voice of mind - by ルイランノキ


 心の声4…『アジト』

 
ミシェルに連れ添って彼女が住んでいる街の病院へ向かったカイは、ミシェルが手術室に運ばれた後、手術室の前に置かれているベンチに腰掛けた。
携帯電話を取り出して、仲間から連絡が入っていないか確かめたが、まだ誰からも連絡は来ていない。アールに電話を掛けてみたが、繋がらない。
 
「お電話は外でお願いしますね」
 と、通りすがりの看護師に注意を受けた。
 
カイはため息をつき、アールはどこに行ってしまったのだろうと考える。モーメルの家は沢山の血が床や地面を覆っていた。モーメルは両目の眼球を失っていたが、それだけであんなにも血を流すとは思えないし、ミシェルは骨折をしていたが血を流す怪我はしていない。
 
「…………」
 
考えられるのは、アールだった。でも、人間一人で流せる血の量ではない。もしもアールだけの血なら、首なり両手足、もしくは胴体を切断されているのではないかと思える量だ。──いや、それでも血溜りが外へ続くほど流血するだろうか。
カイは不安になり、アールにメールを打った。
 
【アール、どこにいるの?】
 
心が落ち着かない。ミシェルの話では、モーメルがアールを覚醒させようとしていたと言っていた。──どうやって?
 
ため息が出る。何度ため息をこぼしたって、意味は無いのに。
 
【アール見つかった?】
 
カイはシドにメールを打った。
 
━━━━━━━━━━━
 
──ホルキス荒野 第一部隊アジト第3区
 
アサヒはアリアンの日記帳を持って第一部隊のアジトへ戻ると、ほとんどが出払っており、人が少なかった。荒野の片隅に、敷地の広いコンクリートの建物がある。2階建てだが、4000坪はある。
 
「なんでこんなに人少ないんだ?」
「シュバルツ様のお声を聞き、活発に動き出したようです」
 銛を武器として装備している見張り役がそう言った。
「シュバルツ様の声なんて前から聞いてるだろ?」
「なにをおっしゃっているのですか……今回のは特別ですよ。属印者全員に聞こえたのですから。これまでは特定の人だけにしか聞こえませんでした。私も第一部隊におりますがシュバルツ様のお声を直接聞いたのは初めてでしたから、興奮しましたよ。私も早くシュバルツ様のお力添えになりたいと日々思っております」
「全員……? 目覚めも近いってことか」
「ご存知ですか? シュバルツ様自体のエネルギーはもう十分に溜まっていると」
「ならなんで起きないんだ?」
「まだ、生きているんですよ。アリアン様の力が」
「しつこいね」
 と、笑う。
「目が覚めているのに牢獄に閉じ込められているようなものですよ、きっと」
「今はその頑固な牢獄を破壊する力を溜めているってところか。──それにしても、人少ないなぁ。いいお土産持ってきたのに」
 アサヒは日記帳を見遣った。
「なんですか? それは」
「なんだと思う?」
「本……ですか?」
「ノートだよ。それも、アリアンの日記帳」
「本当ですか?」
「本物かどうかが問題だけどね。グロリアの一味から貰ったんだ。あの様子からして本物だと思ったから交換条件を呑んだんだけど、中身読んでみたら微妙なところだった。そもそもあいつらはアリアンの塔で見つけたって言っていたが俺はその瞬間を見ていないし、嘘をつかれても見破りようがない。アリアンの指紋が残っていたとしても、だ」
「はあ……」
「なに書いてるか知りたいだろ?」
「えぇ、まぁ……本物なら……」
「なんだよ疑ってるのかよ」
 と、ムッとする。
「えっ、アサヒさんが疑っていらっしゃるから……」
「まぁいいや。でも誰かに話したいんだよなー。でも誰もいない」
 と、室内を覗き込む。「じいさんは? セルじいさん」
「セルじいさん?」
「…………」
「…………」
「あ、そっか。あのじいさんは第二部隊か」
「すみません、第二部隊はよくわかりません」
「第二部隊って何人?」
「さぁ、私にはわかりかねます」
「大体の人数は?」
「第二部隊も第一部隊と同じで増えたり減ったりしているようなので」
「第二部隊も? 増えることあるの?」
「えぇ……第二部隊の場合は……第一部隊から粗相を犯した者の中でも消すには惜しい人材が第二部隊に下ろされるようです」
「あーぁ。じゃあ俺も君もいつ第二部隊に下ろされてもおかしくないわけだ」
 と、笑う。
「笑えませんよ……。アサヒさんが下ろされることはないでしょうが」
「でも俺、今仕事少ないんだよね。だから第二部隊の仕事奪ってしまったよ」
 と、アリアンの日記帳を持ち上げた。
 
アサヒは少し考えた。この日記帳を誰に渡すか。確実に本物だと言えるならば“上”に報告するのだが、いまいち信用性がない。元々アリアンの塔を調べるよう指示を受けていたのは第二部隊と第三部隊だ。手に入れたのは自分ではあるが、まぁ、第二部隊に渡して恩を売るのもいいなと考える。
 
「第二部隊のアジトってどこ?」
 と、アサヒ。
「ですから、第二部隊のことはわかりかねます」
「…………」
 どこで会えるだろうか。連絡先は……。
「あ、暇そうな奴がいた。ちょっと行ってくる」
 
アサヒは見張り役にそう言って、早速暇そうな奴に会いに向かった。
向かう先は、“元第十部隊”のアジトである。
 

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