の子向けのデザインかな?と思った瞬間、ルイ達のことが頭を過ぎった。
そういえばルイも、アクセサリーを身につけていたっけ、と、バングルをつけていたことを思い出す。あれもお守りなのだろうか。
 
アールは武器屋を出て、お婆さんが紹介してくれた店へと向かった。
お店はすぐに見つかった。看板にはブレスレットと魔法円が描かれていて、店内にはさっきのお店に置いたあったようなアンティークのアクセサリーがずらりと並んであった。裸のまま置かれている物からガラスケースに入っている物がある。
壁にはコルクボードが掛けられており、並べてさしてある釘にアクセサリーがぶら下がっていた。
ざっと見ただけでも、男性向けのデザインが多い。ハードな物からシンプルな物まであるが、女性が好みそうな可愛らしいデザインの物はない。
旅人の為に作られたアクセサリーだ。魔物がいる外の世界へ旅立つ物は男性が大半だからだろうか。余程ロックテイストのハードなアクセサリーやゴシック系の物ではない限りは、女性が男物のアクセサリーを身につけていても違和感はない。
 
「いらっしゃい」
 と、男性店員が声を掛けてきた。
 
その男性店員を見て、アールは少したじろいだ。耳にも口にも複数のピアスをつけている。肩にはタトゥーが彫られていて、アクセサリーをいくつも身につけていた。街で見かけたら目を合わせたくないジャンルの人だ……と、思った。
  
「こんにちは……」
 と、アールは頭を下げる。
「なにを探してるんだ?」
「えっと……特に決めてはないんですが」
「男に貢ぎ物か?」
 と、店員は冷やかしながら、棚にあるアクセサリーを綺麗に並べなおす。
「そんなところです」
 と、適当に交わした。
「予算は? 何人の男に貢ぐんだ?」
 口を開けば失礼な事を言う店員だ。
「……さんに……4人かな」
「へぇ、随分とまぁ」
 と、店員はニタニタと笑う。
「あと自分の分も」
「あんたの?」
 店員はアールを足のつま先から頭まで見遣り、「ハートのかわいいアクセサリーはうちにはねぇぞ?」
「いりませんそんなもの」
 と、アールは店員に背を向け、自分で探すことにした。──が、効果は魔法文字で書かれているようで、どれが役に立つのかがわからない。
 

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