voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-8…『取ってつけ』


人には人の人生があって、誰だって幸せを夢見てる。
自分の立場など関係なく、他人の幸せを喜べる人間は心が温かくて優しくて素敵だ。
 
そういう人間になりたいと思ってる。
人の幸せを妬みながら生きるなんて、そんな惨めで救いようのない生き方はしたくない。
大切な人の幸せほど、心から喜んで祝福するものだし。
 
なのにどうしてかな。
心が泣いてしまうのは。

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【アールちゃん元気? この前電話したときにも話したけど、新しいお仕事、やっと馴染めてきました! 最初は不安だったんだけど、みんな優しくて! 今度歓迎会してくれることになったの! 今まで働いてきたけどどれも元彼のためだったし、全然やりがいとか感じられなくて辛いものでしかなかったけど、今はワオンさんもいるし、すっごく充実してる☆ 幸せって、こういうことを言うんだね。新生活ははじまったばっかりだし大変なこともあるけど、ワオンさんと一緒ならどんなことも頑張っていけそうな気がします。ううん、がんばっていきます! あ、そうだ、ワオンさんってばほんとどこか抜けてるの! 話したいことがあるから今度電話してね! アールちゃんは最近どう?】
 
「…………」
 アールは、ミシェルからのメールを読むと、携帯電話を閉じてポケットにしまった。
「ベンさんがんばれーっ」
 と、今はベンが走っている。
「どなたかからメールですか?」
 と、ルイ。
「うん、ミシェルからだった。緊急じゃないみたいだから、あとで返す」
「そうでしたか。お元気そうでしたか?」
「うん」
 
 “話したいことがあるから今度電話してね! アールちゃんは最近どう?”
 
自分が話したいことを話して、最後は取ってつけたような、こちらを気にかける質問。
最近どうって……なに。本当に知りたい?
 
「…………」
 自分の表情が暗く沈んでいることに気付いたアールは、顔を上げてベンを応援した。それは明らかに不自然にヴァイスの目に映る。
 
人間という生き物は、他の動物に比べて頭脳が無駄に発達している分、余計なことを考えてしまうものだ。一番残酷で一番哀れな生き物は人間なのかもしれない。
 
ベンは次に来る障害物を待っていたが、障害物エリアは終わったのかそのまま高台の前、長い滑り台の下へとたどり着いた。鉄の板が高台のてっぺんまで真っ直ぐに敷いてある。その脇にある看板にはこう書かれていた。《物を使わずに上れ。反則したもの、落とす》。
 
「とにかく上ればいいのか」
 
高さ50メートル、幅は3メートル。持つところなどない、滑り台。
ベンは一先ず助走をつけて駆け上がってみることにした。全力疾走で駆け抜け、滑り台を駆け上がろうとしたが、6歩目で足が滑り、そのまま下まで落ちてしまった。
 
「ん、楽しそうだねぇ」
 と、カイ。
「頭使わなきゃ」
「アールの? 役に立つの?」
「どういう意味よ」
「物を使ってはならない」
 と、ルイ。「身に着けているものはいいようですね、靴などは」
「汗ばんでいるのを条件に真っ裸で駆け上ったほうが滑らないと思うから、アール行ってらっしゃい」
 と、カイ。
「なんで私なの! 自分が行けばっ?!」
「俺の裸が見たいからってそれはないよ! エッチ!」
「それ私のセリフっ!!」
「確かに素足の方が上がれるかもしれませんね。ただ距離が……」
 と、ルイは高台を見上げる。
「試してみなくちゃわからない」
 と、アールは靴を脱ぎ始めた。
「アールさんが行くのですか……?」
「まっぱで?!」
「素足で。」
 と、靴下も脱いだ。しかし。
「痛い……」
 と、切ない表情でルイを見遣る。助走をつけようとしたが助走をつける道はただの地面だ。石ころが痛い。
「助走はつけられませんね……」
 結局アールは砂だらけの足をはたいて茣蓙へ戻った。
「砂ついちゃったからサラサラになっちゃった」
「おバカちんだねぇ」
 
──と、今度はヴァイスの肩にいたスーが自ら飛び降りて自分が行くと主張した。
 
スーは自分の体を平たく伸ばし、ペタンと鉄の板にへばり付いた。そして頭の方を半分はがして体を伸ばし、ぺたんとくっつけると、今度は下側を半分はがして体を縮めた。それを繰り返しながら、少しずつ、上ってゆく。
 
「おぉ、張り付いてる!」
 と、感動するアール。
「んでもゆーっくりじゃん」
 と、カイ。
「いいの! ゆっくりでも確実に一歩ずつ頂点に向かってんだから」
「でも2番手の奴そこまで来てるしぃ」
「えっ」
 
ロープ上りにたどり着いたチームがいた。それも2チームだ。仲間が7人いる一番人数が多いチームと、1人脱落して現在4人で挑んでいるチームだ。
 
「3番手まで! でも……あの人たちでも無理でしょ、上るの」
 そう思い安心していたが。自体は急変した。
 
2番手に滑り台の下までたどり着いた男の1人が片手を滑り台に向けて翳すと、突き刺すような冷たい風が吹き荒れて、いびつな氷の階段を作り出したのである。
 
「え?! あれありなの?! 魔法ダメでしょ!」
 そう思ったが、失格になる様子はない。
「僕も魔法は使ってはならないと思っていましたが、そういえば《魔道具》を使ってはならないという言い方をしていたので、僕のようにロッドなどを使った魔法は禁止で、彼はハンドポルト、なにも持たずに魔法を使っていますので有りなのでしょう」
「ルイ……は無理……?」
 と、アールはルイの手首に嵌められているバングルに視線を向けた。
「あの距離分は……」
「どうしよう……」
 
反則にはならないことを示すように、看板に書いてある《反則したもの、落とす》は実行されていない。男はあっという間にスーを追い抜いたが、スーも黙ってはいなかった。滑り台から体をはがすと、男の顔に向かって飛び跳ね、目を塞いだ。
 
「うわっ! なんだこいつ!!」
 
両手で引き剥がそうとしても、スーの体はびよんびよんと伸びるばかり。そうこうしている間に3番手のチームが氷の階段を上ってくる。
 
「彼が造った階段を上るとしても、高台の近くまで造ってもらわなければなりませんね」
 と、ルイは言う。
「じゃあそれまで見守って、ぎりぎりのところで邪魔に入る?」
 と、アール。
「それが名案かと。しかし彼も黙って譲りはしないでしょうね。彼にも魔力の限界があるでしょうし」
「バトルだね」
 と、アールはシドをチラ見した。
「俺っちはケンカ好きじゃないのでパスしますですはい」
「カイには頼まないよ。ていうかカイはさっき失格して参加できないでしょ」
「まぁ……俺が怪我するところなんて見たくないのはわかるけどさ。アールって時々物凄く優しいよね。大丈夫、アールが好きな俺の綺麗な顔は、守るよ」
 仏のような笑みを向けられたアールは、笑顔で顔を背けた。
 
勘違いでいい人に仕立て上げられるのは悪くないけどなんか嫌だなと思う。
 
「スーちゃん呼び戻す?」
「いえ、ぎりぎりまでねばってもらいましょう」
 
ルイがスーの奮闘を眺めていると、後ろでシドが指の骨を鳴らした。それに気付いたルイは、シドに頼もうと思っていたが最初から行く気があるのだとを察した。
 

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©Kamikawa
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