voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇15…『2階』

 
全員、1階の室内を歩き回りながら小さな鍵穴を探した。
アールは天井を見上げた。天井は随分と高く、10メートルはある。その天井に、小さな黒い点を見つけた。
 
「ねぇあれ……まさか鍵穴じゃないよね?」
「どれ?」
 と、近くにいたカイがアールの横に立って見上げた。
「……どれ?」
「ほらあれ」
 と、できるだけ腕を伸ばして指を差した。
「…………」
「あれだってば!」
「どうしました?」
 と、ルイも側に来て、天上を見上げた。「黒い点がありますね」
「どれ?」
 と、カイ。
「もういいよカイは探さなくて」
「ひどい!」
「あの場所だけ黒いのは不自然ですね」
「鍵穴か?」
 と、シド。
「多分」
「扉はないようですが……」
「それにどうやってあそこに鍵を差すの?」
「みんなで肩車しちゃう?」
 と、カイ。
「無理でしょ」
「スーちん10メートルくらい伸びるぅ?」
 スーは両手を作って×を示した。
「僕が結界で階段を作りましょう」
 
ルイは大きさが異なる結界をいくつか張って足場を作った。
 
「誰が行きますか?」
「私が行く。鍵を当てたのは私だし」
「ハズレな」
 と、シド。
「まだ黄金諦めてないから!」
 アールは結界を上って天井に近づくと、黒い点はやっぱり鍵穴だと確認できた。
「やっぱり鍵穴だったよー! 差してみるねー」
 と、上から知らせ、鍵を差した。
 
鍵は鍵穴に綺麗に嵌り、カチッと音がした。けれど差し込んだだけではなにも起きなかった。試しに右に回してみるとガチャリと鍵が開く音がした。
 
「差したー?」
 と、下からではよく見えないカイが呼びかける。
 
アールは差して回したことを伝えようと眼下を見遣ると、壁に扉が出現していることに気がついた。音もなく現れたらしい。
 
「黄金の扉!」
 と、上から指を差した。 
「黄金じゃなかったらハズレだと認めろ」
 結界を下りて来たアールにシドは言う。
「大丈夫、神にも仏にもご先祖様にもお願いしたから誰か聞いてくれてるはず」
 
出現した扉にはドアノブがあった。ルイが警戒を促しながらドアノブを回して、扉を開いた。そこには50cm幅の狭い空間と、壁があった。
 
「壁……?」
 少し覗き込むと、左側に狭い階段があった。2階へ続く階段と思われる。
「狭いしハズレな。神にも仏にもご先祖にも見捨てられたなお前」
「いや、よく考えて。この鍵がなかったら上にはいけないんだよ? お金で買えるものじゃないくらい貴重なものだよ」
「金銭的価値はねぇだろ」
 と、階段を上がって行く。アールはすぐに後についた。
「金銭的な価値はないけど、この鍵にはそれ以上の価値が!」
「ハズレを認めろ。ここで使わなきゃ1ミルにもなんねぇガラクタだ」
「あ、ガラクタじゃないかも。鍵を集めてるコレクターが超高値で買うかも! 20万以上で!」
「あるわけねぇだろ」
「わかんないじゃん!」
 
2階の部屋へたどり着くと、一同は部屋の中心で立ち止まった。
円状になっている部屋の壁は全て木製の本棚になっており、ぎっしりと本が並んでいる。奥には壁に寄せるように小さな四角い机と椅子が置かれ、机の前の壁には窓があった。そして、机の左側には机側を向いた小さな本棚がひとつ。
 
「窓なんてあったっけ?」
 と、カイは机に近づいた。
「外観は別なのかもね。モーメルさん家だってそうじゃない。2階があるのに外から見たら2階が存在してないの」
「それとはまた違う魔法だと思うけどなぁ」
 と、勝手に椅子を引いて、引き出しを開けた。
「お?」
 四葉のクローバーを押し花にした長方形の栞が一枚入っていた。
「書斎……でしょうか」
 と、ルイ。
「なんの本?」
 アールはルイに目を向けた。
「いくつかタイトルだけ見ましたが、この世界に関することばかりです。ゼフィール国に止まらず他国についての本や、当時存在していたと思われる村についての本や、地図、勿論魔法の本もあるようですが……」
「ここにいたのかな……アリアン」
 
不思議な空間だった。もう何百年も誰も足を踏み入れていないはずなのに、埃ひとつない。けれど、人がいたという気配もない。
 
「引き出しには栞しかなかったー」
 カイは栞を机の上に置いて、本棚を調べ始めた。といっても、なにか面白い本はないか探しているだけだが。
「…………」
 アールは机の上に置かれた栞を眺めた。
 
──なんだろう。どこか懐かしいような。四葉を見たのが久しぶりだからだろうか。
何気なく栞に触れたとき、脳裏に誰かの声が響いた。
 
 あなたの幸せを願いましょう
 
「……?」
「どうした」
 と、ヴァイスが様子を気にかけ、アールに歩み寄った。
「四葉のクローバーって、こっちでも幸せの象徴だったりする?」
「……あぁ。それぞれの葉は、希望、愛、幸運、誠実を象徴していると言われている」
「詳しいね」
「人から教わった」
「……もしかして婚約者の?」
「…………」
「当たりだね。そういうの女の人のほうが知ってるからそんな気がした」
 アールは栞を机の上に置いた。
「ここにも四葉がある!」
 と、カイが叫んだ。本棚の一番下の段にあった1冊の本。タイトルの上にクローバーのマークがあった。
「よく見つけましたね」
 ルイは周囲の本を眺めながらカイに近寄った。
「全部つまんなそうな本ばっかだなーと思ってたら目に入った」
 と、手に取ろうと本を引き抜いたとき、反対側の壁にある本棚が手前に押し出され、横にスライドした。扉の向こうに3階への階段が現れる。
「俺すげー!」
「あの栞はヒントだったようですね。もう少し見ていたいところですが、一先ず全ての階を覗いてみましょう」
「何階まであるんだ?」
 と、シドは腕を組んだ。
「部屋の高さと外観で見る限りでは5階くらいでしょうか」
「魔法が掛けられてて100階以上あったらどぅーするぅー?」
 カイは目を見開き、もしそんなことあったら最悪だと思いながら言った。
「地獄だな……」
 

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©Kamikawa
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