voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン47…『夢幻泡影24』

 
「7体目……」
 
シドは倒れている7体目の魔物を見つけた。7体目にしても斬り傷はひとつしかない。いずれも一撃で倒している。
 
──本当にタケルがやったのか……?
 
授けられた力を上手く使えるようになったのだろうか。
いくら力を与えられても使いこなせるかどうかは本人次第だ。タケルにはその素質があるのかもしれない。
 
「つーか……どこまで行ったんだ?」
 ため息混じりにタケルの姿を探す。
 
シドは、自分も力をつけるために夜な夜なひとりで腕ならしをするが、ルイに心配されると正直鬱陶しく思う。タケルもそう思うかもしれない。ただでさえ選ばれし者だとおだてられ、自分には特別な力があると思っているのだから。
きっと意気込んでいるのだろう。──真実を知ったらどうなる? 俺なら……愕然とすんだろうな。この力が全て偽物だとしたら。
 
──と、前方にまた魔物の影があった。
 
「8体目か……この調子だと10体は倒してんな」
 魔物に近づきながら、ふと思う。
 
それにしてもこの魔物の数……妙だな。魔物はどれもバニファという獣だ。この辺りにいてもおかしくない魔物だが、バニファは群れで行動することはない。それぞれに縄張りがあるため、連続して現れることはほぼない。それに今は魔物も寝静まる真夜中だ。バニファは夜行性ではない。
 
シドは倒れているバニファを見遣ると、まだ息があった。これまでとは違い、何箇所にも斬りつけた跡がある。
しゃがみ込み、横たわるバニファに目を凝らした。──やけに斬り傷が荒い。剣で斬ったにしては傷口の幅も広い。暗くてわかりづらいが、足元に大量の血が流れている。雨が降っているせいもあり、広範囲に流れている。
地面がぬかるんでいるお陰で、バニファとは違う巨大な足跡を見つけた。タケルの足跡もある。
 
「…………」
 
シドは刀を一振りした。──嫌な予感がする。
この辺りは弱い魔物しか生息していない。バニファより強い魔物はいるが、バニファを一撃で倒せるならさほど苦労はしないはずだ。
それなのに、地面は大分争った形跡がある。
 
──と、その時だった。
けたたましいほどの叫び声が闇に響いた。
 
「タケルッ?!」
 
咄嗟に名前を呼び、シドは足を速めた。
タケルの声だという確証はない。首を絞められ無理矢理声を上げたような奇声だった。
 
はたと、シドは足を止めた。闇に浮かぶ巨大な影が前方を塞いでいる。6メートル近くあるその影は、静かにとシドがいる方へと振り返った。
巨大な魔物の口から、なにか丸いボールのようなものがゴトリと地面に落ちて、シドの足元まで転がった。
 
「……タケル」
 
ボールのように転がってきたのは丈瑠の頭だった。
グチャグチャと音を鳴らしながら口を動かす魔物は、シドを目で捉えていた。
シドの刀を握る手が震え、カチカチと音を鳴らしていた。呼吸を荒げながら、じりじりと後ずさる。
 
──意識が朦朧とする。
何が起きたんだ? 目の前にいるのは何だ? タケルは? なんで……頭だけなんだ?
 
身体を失った丈瑠の頭はシドを見据えていた。涙を流し、血走った目はシドを捉えて離さなかった。
 
    うそつき 
 
目を見開いたまま、口がそう動いたような気がした。
 

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