voice of mind - by ルイランノキ


 切望維持7…『ゆっくりとした時間』

 
ルイが病院の玄関から外へ出ようとすると、まだ病院内にいたマルックが声を掛けてきた。
 
「やっと予約受け付け終わったよ。明日健康診断だ」
 受け付けの番がとっくに来ていたが待機所にいなかったため後回しにされていたようだ。
「そうでしたか」
「ひとりでどこ行くんだ?」
「宿を探しに。マルックさんは宿ですか?」
「あぁ、仲間に俺の実家に泊まれってすすめられたんだが、家族水入らずの邪魔するわけにはいかないしな。俺が泊まってる宿見てみるか?」
「えぇ、よろしいですか?」
「おう。つっても、この街にある宿は3つで、ひとつは部屋が空いてなかった。もうひとつは宿泊費が高いよ。豪勢な料理つきだし、去年出来たばかりの綺麗な宿だからなぁ。3部屋ほど空いていたが、一番高い部屋だった」
「でしたらもうマルックさんが泊まっている宿に空きがあればそこに」
「それがいい。またゆっくり話せるかもしれないしな」
 と、マルックは自分が泊まっている宿までルイを案内した。
 
シドが入院している町はパウゼという町で、ルイがモーメルに連絡を取り、そのときに紹介してくれたのが魔法治療を専攻としているここの病院だった。主に魔物や魔法によって負傷した重症な患者が運ばれてくる。値段は張るが設備は整っており、信頼できる病院らしい。
町並みは至って落ち着いており、地味と言えば聞こえが悪いが、流行に目がない若者が好みそうな派手な建物はどこにもない。
 
宿に着き、空き部屋があったためそのままチェックインを済ませた。病院から宿まで徒歩10分程度、わかりやすい場所にあるため、電話ではなくメールでアールに伝えた。
 
「カイはシドの腕が腐りかけていたから斬り落としたって言っていたが、本当はなにがあったんだ?」
 と、マルック。
「……詳しくは話せないのですが」
 と、ルイは言葉を濁した。
「そうか。ならいいさ」
「感謝します。マルックさんはなぜ旅を?」
「詳しくは話せないな」
 と、ルイと同じように答えた。
「でしたら、僕も無理には聞きません」
 と、笑顔を向ける。
「助かるよ。ま、大した理由じゃないんだがな。また時間があるときに時間が合えば話そう。お隣さん」
「お隣? マルックさんは隣の部屋なのですか?」
「おう」
 
アールはルイからのメールを確認し、宿の名前と場所を二人に伝えた。
 
「ヴァイス、スーちゃん迎えに行く?」
「…………」
 ヴァイスは暫し考える。どこに行くにもついて来ていたスーが自ら拒んだ。理由があるのなら、無理に迎えに行くのはいかがなものか。
「スーちんどうしちゃったの? 反抗期?」
 と、カイはシドに買ったエロ本をパラパラとめくった。
「モーメルに様子を窺おう」
 と、ヴァイスは病室を出て行った。
「スーちゃん、ほんとどうしたんだろうね」
「うほ、過激! 刺激的!」
「なんか……バラバラになったりしないよね?」
「へ? みんな?」
 カイは雑誌からアールに視線を移した。
「うん……」
「なんでバラバラになんのさ。なるわけないよ」
「そ? カイはまた旅やめるとか言い出さない?」
「……うん」
 と、シドを見遣り、ワンテンポ遅れた返事をする。
「即答じゃなかった」
 しゅんとするアールに、カイは笑った。
「あはは、違う違う。シドのこと考えただけだよ。シドが戻ったときもしも俺がいなかったら寂しがるんだろうなぁって一瞬妄想しただけ。 それに俺、結構楽しいんだー。相変わらず魔物は怖いけどさぁ、俺も俺なりに強くなってる気がするし!」
「うん」
 と、笑う。
「シドも戻ってくるよ。すぐに」
「そうだね」
「そういえばさっきの気になる」
 と、カイは雑誌に視線を戻した。
「さっきの?」
「エロ本は内容と数による、だっけ?」
「まぁ……そういう本を読むのは仕方ないとは思うけど、過激すぎるものとか、犯罪を匂わすような内容のものだと色々不安」
「あはははは! まぁ現実と混合してる人はほとんどいないとは思うけど確かに危ない人はいるよねー。幼児好きの変態さんはそういうの読むだろうしぃ」
「あとこっちに求められても困るって思う内容のものとか……」
 と、アールはシキンチャク袋から水筒を取り出した。
「求め……?」
 と、カイは妄想の世界へと入っていく──
 
アールがなにを求められるって? アールがなにを求められて困るって?
例えば……痴漢プレイとか?
アールが今日は旅がお休みだからといつもの防護服を脱いでミニスカートを履いて、たまにはいいでしょ?なんて言いながらルヴィエール辺りにひとりでお買い物に行く。俺はそんなミニスカート姿のアールをもっと拝みたくて内緒で後をつけることにする。アールは鼻歌を歌いながらお洒落なお店を見て回り、歩くのに疲れてミニバスを利用することにした。空いている席はちょうど二つ。でもどちらも隣には男の人が座っている。アールは薄汚い男よりはと爽やかそうないかにも優しそうな青年の隣に座った。そのため変装している俺は薄汚いおっさんの隣に座ることになる。俺とアールの席は通路側。そして俺の席の斜め前がアールだ。斜め後ろからアールをずーっと眺める。椅子に座ったことで数センチ上に上がったスカートの裾。そこから伸びるアールの健康的でありながらも細くて可愛らしい生足。ずっと眺めていると、アールの様子がおかしくなる。なんだか下を向いてもぞもぞしている。トイレにでも行きたいのかななんて思いながらニヤニヤしているとアールのスカートの裾がどんどん上がっていき、向こう側から男の手が見えて──
 
「ねぇ聞いてる?」
 と、アールはぼーっとしているカイに声を掛けた。
 妄想に浸っていたカイは現実へと引き戻された。
「へ? あ、なになに?」
「考え事?」
「んー、まぁそんなとこ」
「超ニヤニヤしてたけど」
「まじ?!」
 と、両手で顔を覆った。
「嘘だけど、ニヤつくようなこと考えてたんだ……? そういう雑誌見るのはいいけど私の前で見るのはやめてよ……」
「あ、ごめん。嫌だよね。でも安心して」
 と、雑誌を閉じた。「ここに載っているようなプレイを求めることはないから」
「すっごいセクハラだよねそれ」
「さて。今日の夕飯はなんだろう」
 
話題を変えながら、今度アールにミニスカートをプレゼントしようと思った。
 

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©Kamikawa
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