voice of mind - by ルイランノキ


 隔靴掻痒12…『トロール島』

 
人の気配がない島の夜は、とても不気味だった。
アールは森の中へ足を踏み入れることを拒んだ。人が住んでいる気配は今のところないが、森の中になにもいないとはいえない。
 
「こんなところで一夜を過ごすの……?」
 
テントもないのに。結界紙は持っている。けれど眠るためだけに使うのは勿体無い。なるべく使わないようにしようと思った。
浜辺に座ったが、森を背にすることも海を背にすることも不安で横向きに座った。海や森からなにかが飛び出しても咄嗟に対応できるよう、剣は手に握っておいた。
 
もちろん、携帯電話で仲間と連絡を取ることも試みた。しかしここは圏外で、繋がらなかった。なにかが起きるのを待つしかない。組織の連中がこのまま自分を放置するとも思えない。仲間はきっと居場所がわからないはずだ。携帯電話にGPS機能でもついていない限り。
 
ぎゅるるる、とお腹の虫が鳴いた。
 
「…………」
 
お腹を擦り、仲間たちは大丈夫だろうかと不安になる。仲間が負けるとは思えないが。
ネックレスにしていたタケルの武器に触れる。
 
「タケル……いざというときは、手を貸してね」
 
──長い夜が過ぎてゆく。
 
空が明るさを取り戻し、朝を迎えると、森の奥からバキバキと枝をへし折る音に目が覚めたアールは、いつの間にか眠っていた自分に驚いた。体についた砂を払い、武器を構えて森を見据えた。音はどんどん大きくなり、近づいてくる。
 
「あーもう……うそでしょ」
 
ごくりと唾を飲み込んだ。こんな巨体をどこに隠していたのかと思うほど馬鹿でかいトロールの頭が森の奥から顔を出すと、3つ目がアールを捕らえた。咆哮を上げ、金棒を振り上げる。
 
「腹減ってる上に寝起きにトロール戦とかッ……誰か夢だと言って!」
 
アールは森に向かって走り出した。攻撃をしかけるのではなく、身を隠すためだ。巨大な敵の弱点のひとつとして、小さなものを探すのが苦手だけどこっちからは丸見えだということだ。
 
アールは森の中へ入り込むとトロールから距離を取った。なるべく離れ、ひとり作戦会議。
 
「トロールの弱点ってなんだろ……」
 トロールはファンタジーものではよく見かける。雪斗もRPGで戦っていたような気がする。でも弱点まではわからない。
 
一先ず攻撃魔法がどこまで通用するか、頭を狙ってみようと思った。頭が弱点の生き物は多い。
トロールはアールを見失い、苛立っていた。金棒を振り回して周囲の木々を倒してゆく。視界が開けると動きやすいが、その分見つかりやすくもなる。アールは頭を狙いやすい場所を探した。暫く探し回っていると、岩がピラミッドのようにつまれた場所を見つけた。駆け上がり、遠くに見えるトロールの頭に向かって攻撃魔法を飛ばした。気配を感じて振り返ったトロールの顔面に命中。
 
「倒れろっ!!」
 
アールが願うと、願った通りにトロールは真後ろへ倒れ込んだ。
 
「え、なんだ……弱いんじゃん」
 でかいからといって強いとは限らない。
 
しかし、安堵したのもつかの間だった。今度は別の方角からもう一回り大きなトロールが現れたのである。
 
「……トロール島?」
 勝手にそう名づけた。
 
どこから湧いて出るのか。アールはピラミッドを駆け下り、死角に逃げ込んだ。
 
「もしかしてあれを倒したらまた一回り大きなトロールが出てくるんじゃないの?」
 
それならばどこかに隠れておいた方がいい。けれど、この島のどこにあんな大きな身を隠していたのか。島の全貌がわからない。自分が思っているよりも巨大な島なのかもしれないと思いはじめた。もしくは──
 
「ムスタージュ組織の仕業?」
 それも考えられる。
 
どこからか見ていて、どこからか送り込んで来ているのではないだろうかと。もしそうだとしたら目的は? 私を危険な目に合わせる目的。
 
「覚醒待ち……かな」
 
自分が一番知りたい。私にはまだ力があるという。私の自身、最近感じていることでもあった。でもどうやってその力を放てば良いのかわからない。どうすれば発揮できるのか。仲間が殺されそうになったときも、自分が死にそうになったときも、いつもギリギリだった。引っ掛かっている感覚。その先へ行けるのにいけない感覚。
 
トロールの足音が近づいてくる。巨体のせいで地面が揺れる。
 
「死なれては困るよね」
 と、アールは呟いて、再びピラミッドの上まで駆け上がると、目の前にトロールの姿があった。
 
トロールを見上げると、トロールもまた小さなアールを見下ろしていた。
 
「どこから来たの? 巨人さん」
 

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