voice of mind - by ルイランノキ


 シャットダウン16…『冷たい風』

 
枝に固定されていた宝箱を上から落としたルイは、軽々と飛び降りた。
 
「おっ、かっこいい」
 と、アールは言った。
「かっこいい……ですか?」
「ピョーンって。ルイがテキパキ動いてるとこあんまり見たことなかったから。あ、料理はテキパキしてたね」
「そう……ですか?」
 ルイは照れ臭く笑った。
「んじゃ早速宝箱を……」
 アールはワクワクしながら宝箱に手を伸ばすが、
「待ってください」
 と、ルイはアールの肩に手を置いた。
「変な物が入っていると危険ですので」
「あ、そういえばシドが言ってたね。でも開けてみたい」
 
アールが両手を合わせてお願いすると、ルイは仕方ないなと笑みを見せた。
ルイはアールのすぐ隣に立ち、ロッドを構えた。
 
「よぉーし、じゃあ開けるよ?」
「ではこれを」
 と、ルイはアールに古びた鍵を渡した。
「なに? これ」
「宝箱の鍵ですよ。落とした時に開かなかったので、鍵が閉まっているようです」
「この鍵って……どの宝箱も開くの?」
「大抵の宝箱は開きますが、一部の宝箱は専用の鍵が必要です」
「へぇ……。じゃ、とりあえず開けてみるね」
 
アールは受け取った鍵を宝箱の穴に差し込んだ。期待と不安でドキドキしながら、ゆっくりと回す。ガチャリと小さな音を立てた。
 
「あ……開いた」
「気をつけてくださいね、魔物かもしれませんから」
「なにそれ?! 怖いなぁ……よし……」
 意を決して、両手で宝箱の蓋を開けた。
 
「──なにやってんだ?」
 と、タイミングよくシドは戻ってくると、開いた宝箱を覗き込んだ。「お、回復薬じゃねーか」
「……シドっていいとこで戻ってくるよね」
「あ?」
「回復薬でよかったですね」
 と、ルイはしゃがみ込んだ。「頂いていきましょう。代わりになにか……」
「んじゃ、これ入れとくか?」
 と、シドがアーム玉を差し出した。
「見つかったのですね」
「あぁ。でも少し欠けてる」
「欠けてると悪いの?」
 と、アールは立ち上がりながら訊く。
「アーム玉に込められた力が弱まってくんだよ。保管が面倒くせーから、回復薬の代わりに入れとけよ」
「そうですね。それと……」
 ルイはシキンチャク袋を漁った。「食料を少し」
「おいおい……俺達の分は大丈夫なんだろうなぁ?」
「心配いりませんよ、食料はログ街で買いましたから」
 
ルイは回復薬の代わりになりそうなものを宝箱に仕舞った。
 
「じゃあシド、お願い」
 と、アールが言う。
「なにがだよ」
「宝箱、木の上にあったの。戻しといて」
「なんで俺がッ!」
 ルイは宝箱を抱え、笑顔で言った。
「なにも元にあった場所に戻す必要はありませんよ」
「そうなの?」
「えぇ。しかしわかりにくい場所に置くのが無難ですから、どこか隠し場所を探してきます。お2人は先にテントへ戻っていてください。──あ、カイさんが眠っていたら起こしておいてくれますか?」
「了解」
 と、アールが返事を返した頃にはもう、シドは帰り道を歩いていた。
「じゃあルイ、気をつけてね?」
 そう言って、シドを追い掛けた。
 
「シド待ってよ!」
 と、シドに追いついたアール。
「なぁーんで待たなきゃいけねんだよ」
 振り返りもしないでスタスタと歩きながら言い返してくる。
「あ、そっか」
 シドの後ろを歩きながら、それもそうかと納得。
「だろ? 大体女ってのはなにかと一緒に行動したがるよな。一人で行動出来ねーのかよ」
「そういうわけじゃ……」
 と、その時、シドが急に足を止め、アールはシドの背中にぶつかった。
「痛っ……なに? 魔物?」
「いや、お前なんで俺のすぐ真後ろ歩いてんだよ」
「……なにそれ。真後ろ歩いてたらダメなの?」
「近いんだよ。もっと離れろ。車間距離を保たねーからぶつかんだろーが」
「車じゃないし」
「面倒くせぇなぁ……大体わかんだろ! 徒歩距離だ徒歩距離ッ」
「だって少し風があるから……」
 と、目を逸らす。
「は? 風があったらなんて真後ろを歩く……」
「いやぁシドが壁になってくれるから助かるなぁって……寒いし」
 そう言うとシドに睨まれたのでアールは2、3歩後ろにさがった。
 
アールは帰り道を歩きながらまた思い出の中へ引きずり落とされてゆく。
 
──雪斗に渡すはずだったマフラーを、捨てる場所を探していた。
家のごみ箱に捨てると親に見つかって何か言われるの嫌だったし、かといって自分で火をつけて燃やすのは辛かった。
雪斗を思いながら編んだマフラー。その思いを燃やしてしまうような気がして。
 
結局、押し入れの奥にしまい込んだまま。
もし、渡していたら、君は喜んでくれてたのだろうか。新しく買ったマフラーを外してまで、身につけてくれてたのかな。
雪斗は優しいからきっと、喜んでくれていたかもしれない。──でも、その優しさに私は素直にプレゼントしてよかったと思えるのかな。……あんな不格好なマフラーを渡して。
 
どっちにしろ、後悔していたかもしれない。
 
「はい、クリスマスプレゼント」
 カラオケボックスで、君に渡した。
「じゃあ俺からも、これ」
「わぁ、ありがとう!」
「俺先に今開けていい?」
「うん!」
 プレゼントの中身は腕時計。
「お! かっこいいなこの腕時計!」
「ほんと? 気に入った?」
「気に入った! でもなんで腕時計?」
 と、雪斗は早速腕に嵌めながら訊く。
「え……ダメだった?」
「いや、そこは『あなたと同じ時を刻みたいから』とか言わないと」
「なにそれ! 言うわけないじゃんそんなこと!」
 そう言って大笑いした。
「いやいや、言えよそこは」
 と、雪斗も笑う。
「じゃあ私もプレゼント開けるから、理由考えといて」
「ゲッ……」
 プレゼントを開けている間、雪斗は大袈裟なほど悩んでいた。
「わぁ猫のネックレス! 可愛い! ……で? なんで猫のネックレスなのかな??」
 と、意地悪げに理由を訊く。
「そうだな、それを俺だと思って可愛がってくれ」
「なぁーにそれ! あははははは!」
「なんだよ! 一生懸命考えたのに!」
「あははははは! 30点!」
「低いな! じゃあ……“君のペットになりたい”という意味」
「あー…マイナス50点」
「うわっ……もう言うのやめる」
「ふふっ、でもありがとう! 大事にする」
「猫、好きだろ?」
「うん、飼ってるしね。それで猫?」
「まぁ……普通にそういう可愛いネックレス似合うと思ってさ」
「そ、そうかな?」
 と、照れ笑い。
 
雪斗の目に、私はどう映っていたんだろう。可愛い女の子だったらいいな。
 
「貸して。付けてあげるから」
「ありがと……」
 
嫌われたくなくて、もっと好きになってほしくて、ぶりっ子し過ぎちゃったかな。
 
「ほら、似合ってる」
 
そう言って優しく笑った君の顔に、また照れ笑いをした。
「ありがとう」って、やっぱりちょっとぶりっ子したように答えてしまう。
 
帰り道、寒いねと言った私に手を差し出した君。君の手を取ると、君のポケットに滑り込む。
 
「そっちの手も入れる?」
「ふふっ、歩きづらいよ」
 
雪は降っていなくて、ただただ風が冷たかった。だけど、心はあたたかかったから、平気だった。
冷たい風を理由に、君にくっついて歩いた。
 
来年も、再来年も、そのまた次の年も、君との暖かい冬を迎えるんだと思っていた。
 

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©Kamikawa
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