voice of mind - by ルイランノキ


 歓天喜地6…『シドの行動』

 
午後10時半。
 
アールとルイがモーメル宅にお邪魔すると、カイがテーブルに伏せて眠っていた。モーメルとヴァイスの姿はなく、スーもいないようだ。
 
「どこへ行ったのでしょうね、こんな時間に」
 と、ルイは台所へ。
「二階見てくる」
 アールは二階へ上がり、一部屋ずつ見て回ったが誰もいなかった。
 
階段を下りると、ルイが台所からコーヒーを運んできた。
 
「飲みますか?」
「うん、ありがとう」
 
アールがテーブルの椅子を引くと、浅い眠りだったのかその音でカイが目を覚ました。
 
「あれ……アール?」
「起こしてごめんね。モーメルさんたちは?」
「ばあちゃん? いないの?」
 と、周囲を見遣る。「ルイも来てたんだ」
「カイさんもコーヒー飲みますか?」
「ミルクコーヒーがいい」
「かしこまりました」
「モーメルさんはカイが眠ってから出てったみたいだね。ヴァイスは? いつもどおりふらっと?」
「だと思うけど」
 と、目を擦り、携帯電話を見遣った。誰からも連絡は来ていない。
 
アールはコーヒーを飲みながら、ヴァイスにメールを打った。
 
【お散歩中? 私もルイも今モーメルさん家。でもモーメルさんいないの。知らない?】
 
コーヒーを飲み終わる前に、返事が来た。
 
【沈静の泉にいる。すぐに戻る】
 
「……これってさ、」
 と、アールはメールの文章をルイに見せた。
「ヴァイスが? モーメルさんが?」
「アールさんからはなんとメールをしたのですか?」
「“お散歩中? 今モーメルさん家にいるけどモーメルさんがいないの。知らない?”って送ったの」
「お2人共沈静の泉にいるのかもしれませんね」
「そっか。でもなんであそこに?」
 と、以前その場所へ行ったときのことを思い出す。「なんか、懐かしいね。沈静の泉」
「そうですね、あの時はハラハラしましたよ。アールさんが飛び込んでしまって」
 ルイもコーヒーを飲み、懐かしそうに言った。
「あはは、ごめんね。無茶しちゃった」
「怖くなかったの?」
 と、カイ。
「んー…怖くなかったのかも。どうにかなるって思ってた。沈静の泉について聞いてはいたけど詳しく知ってたわけじゃないから。よく知らなかったから行動出来たのかも。今はもう……入りたくないもん」
 
ヴァイスとモーメルは、15分程して戻ってきた。ヴァイスの肩にはスーが乗っている。
 
「おかえりなさい。お邪魔しております」
 と、ルイ。
「騒がしいのは嫌いなんだがね」
「すみません……。今日だけでも泊めていただけませんでしょうか」
「静かにしているなら構わんよ」
「私もいい?」
 と、アール。
「好きにしな」
 モーメルはアールの顔を見ることなくそう言って、キッチンへ移動した。
「沈静の泉にはなにをしに?」
 ルイがヴァイスに訊いた時、アールの携帯電話が鳴った。
「いらなくなった魔道具を捨てに行った。私は付き添いだ」
「そうでしたか」
 と、答えながらアールを気にかける。
「まさかのアサヒさんから電話……」
 着信相手を仲間に伝え、電話に出た。「もしもし」
 
調べると言ってくれたものの、こんなに早く結果報告が来るとは思わなかった。適当に調べたのか、すぐに情報が入ったのか。
 
『俺だけど』
「はい……なにかわかりましたか?」
 
「なんでアサヒ?」
 と、事情を知らないカイが怪訝な表情を浮かべる。
「アールさんが、シドさんの失踪と組織が関わってないか調べてほしいとアサヒさんに連絡していたのですよ」
「調べてくれたってわけ?」
「どうなのでしょうか……」
 ルイ、カイ、ヴァイスはアサヒと電話をしているアールを気にかけた。
 
『あぁ。病室に出入りしていた組織の人間がいたらしい』
「え……じゃあその人がシドを連れてったんですか?」
 アサヒの声は聞こえないため、アールのその言葉にカイは不安そうに視線を落とした。
『いや、それがそうじゃないらしい。これは直接訊いたんじゃなくて盗み聞きして得た情報だからどこまでが事実かまではわからないけど、寝たきりのシドを連れ出す計画は進んでいたらしいんだよ。けどいつの間にか病室が移動したとかでどの部屋に移動したのかわからなくなって、突き止めようとしていた矢先に失踪事件が起きたってわけ』
「じゃあ……失踪には関わってないってことですか?」
 カイが勢い良くアールを見遣る。話の展開が読めない。
『いや、それが今度はもうひとりの男の存在が出てきたんだ』
「もうひとり?」
『病室に入り込んだ男は俺が調べた限り二人いる。っていうのも、病室へのゲートをいつでも開けられる状態にしていたらしいんだよ。シドを連れ出す予定だったからすぐにでも実行できるようにね。目を離した隙にそのゲートを他の誰かが使った形跡があったって言うんだ。調べたら第二部隊の男でね、そいつ曰く、第一部隊に頼まれて透明マントを届けに行ったって言うんだ』
「え……? なんでそんなもの……」
『さぁねぇ。第一部隊の誰に頼まれたのか、何のためにそんなものを持っていったのか、答える前に死んだから』
「死んだって……どういうことですか?」
『誰かに殺された。首に全く似合わないチョーカーを付けてたらしいんだけど、それが爆発したんだ』
「…………」
 なにがなんだかわからない。
『ま、俺が短時間で調べられたのはこれくらいかな』
「……あ、ありがとうございます。大丈夫ですか?」
『ん? なにが?』
「私が頼んだことですが……敵から頼まれて嗅ぎまわったりして」
『別に? 失踪した男について調べたかったから調べただけだ』
「そう……」
『それと、そろそろ痺れを切らしそうだよ。アリアンの塔。いつまで待たせる気?』
「あ……すいません……もう少しだけ……」
『シドに関してはこっちも捜しているようだから、任せてくれると助かるんだけどなぁ』
「あ……はい……」
『まぁ近々こっちから連絡するよ。それか直接誰かがあんたのところに行くかもしれない。一応伝えとく』
「ありがとうございます」
 
アサヒからの電話が切れると、カイが身を乗り出してアールを見遣った。
 
「なんて?! どういう電話?!」
「…………」
 アールは話の内容を頭の中で整理して、笑顔を向けた。
「シドがどうやって病室から失踪したのか、わかった」
「どういうことでしょうか」
 と、ルイ。
「透明マント」
「へ? 透明マント?!」
「それはシドさんが持っていたものですか?」
「ううん。それが……どこから話せばいいんだろう」
「1から話して!」
 と、カイ
「まず、シドの病室をゲート魔法で出入りしていたのは2人いたみたいなの」
「組織の人間ですね?」
「うん。でも、ひとりは勝手にゲートを使ったみたいなの。その人が、透明マントをシドに渡して……死んだ」
「え? 急に話が飛んでない?」
 と、カイは首を傾げる。
 
アールはアサヒから聞かされた話をなるべく一語一句伝えた。
 
「謎ですね……」
 と、話を聞いたルイは頭を悩ませた。
「じゃあさじゃあさ、シドは自分でそのマント使ってどっか行ったってこと? 組織に連れて行かれたんじゃなくて!」
「アサヒさんからの情報だとそうなるね」
「でもさぁ、確かに透明マントを被ってたらシドの姿は防犯カメラには映らないけど、部屋から出たんならドアが勝手に開いたりするんじゃないの? 病院の人たちなんにも言ってなかったけど」
「あ……そこで看護師だ!」
 と、アールはルイと目を合わせた。
「そういうことでしたか……」
「俺にもわかるように説明してよ!」
「メールしたはずですよ、シドさんのお世話を担当していた女性看護師さんがひとり、急に辞められたと」
「そういえばそんなメール来てたような……」
「病室で眠るシドさんを最後に見た看護師さんです。その看護師さんが出入りするときに透明マントを被ったシドさんが出て行ったと思われます」
「納得!」
 と、カイは目を見開いた。「その看護師って、共犯者ってこと?」
「おそらく。もしその看護師さんが何も知らなかったとしてシドさんが眠っているのを本当に確認していたのであれば、シドさんが病室を出て行くタイミングはヒラリーさんがお見舞いに訪れた時くらいではないでしょうか。病室の扉の前で息を潜めて待ち、ヒラリーさんが入ってきたと同時に飛び出した。……ですが、それだとすぐに騒ぎになっていますのでいくら透明マントを被っていても行方をくらませるのは難しいと思います。透明マントは姿を消せるだけで息遣いだったり足音までは消せませんから」
「じゃあやっぱり看護師さんは知ってたのかもね」
 と、アール。「協力した」
「本当はシドが起きてるの知ってて、嘘をついたとか?」
 と、カイ。
「そう。そしたらヒラリーさんが来るまでの間、不自由な体でも少しは行方をくらませる時間があったはず」
 

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