voice of mind - by ルイランノキ


 因果の闇9…『光』

 
「イライラする」
 と、シド。
「周りを掘ってみますか」
「あ、スコップはおいらに任せてー」
 と、カイ。
 
早速スコップで掘り始めたが、不思議なことに掘って端に寄せた砂が生きているかのように元の場所に戻ってしまった。どう見ても魔法の力が加わっている。一同は顔を見合わせた。
 
「ただのおもちゃではなさそうですね」
「シーワンシーワン!」
 と、カイが高速で掘ってみるが、高速で砂が戻って穴を埋めてしまう。
「シーワンではないと思うよ。また次の手がかりを探すための剣だと思う。小さいし」
「でも俺思うんだ。シーワンの大剣と言うけど、《シーワンの大剣》っていう名前なだけで、その名前の通り大きいとは限らないんじゃないかって」
「…………」
 そういう考えは無かった。
「たまにいるよな、名前負けしてる奴」
 と、シド。
「…………」
 アールは何も言えなかった。良い子と書いて良子。まさに名前負けだ。
 
久しぶりに自分の名前を思い出したが、心が締め付けられることはなかった。寧ろそのことが心をかき乱した。
 
「こういうのはさ、選ばれし者が引っこ抜くんじゃない?!」
 カイは輝かせた目をアールに向けた。
「私? シドがペンチ使っても引っこ抜けなかったのに」
「神話であるじゃん、岩とかに刺さってる剣でさ、誰にも抜けないんだけど選ばれし者が触れたらすんなり抜けた! ってやつ」
「ベタだなぁ」
 と言いつつも、指で摘んでみた。
 一同はごくりと息を飲んだ。
「行くよ?」
「うん!」
「せーのっ」
 と、指でしっかりと摘んでひぱったが、アールでもびくともしなかった。
「……だめだ」
 今度は爪を立ててもっと強めに引っ張ってみるも、動かない。しっかりと打ち込んである釘を素手で引き抜こうとしているようなものだ。
「指痛い……」
 指が赤くなってしまった。
「テコの原理は?」
 と、アール。十字になっているため、十分引っ掛けることが出来る。
「魔法が掛けられてるようなので、物理的なやり方では抜けないのかもしれません。なにか仕掛けがあるのだと思うのですが」
 と、ルイ。
「仕掛けって何だよ」
「まず、テンプルムに入ったときの違和感について考えませんか。これまでは感じなかった違和感を、今回は感じた。なにかこれまでとは変わった入り方をしたでしょうか」
「私は普通に一番最初の時みたいに、森の中でなにか感じた場所に立って、ゲートが開いてみんなと移動したよ? 変わったことはなにもしてないと思うけど」
「森の中ではいつもと違うことはありませんでしたか?」
「特に何も」
「森の中をゲートで飛んできたけどねぇ」
 と、カイ。
「確かにこれまでと違うことをしたといったら、ゲートを使って移動してきたことくらいですが……ゲートは組織が開いたものですし、どう関係してくるのか疑問です」
「あとはぁ、シドが仲間に戻ったことかなぁ。前に来たときはシド敵だったし!」
「関係ねぇだろ」
 と、シドは腕を組んだ。
「あ……それだ。関係なくないかも」
 と、アールは言った。
「どういうことですか?」
「シドが仲間に戻ったからっていうか、ここに組織がいない。邪魔なものはいなくて、“光”が全部揃ってる」
 
ギルトが見たという世界を救う大きな光と、それを守る4つの光。
 
「アリアンの塔は俺たちを待ってたってこと? てゆーかスーちんは? 光に入ってないんですけどー」
 と、カイ。
「ギルトさんが気づかなかったんじゃない? もう一つ小さい光があることに」
 アールがそう言うと、スーは嬉しそうに拍手をしてヴァイスの肩からアールの頭の上に移動した。
「──で、それで全員揃ったからなんだってんだよ。全員で引っこ抜けとでもいうのか?」
「それだ!」
 カイは人差し指を立てた。
「触れるとこ1cmしかないんだよ? みんなで触るのも難しいよ」
「小指の爪の先でも触れていれば大丈夫じゃなーい?」
 と、カイは早速地面に寝そべって腕を伸ばし、小指の先を小さな剣の柄にちょんと触れさせた。
「いや、それないと思うけど……」
「なんでも試してみましょう」
 と、ルイも剣の側で腰を下ろし、指先を剣に触れさせた。
 
絶対に違うと思いながらも、仕方なくシドとヴァイスも近寄り、小指を触れさせた。アールはそんな4人を見て思わず吹き出した。
 
「なに笑ってんだよさっさとお前も触れ」
「だって……男4人密集してなにやってんだろうって」
 と、笑う。
「アールさん入れませんね……」
「アールん上から触ればいいよ。俺の背中に乗ってさぁ」
「すごくアホみたい」
 と、アールは笑いながらうつ伏せで寝そべっているカイの背中から手を伸ばした。スーも手を作って隙間から触れた。
 
誰もが「本当に何をしているんだろう」と思っていたが、アールの人差し指が柄のてっぺんに触れたその時、小さな剣を囲む小さな魔法円が広がった。
 
「なにこれ!」
「なにか魔法が発動……されそうです」
「俺の読みは間違ってなかったー!」
 
──と、暫く待ってみるがなにも起きない。
 
「なにどういうこと?」
 と、アール。
「アールさん、引っこ抜いて見てください」
「無理だよみんなの指が幅取っててつまめないもん」
 みんなの小指の幅がちょうど1cmくらいある。
「みなさんなるべく指を……爪を上に向けて指を地面にぎゅっと押し当てて平たくしてください」
「なぁなにやってんだこれ……」
 と、シド。はたから見ると滑稽な光景だろう。
「さぁ、アールさん、爪の先で剣を……」
「ほんとなにこれ。おかしいんだけど」
 と、笑いが止まらない。
「もっと大掛かりな仕掛けにしてほしいもんだよねぇ」
「凄く細かい作業……」
 と、アールは手を伸ばして、何とか指先でつまむと爪を立てた。
「引っ張るよ?」
 アールがぐっと引っ張ってみると、これまでのが嘘のようにするっと抜けた。
 
小さな剣はアールの手から離れて空(くう)に浮き、黄金色の光を放った。一同は目を細めながら距離を取ると、小さな剣は“シーワンの大剣”と名乗るのに相応しい風貌へと変化して地面に突き刺さった。そして、ゲートステージに新たな魔法円が浮かび上がった。
 
「細かい作業からの大掛かりな仕掛け!」
 と、アールは笑う。
「これがシーワンの大剣で間違いないでしょうね。ヒントも実に単純なものでした。あれだけ小さければ、風が吹くと木々の葉や草などが舞って覆い被さりその身を隠す。そして小さな影を作ることもあるでしょう」
「ちっさいから見つからなかったとかありぃ?」
 と、ムッとするカイ。
「誰が突き立てますか?」
「そりゃアールでしょ」
「なんで私なの……ちょっと怖いんだけど」
 と、言いながらも地面に突き刺さった大剣を引き抜いた。
「重い……」
 両手でも重い。シドに目を向けると、シドは軽々と大剣を受け取った。
 
アールの代わりにシドが大剣を持ってゲートステージの中央に立つと、大剣を高く振り上げてステージの中心にある窪みに嵌め込んだ。魔法円が放った光はテンプルム全体を包み込み、一同の視界は真っ白に。光の残像が徐々に薄れていき、ステージの下にいたアール、カイ、ルイ、ヴァイスの目にようやくステージ上のシドの姿が見えた。
 
「……シドさん、大丈夫でしたか?」
「あれを見ろ」
 シドは塔を指差した。
 
一同が塔に目を向けると、上空にあったはずの塔が地面の上に建っていた。
 

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