voice of mind - by ルイランノキ


 隔靴掻痒9…『第二部隊』

 
「アールさんッ!!」
 油断していたルイがロッドを構えたが、トリスターノがアールの首に刀を当てたまま後ろに下がったため、躊躇した。
 
トリスターノの後ろにルーカスとセルも立っている。
 
「グロリアは連れて行く。シーワンの大剣を見つけ、アリアンの塔へ入れるようになったら連絡しろ」
 
組織としてはいつ見つかるかもわからないものに時間を使いたくはない。アールが居なければ塔があるこの空間テンプルムへ入れないため、組織は一先ずアールを連れて撤退することを選んだ。
 
ルイとヴァイスは組織がアールを連れて行ったからといって彼女に危害をくわえることはないだろうとわかってはいるが、気が気ではない。それに。
 
「アールさんがいなければ、見つからないかもしれません。先ほどの大剣はシーワンではなかったとはいえ、あの場所に気がつけたのも、あの湖が聖水であることに気づいたのも彼女がいたからです。僕等だけでは……見つけられないかもしれません」
 どうにか連れて行かれないようにとそう言った。
「だったらお前等が出て行くんだな。グロリアだけいればいい」
 トリスターノがそう言うと、セルとルーカスは戦闘体勢になった。
「彼女は渡しませんよ」
 ルイは魔力の回復薬を飲み、ロッドを構えた。
 
今にも戦闘が始まるというときに、事態は一変した。
 
「シドが!! シドの意識が戻ったって!!」
 と、洞窟に身を隠していたカイが大慌てで飛び出してきたのである。その手には携帯電話が握られている。
 
アールたちは一斉にカイに目を向けた。──シドの意識が戻った……?
組織も同じだった。急な展開にアールの身動きを奪っていたトリスターノの刀がほんの少しだけアールの首から離れた。
カイはアールの目を見て言った。
 
「ほんとは一週間前から目ぇ覚ましてたらしいよ!」
「?!」
 
アールは体をひねってトリスターノに剣を振るった。トリスターノがバランスを崩すとすぐさまルイはアールを結界で囲み、風の魔法で組織の3人を吹き飛ばした。
 
「大丈夫ですか?!」
 と、ルイが結界を外しながら走り寄る。
「カイのわかりやすい“嘘”のおかげで助かった……一瞬信じたけど」
 と、アール。
 
カイは組織の気を散らそうと咄嗟にシドが目を覚ましたと嘘をついたのである。
 
「どおりでタイミングが良いわけですね」
 
ヴァイスはトリスターノに銃口を向けた。トリスターノは立ち上がり、ハルペーを二本構えた。二刀流だ。トリスターノが地面を蹴り上げると戦闘が始まった。
ヴァイスがトリスターノを請け負った為、セルとルーカスにロッドを向けたルイ。
 
「困りましたね」
 と、ルイは眉間にしわを寄せる。
「え?」
「ルーカスという男は、どんな魔法をも無効化にする魔法を使えるようです。勿論、攻撃魔法も使えるので、こちらからの攻撃は効かずに向こうからの攻撃を受けるばかりになりそうです」
「おじいさんは?」
「彼は今のところわかっているのは魔法を強化、攻撃魔法、あとは……転送魔法でしょうか。彼には警戒してください」
「ルーカスは私が請け負う」
 アールはそう言って、剣を構えた。
「決して無理はなさらず」
「うん」
 
カイは携帯電話をポケットにしまい、流れを読んだ。結局戦闘にはなるんだなとため息をつく。武器が刀からブーメランになったことで、遠隔攻撃が可能になった。邪魔にならないように身を隠し、仲間がピンチになったときに攻撃を仕掛けようと自分の出番を待つ。
 
ヴァイスの肩に乗り損ねたスーも、仲間の行動を見ながら自分が役立てる瞬間を待った。ヴァイスとトリスターノは崖の上へ移動。ヴァイスの銃弾を軽々と交わすトリスターノはハイマトス族特有の素早さを持っていた。ルイとセルは互いに様子を見ながら相手の出方を待っている。アールは構えた剣に鞘を被せ、ルーカスとの距離を詰めた。
 
「相変わらず人は斬れないか」
 ルーカスはそう言って嘲笑った。
「よくご存知で……」
「そんなだといつまで経っても人は斬れないぞ。魔物と同じように殺しまくって慣れないとな」
「人は殺したくないので」
 
そう言いながら脳裏にムゲット村で会ったハイマトス族が浮かんだけれど、霧のように消えて行った。
 
「お友達を殺しても?」
 シオンのことだ。
「あれは……殺したんじゃない。組織から助けたの」
「命を奪ったことに変わりはない」
「組織に殺されるよりは……」
「彼女は組織に殺されることを望んでいた。敵に殺されるよりもな」
 
 信じない
 
彼女が最期に言った言葉。それもまた、霧のように消えていく。
 
「……うるさい」
「さぞ、悔しかったことだろう」
 と、両手を構えた。彼はロッド等の魔道具は使わずにハンドポルトを主に使いこなす魔導師だ。
 
動揺でドクドクドクと脈打っていた鼓動が、なんのきっかけもなく突然平常に戻った。アールは鼻で笑い、地面を蹴った。
 
「──もう、過ぎたこと。」
 剣を振り上げ、ルーカスの頭を狙った。
 

心の中に時折湧き出る黒い渦。
それは戦闘の邪魔になる私の純白な部分を濁してくれるもの。
 
殺してしまうのではとハラハラする部分を黒く塗りつぶしてくれるもの。

 
「お、スーちん。スーちんも自分の出番を待ってるのだね?」
 洞窟に身を隠しているカイの元に、スーが移動してきた。
「スーちんもなるべくアールを見ててね。鞘に収めたままだからルーカスの動きを止めるのは難しいと思うし」
 パチパチと、スーは拍手をした。
 
ルイはなかなか動き出そうとしないセルを前に、少し困っていた。ルイもむやみやたらに人を攻撃するタイプではない。いくら組織の人間であるとはいえ、攻撃してこない相手に動く気にはなれない。
 
「そのバングルは国王に貰ったものかね」
「え……」
 自分の力を制御しているバングルを見遣った。
「国のシンボルが刻まれているようじゃが」
「えぇ……」
「恐ろしい少年じゃな」
「…………?」
「仲間にならぬか」
「僕は、組織の人間にはなりません」
 シドからも勧誘を受けていたことを思い出す。
「惜しのぉ。仲間にならんと言うなら、その秘められた力だけでもシュバルツ様への土産に持って帰りたいものじゃ」
 杖をルイの方へと傾けた。
「生憎アーム玉は安全な場所に保管しております」
 ルイもロッドを構えた。
 

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