voice of mind - by ルイランノキ


 歓天喜地11…『カレー』

 
「ブラオ街のVRCか……ちょっと待ってくれ」
 
ワオンはVRCのスタッフルームにいた。携帯電話を片手にパソコンからブラオ街のVRCを調べると、営業されているかの確認が取れた。
 
「今調べたんだが、一部営業中らしい。一応使えるが本格的にはやってないな。てっきりまだ運営してないと思ってたもんで調べてなかった。直接連絡入れてみるが、少し待てるか?」
『あ、はい。お願いします』
 
ワオンはブラオのVRCに電話を掛けた。自分の知り合いだと言ってシドの名前を出し、利用者の名簿を見てもらった。幸い、ワオンはVRCに長く務めていることもあって信頼されていたため、ワオンの名前を聞いた相手の同業者はすんなり了承。そして。
 
「アールちゃん、いい知らせだ」
『え?』
「昨日VRCに来てたらしい」
『昨日……今日は?』
「今日はまだだな」
『ありがとう! お礼は必ず!』
「いいって。役に立ててよかったよ。会えるといいな」
『はい!』
 
アールはすぐにヴァイスとカイに伝え、商店街で聞き込みをしていたルイの元へ。VRCの場所を聞いていたルイは仲間を連れてすぐに向かった。
 
時刻は午前11時。
VRCの前で待っていれば会えるかもしれない。そう思い、しばらく待つことにした。ルイは律儀にも受け付けにて玄関前で人を待たせて欲しいと伝え、許可を貰った。
 
「食堂もメニューは少ないそうですが、一応開いているそうなのでお昼になったらここで頂きましょう」
 全員で玄関横のベンチに腰掛ける。
「シド来るかな?」
 と、カイ。
「待ってたら来ないかも。遠くから私たちに気づいたら引き返すかも」
「確かにそうかもしれませんね。少し早いですが、食堂で待ちましょうか」
「シド来ても食堂からじゃ見えないんじゃない?」
「そうですね……」
 受け付けの店員に頼んで教えてもらえるだろうか。
 ヴァイスの肩で大人しくしていたスーが、ここぞとばかりに拍手をして名乗り出た。──僕に任せて!と言っている。
「スーさんなら気づかれずに待っていられそうですね」
 
シドのことはスーに任せることにして、一行は食堂へ向かった。スーは受け付けの前の待合テーブルの上で待つことにした。きちんと許可をもらって水を入れた小鉢の中に入っている。
 
アールたちは食堂でカレーライスを頼んだ。
 
「シドもここでごはん食べたかなぁ」
 と、カイは待ち遠しくて仕方が無いようだ。けれど、わくわくしているというよりはそわそわしている。シドと会うことに不安もあるようだ。
 
カレーライスが運ばれてきて食べていると、食堂に従業員の男性がやってきた。そして、真っ先にアールたちのテーブルへ。
 
「えーっと、君たちがワオンさんの知り合いかな? シドって人を待ってるとか」
「あ、はい」
 ルイは慌てて水を飲み、応対する。
「残念だけど今日は来ないかもしれないよ」
「なぜでしょうか……」
 アールたちも思わず手を止め、話を聞き入った。
「昨日来たときに、『明日も来てくれよ』って言ったんだ。一昨日も来てくれたからな。でも曖昧に返されたんで、『用でもあるのか?』って訊いたら『ちょっとな』って」
「そうですか……」
 
やっと会えると思ったのに、脱力。
 
「まぁまだわからないが一応伝えておこうと思って」
「ありがとうございます」
 男はそれだけを伝えると持ち場へ戻っていった。
「入れ違い、というべきでしょうか」
「なんかちょっと緊張してたのが一気に解けた感じー…」
 と、カイはがっかりしながらカレーを口に運ぶ。
「用ってなんだろ」
 アールが言うと、一斉に考え始めた。
「誰かに会うつもりならいいのですが。例えば実家に顔を出すとか……」
「うーん……とりあえず元気だってこと伝えるだけなら電話で済ませそう。携帯電話持ってなくてもどこかからか掛けられるんでしょ?」
「そうですね、確かにシドさんなら……」
「仕事探しとか?」
「なるほど……」
「宿、探してみる? 運営再開してる宿って限られてるかも」
「ですが、個人情報を教えてくださるでしょうか。VRCの場合はワオンさんの人脈がありましたが、宿はそうもいきません」
「そっか……」
「あのさぁ」
 と、カイは口にカレーを含みながら、一点を見つめた。
「俺さぁ、シドは外にいると思うんだけど」
「え? 外? 外って……街の外?」
 と、アール。
「とりあえずVRCで今の自分がどれだけ動けるのか確かめたと思うんだ。それで大体わかったから外に出ることにした」
「いくらなんでも早すぎませんか? 手っ取り早いのが好きなのはわかりますが、危険すぎます……無謀というか……」
「でも確かクルミ村で周辺に出る魔物について訊いてきたって言ってたよね?」
 と、アール。「外に出ようかと思ったから訊いたんじゃない?」
「そんなまさか……」
「そのまさかだよ……ね?」
 と、アールがヴァイスを見遣ると、ヴァイスも小さく頷いた。
「あぁ」
「シドならありえるっていうかさぁ、シドならそうすると思うんだけど」
「みなさんがそう言うなら……カレーを食べ終えたら外へ出てみましょうか」
「そうしよう」
 
急ごうなどと誰も口にはしていないけれど、熱いカレーと水を交互に口に流し入れた。味は普通だ。空腹時に食べたら美味しかったことだろう。
ヴァイスはスーを忘れずに肩に乗せた。VRCを出て問題に出くわす。シドは表と裏、どちらの出入り口から外へ出ただろうか。
 
「さすがに裏口か表口かはわかりませんね」
「裏!」
 と、またもや即答してみせるカイ。
「表だと旅人と出くわす可能性あるじゃん? 今の自分はあんまり人に見られたくないと思うんだ。表口は基本街の住人が出入りするとこだし」
「じゃあ裏から捜してみましょう」
 
不自由な体を抱えた今のシドが外に出るとしたら明るい時間帯だろう。いくら危険な場所へ自ら突っ込んでいくシドでも、バカではないのだ。危険だと思えばすぐに街へ引き返すか、近くに休息所があればそこへ避難するだろう。
 
アールは剣を抜いた。早速魔物が現れたのである。
この辺の魔物は今のアールにとってはさほど強くはなかった。時折強い魔物が現れることもあったが、手こずるほどではない。弱い魔物と戦うことで自分の成長を感じた。
 
シドのことを考えると、それほど遠くまで行ったとは考えにくい。でも、“まだいける”と思ったのなら先へ進みそうだ。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -