voice of mind - by ルイランノキ |
アールをエテルネルライトの中に閉じ込める?
「なに言ってんだ……? 閉じ込めてどうすんだよ……」
と、苦笑するシド。「冗談だろ?」
「そうだよ! アールは全部終わったら元の世界に帰るんだから!」
「帰す気はない」
「……え、なに……なに言ってんの……? 約束と違うよ……」
カイは絶句した。
「元の世界へ帰す気はないと言っているんだ。少々心が痛むが、元はこちらの人間だと聞いて肩の荷が下りた」
「ふざけているのか……?」
と、ヴァイスも疑いの目を向ける。
「彼女の力は世界を守る力になる。アリアンがシュバルツを封じ続けることで世界平和を保ってきたようにな。寧ろアリアンとシュバルツの力を受け継いだ彼女の方がより莫大な力を持っているはずだ。彼女をエテルネルライトに閉じ込めておくことでその力をいつまでも星を守るエネルギーとして生かすことが出来る」
ルイは下を向いたまま、口を閉ざしていた。
「おいルイ! なに黙ってんだよ。お前からもなんか言ってやれよ!」
「…………」
額から、嫌な汗が流れた。
「おい!」
シドはルイの様子がおかしいことに気がついた。アールのことになるとムキになるルイが、暗い顔で俯いている。
「まさかお前……知ってたのか?」
シドの質問に、カイとヴァイスはルイに目を遣った。
「…………」
ルイは顔を上げず、奥歯を噛み締めた。
「なんとか言えよッ!?」
「……すみません」
消え入りそうな声で、そう言った。それが答えだった。
「なんだよそれ……どういうことだよぉ!」
カイはルイを揺さぶったが、苦痛の表情を浮かべるだけで何も答えてはくれない。
「ルイには私から話してある」
と、ゼンダが口を開いた。
「アールと旅をはじめる前にだ。魔導師である彼の力を借りることもあるかもしれないからな」
ルイ、お前にだけ話したいことがある
ルイはあの日、ゼンダがそう言って自分だけにその計画を告げた記憶がよみがえった。
「…………」
カイは、力なくルイから手を離した。
「それからもうひとつ、アース化計画も進んでいる。全ての根源は魔法の力。この世界から魔法を取り除く。──正確には、この星を巡る魔法の力をグロリアが眠るエテルネルライトに吸収させる」
「それって……なに? どうなるの?」
「人々は魔法のない世界を築く。世界の再生だよ」
ゼンダの斜め後ろで静かに立っているジェイが無表情でゼンダを一瞥した。
「はあ? 馬鹿げた夢語ってんじゃねーよ……」
「馬鹿げているか? 私はいつでも本気だ。駄洒落を言うときもな」
「アールがかわいそうだ……」
と、カイ。心が痛む。こんなの間違っている。
そしてゼンダは腕を組んで言った。
「世界の平和を保つためにはグロリアの力が必要になる。そのグロリアを守り、誘(いざな)うのが君たちの役目だ。すべては国のため、世界のため、星を守るため。君たちもわかっているはずだ。彼女が普通の町娘だったなら、ここまで命をかけては守らないだろう。彼女は、人の姿をした世界を守るための最終兵器だ」
「アールちゃん? なにしてるの……?」
部屋の外からリアの声がした。カイがドアに駆け寄って扉を開くと、アールとリアが立っていた。呆然と立ち尽くしているアールの目から涙が流れ落ちる。血で汚れていたはずの白い服は防護服に着替えられており、その手には携帯電話が握られていた。一度モーメル宅に戻ってゼンダからの連絡を知って駆けつけたようだった。
「アールちゃんが部屋の前にいたんだけど……これはなに? なにをしてるの?」
リアはゼンダに用があってここに来たため、アールがなぜ泣いているのかわからなかった。
「ちが……違う……アールさん……違うんです……」
ルイは説明をしようとしたが、言葉が出てこなかった。
「アール……」
カイが歩み寄ろうとしたが、アールはよろめくように後ずさった。
このままアールが自分から遠ざかっていくような不安に襲われたカイがアールに手を伸ばしたが、アールはそれを避けるように身を逸らし、その場から走り去った。
「アールちゃん!」と、リアがすぐに後を追う。
「間違ったことを言ったか?」
と、ゼンダ。そしてこう続けた。
「無事でよかったではないか。魔物だか悪魔だか知らないが、そんなものに身体を乗っ取られずに済んだようだ。一安心だな」
カッとなったルイが口を開こうとしたときにはもう、シドの拳が国王の頬にめり込んでいた。
「ゼンダ様!」
倒れ込んだゼンダにジェイが思わず敬称をつけて呼び、手を貸した。
「確かに俺たちは世界平和のために動いてる。──でもな、アールのことを物(兵器)だと思ったことはねぇよ。あんたと違ってタケルのこともチビのことも、一人の人間として、同じ人間として見てる。あんたにとっちゃ……世界平和を保つために必要な道具に過ぎないんだろうけどなッ! どーせ俺たちのことも、そう思ってんだろッ!」
シドはそう言い放って、部屋を出て行った。
ゼンダはジェイの手を借りて立ち上がる。
「俺、おっちゃん嫌いだ」
カイもそう言って、足早に部屋を後にした。
ゼンダはヴァイスに目を向けた。
「がっかりしたか? 初めてお目にかかった国王がこの様だ」
「……あんたにはあんたの考えがあるんだろう」
「ほう、理解してくれるのか」
「勘違いするな」
と、背を向け、ルイを見遣った。
「──ルイ」
「…………」
「誤解があるなら自ら解く事だ」
ルイはヴァイスを見上げた。
「……はい」
Thank you... |